18話 魚の塩焼き頑張りますっ!
「私はさ、アイドルになんてなりたくなかったんだ……」
そう言った私の表情はさぞかし暗かったことだろう。
「いや、どうしたのよ急に?」
「いやほら、私ってアイドルしてるじゃん? でもさ、本当はお嫁さんになりたかったんだ」
「だれの?」
「澪」
キリっとキメ顔を作ることも忘れない。ふふふ、プロポーズしてやったぜ。
「うん。とりあえず、アイドルとアイドルファンの方々に謝りましょうか」
「え、なんで?」
わたしほんとうにわかんない。
「なんでって……アイドルらしいことなんて一つもしてないじゃない」
「なにを言うか! 私は十分アイドルしてるからな。そう、アイドルと書いて農家と読む。農ドルをなっ!」
「うっ、確かにそう言われると」
「ほら。そういう澪の方こそ謝った方がいいんじゃないか? 農ドルをアイドルとみなさないのは良くないと思うなぁ」
もちろん私はリスペクトしてますよ。はい。
「……ねえ。この話もうやめにしましょう」
「……そうだな。確かにこれ以上続けても傷が広がるだけだしな」
くぅ、と二人して可愛らしくお腹を鳴らした。
別に三人称と間違えて二人して可愛らしくとか言ってるわけじゃないからな。私は自分で自分を可愛いって言っちゃうようなやつだからこれであってるんだ。
「ご飯にしようか……」
「うん」
ちらりと用意しておいた焚き火をみれば、すっかりと灰に覆われて白く雪が積もったようになっている。
「ねえ、火が消えちゃってるわ。もう一回起こさないと」
「いや、これでいいんだよ。火がぼうぼうと燃えていたら火力が安定しなくて焼きづらいからな。澪だって周りは黒焦げ、中は生なんてのを食べたくはないだろう?」
こくこくと頷く澪。可愛い……
「もう魚の内臓は取ってある」
私はそう言って腹を開かれた魚たちを取り出した。
「どうやって取ったの?」
「ふふふ、そう言うと思って何匹か残しておいたんだ。私は澪のことならなんでもわかるからな!」
「そう言うのいいから早く教えて」
「……なんか最近私に冷たくない?」
「そんなことないわ。早くやりましょ」
「うーん……ま、いいか。澪、一緒にやっていくぞ」
作業ができるように机とまな板、ナイフは持ってきてある。そこに私と澪、二人で横に並ぶ。くふふ、新婚さんっぽいな。
「まずは刃先を使って肛門から顎下まで切り開く。ナイフを入れすぎると内臓が切れて中身をぶちまけることになるから気をつけろよー」
やっぱり澪は手先が器用だな。一匹目だっていうのに上手い。
「開けたら内臓をかきだす。えらも引っ張れば取れるから取るように。えらは痛みやすいからな」
「できたわ!」
「よし、じゃあ串を打つぞ。なんか捻るように、背骨を巻き取るように刺すんだ」
まあここら辺は自分でやってみればすぐにわかるさ。こう、なんか、くいってやるんだよ。くいって。
「で、塩を振る。雪が降ったみたいにしちゃっていいぞ。余分な塩は焼いているうちに落ちるしな」
「これで下準備は終わりね」
そう言って焚き火で焼こうとする澪。うん、ちょっと待とうか。
「澪ー。ちょっと待とうかー。川魚は背から焼くんだぜ!」
「え、そうなの!? ごめんなさい……」
「いや、別に謝らなくてもいいんだけど……」
澪がしゅんとしてしまった!? ああ、どうしよう……
「えっと、皮が乾いてきたらひっくり返してくれ」
「ええ、わかったわ!」
うむ。やっぱり澪は笑ってる方がいいな。美少女はどんな顔でも可愛いがやっぱり笑顔が一番だ。
「ほら、見てみろ。水が落ちてきただろ? これが大体できったら焼き上がりだ」
一本串をとって澪に渡す。しかし、澪はきょとんとした顔で止まったままだった。
「ん、どうした? 食っていいんだぞ?」
「いやでも……やっぱり貴女がリーダーなわけだし……」
お前は犬かっ! そう口に出さなかった私は褒められてもいいと思うんだ。
「まったく。お前というやつは……こいつはお前が釣ってお前が焼いた魚なんだからお前が食え」
そう言ってもう一度ずいと目の前に出してやると、澪は両手で受け取った。
「骨は柔らかいからな。背中からがぶりといっちゃいな!」
最初は少し躊躇した澪だったが、すぐにかぶりついた。そして目を丸くする。
「ふふ。美味いだろう?」
「ええ、本当に」
「澪が嬉しそうなら私も嬉しいぞ」
そう言って澪のことを眺めていると、今度は私の前に魚の串が差し出された。
「ん?」
「貴女も食べて」
くふ、くふふふ……あーもう、やっぱり澪は可愛いなー!
もっといちゃいちゃしたいぜ……
でも、残念ながら次回はテコ入れ回なんだ。私達の世界に新しい人が増えるぞ!




