19話 住人の受け入れ頑張りますっ!
寝苦しくて少し早く起きた。
東天紅がつんざくより前。まだ空は紫色だった。
それにしても寝汗がひどい。最近は段々と涼しくなっていたのに急に暑くなった。
タオルケットの他に薄手の掛け布団まで出してきたのは失敗だったかもしれない。
私は隣に寝ている澪を起こさないよう静かにベッドから這い出た。
昨日のうちに汲んできた水に手拭いを浸して身体を拭く。常温の水。例年ならば冷たいそれも今は心地よい温度だった。
下着を着替え、外に出る。するとすでに霧が出始めていた。アスファルトの駐車場の先。原っぱはもう霞んでいた。
霧は山を下るように流れている。
私はそれをぼんやりと見ていた。
霧が出ているから当たり前だが、今日は湿度が高い。一度汗をかいたら中々ひかないだろう。うざったいことこの上ない。
私はアスファルトの駐車場から原っぱへと足を踏み出した。
草の先には朝露が付いており、私の足首を濡らす。
きゅっきゅっ、とあきばサンダルで草を踏みしめながら歩いていると、低い音が聞こえた気がした。車のエンジンのような音だ。
しかも、それは段々と近づいてきているようだった。
遠く——牧場へ入る門の辺りからジョンの吠える声がした。
どうやらこのご時世に来客のようだ。
ジョンもすでに向かっているみたいだし、私もすぐに行かなきゃだな。
武器をしまっているコンテナから肉厚のナイフと小銃を取り出し、門の方へと走りだす。あ、この小銃は近くの基地から盗ってきました。
それにしても不思議だったのが、基地に誰もいなかったことだ。なんだかんだ死人は弱い。訓練を受けた奴なら遅れは取らないと思うんだが……?
まあいい。とりあえず今は来客のお出迎えだ。
車のエンジン音からするに、私と車はほぼ同時に門へと到着するだろう。
霧の奥にぼんやりと門が見えてきた。牧場はそのほとんどをフェンスで囲われてはいるが、道路に繋がっているところだけ学校に置かれているような門も置いている。これは車対策だ。フェンスだけだと突っ切られちまうから。
……っと、来たようだな。見えてきたのは黒のクロスカントリー車。某恐竜園映画にも登場した元軍用車両だ。
そのまま突っ込んで来るかと思ったが、以外にも黒のクロスカントリー車は減速し、門の前で止まった。
降りてきたのは三人。私が小銃を向けているからか、三人とも手を上にあげて降りてきた。殊勝な心がけだな! くはは!
茶髪のイケメンが一人と、黒髪ツインテの小柄な女の子。そして金髪のお嬢様然とした女の子が一人だ。
私が声を発する前にイケメンが口を開いた。
「僕たちに敵意はない! 少し食料と水を分けて欲しいんだ!」
切羽詰まった様子でそういうイケメンは嘘を言っているようには思えなかった。
まあ、仮に嘘を言っていたとしても制圧は容易いだろうし問題ないだろう。
あやつらほどの剣や槍の武勇がなければ私は……って、あやつらって誰だよ。私は武道経験者と闘ったことなんてないし……あ、とりあえず返答だな。
いつまでも立たせてちゃ可哀想だからな。
「ん、別にいいぞ」
私があっさり許可を出すとは思っていなかったのか、テンプレを続けるイケメン君。正直面倒。
「武器だって持って——っていいのかい?」
「……なんだよ。 入りたくなかったのか? こんなテンプレのやりとりなんか省いてささっとしようぜ」
私はそう言って門を開け放った。中には入れるとはいえ、完全に信用できてはいないので車は門から入ってすぐのところに置いていってもらう。車は凶器だからな。
私が先導して歩き出す頃には視界の半分を埋める空はすでに青くなっていた。
住居へと歩いている間、三人はしきりに辺りを見回していた。聞いてみると、こんなご時世にこれだけ平和で安全なところがあることに驚いたらしい。
死人が蔓延る世界のはずなのにここは牧歌的だからな。ここが別の世界に思えるのはわからんでもない。
もう澪も起きている頃だろう。そう思い、足音大きめに二階へと上がっていく。
すると、ぱたぱたと駆け寄る音。
案の定澪は起きていて、着替えも済ませていた。
「もう! こんな朝早くからどこ行ってたのよ! 心配——」
出迎えにきた澪はそこまで言うとぴたりと硬直した。私の斜め後ろを見て。
もちろんそこにいるのは先ほど出会った二人の少女。イケメン君はさらにその後ろにいる。
「う、浮気者ーっ!」
「ぐはっ⁉︎」
澪のパンチによって私たち四人はボウリングのピンのように吹き飛んだのだった。




