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第5話 未知への随行者(前編)

 ハルカ村で妹のニナに見送られ、爽やかな朝の空気の中で出発したカイは、その強靭な脚力を滑らかに躍動させて街道をひた走っていた。

 まずは村の最寄りの町へ立ち寄り、運び屋として手堅い依頼を引き受ける。

 そこからさらに脚を伸ばし、依頼された荷物を届けるために目的地へと向かった。

 目指すは、この地方で最も栄えている大都市――『交易都市ゼファム』だ。

 引き受けた仕事は絶対に投げ出さず、期日通りに、荷物を届ける。

 それがカイの流儀だった。

「よし、時間通り、無傷で納品完了だな」

 ゼファムの広大な倉庫街で依頼主の商人に荷物を手渡し、無事に受領証を受け取る。

 報酬を手に入れたカイは、ふう、と息を吐いた。

 だが、安堵したのも束の間、背中のバックパックがモゾモゾと揺れ始める。

「きゅ、きゅーぃ……」

 中から顔を出した白銀の子猿――ハヌが、情けない声を出しながら4本の小さな腕で自分のお腹をさすっていた。

 完全に「腹ペコ」のサインだった。

「分かった、今から飯だ。……けどなハヌ、今日はこれだけだぞ。贅沢はさせられないからな」

 カイはそう言って聞かせ、近くの食堂の暖簾をくぐった。

 注文したのは、串焼き肉が二串と、大盛りの麦飯、それにスープ。

 ハヌの前に一串と少しの麦飯を分けてやると、ハヌは4本の腕をせわしなく動かして、あっという間に平らげてしまった。

 案の定、ハヌはまだ物足りなそうに、残りの2本の腕でカイの服の袖をきゅっと掴み、潤んだ目でカイを見上げてくる。

「……ったく、しょうがないな。ほら、俺の分を半分やるよ。これで我慢しろ」

 カイが自分の串焼き肉と麦飯を皿に分けてやると、ハヌは嬉しそうに「きゅぃ!」と鳴き、4本の腕で大事そうにそれを受け取って口に運んだ。

 自分の腹は完全には満たされなかったが、美味そうに食べる相棒の姿に、カイの口元がわずかに緩む。

 とはいえ、これからの食事代と長旅の費用を考えれば、手元にある財布は決して余裕があるとは言えない。

 もっと実入りの良い仕事を、至急見つけなければならなかった。

 カイは食事を終えると、ゼファムの中央にある冒険者ギルドへと足を運んだ。

 広々としたギルド内は、多くの荒くれ者たちで熱気に満ちていた。

 カイは目立つことを避けながら、壁一面に張り出された依頼書へと歩み寄る。

 じっくりと頭の中でリスクとリターンを計算しながら依頼書を眺めていると、端のほうで、ひときわ高い報酬額が書かれた依頼書が目に留まった。

『古代遺構の学術調査に伴う、ポーター募集。長期遠征につき体力、足腰に自信があり、繊細な機材を傷つけずに運べる者。戦闘は同行する護衛が担当』

 提示されている報酬は、先ほどこなした通常の運搬依頼の数倍。これならハヌの食事代を補っても、十分な貯えができる額だった。

 だが、これほどの好条件であるにもかかわらず、周りの冒険者たちはその依頼書を一瞥するだけで、誰も手を伸ばそうとはしなかった。

「おいおい、またあの『お嬢様のワガママ調査』の募集かよ」

「戦闘の手柄は全部あっちのもんだろ? その癖、未開の悪路を重いガラクタ背負って歩かされるなんて、割に合わねえよ。護衛が優秀でも、ポーターはただの奴隷扱いさ」

 口々に文句を言う冒険者たちの声を、カイは冷静に聞き流していた。彼らにとっては不人気な地味仕事かもしれないが、カイの視点は全く異なっていた。

(戦闘は調査隊が引き受ける。つまり、俺が前に出て戦うリスクは極めて低い。未開の地で足場がどれだけ悪かろうが、俺の『膝』があれ安全に運ぶことができる。……地味で上等だ。確実にまとまった金を稼ぐには、これ以上ない最高の案件じゃないか)

 リスクとリターンの見積もり終えたカイは、迷うことなくその依頼書を剥ぎ取った。

 受付で手続きを済ませ、指定された面接場所――都市の裏手にある広い敷地に張られた、格式高い大きな天幕テントへと足を運んだ。


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