11話 猟犬のテイム頑張りますっ!
「やっぱいろいろあるなー」
私は前回に引き続き秋葉原観光中だ。
今はとあるDVD店に来ていた。
ずらりと並んだ幾多の情報の中からめぼしい作品をぽいぽいカゴに投げ入れていく。
投げ入れていくって言ったが、言葉の綾だかんな? 私は物を大切にする女の子だからな!
「あ、コレ見たかったんだよねー……って超者? 勇者じゃないの? てかLDだから見れないし……プレイヤーってまだ売ってんのか?」
ちくせう……あの妙にオカルトっぽいロボットモノが観たかったのに……
まあいいさ! 他にも観たいのはあるしね。
空手家のやつとか、以外なことにグレートなやつとかね!
そう。私、Zな方は見たことあるんだけどグレートな方はないんだよ。
まあ、他の作品もほとんど持ち帰る気ですがね。創作物の保護大事。
保護という名の乱獲を行っているとフロアに生き物の気配がした。
かっこつけて言ったけど単に呼吸音が聞こえただけ。
死人は息しないしね。呼吸音がしたら生き物なのは確定なのさ!
その音のした方に行ってみようとランタンを手に取った。
ランタンで足元を照らしながら行くと、階段のあたりに一匹の犬がお座りしていた。
ホラゲ的展開だとぐぱって開いて襲いかかってきたりするんだろうけど、ここは現実。
息をしてる時点で死人じゃないな。と、近づいていたんだが、ここではたと気がついた。
……アレ? 死人うんぬんの前に野良犬って危険じゃね?
そう思った私は3メートルほど手前でぴたりと停止した。
犬はまだ座っている。はっはっはっ、と舌を出しながら座ってるのを見ると、危険には見えない……よな?
とりあえず、両手が使えるようにランタンをそっと床に置いた。
それで、できるだけ刺激しないように視線を下げて犬に近づいていく。
と、2メートルを切ったあたりで犬が動き出した。
具体的には私へのタックル。
そんな行動を予想していなかった私は大した抵抗もせずにそのまま押し倒されることになる。そしてそのまま……
まあ、奇特な変態さんが望むような展開にはならないわけですがね。
「こらっ、ほらやめろって。なーめーるーなー」
仰向けに寝っ転がった私の顔を舐める犬。
動物に舐められるのってくすぐったくてあれだよな。
特に猫とかやばい。あのざらざらの舌がね……
まあ、それはそれとしてワン公よ。私の胸は平らで実に前足が置きやすいだろう?
今回は許すけど、なんかイラつくから次やったら許さんからな?
「ほれ、そろそろどいてくれ」
脇に手を入れてどかした。重かった。
ランタンのちろちろ揺れる灯に照らされた姿を見るにこの犬、『ジャーマン・シェパード・ドッグ』っぽいな。
どかした後、大人しく座ってるあたり賢い子みたいだな。
「と、そうだ……これ食べるか?」
かこり、と音を立てて缶詰を開けて犬の前に置いてみた。
もちろんちゃんと動物用のやつだぜ? まあ、猫缶だからちょっと良くないのかもしれないが、仕方ないよな?
……む。一応言っておくが、猫缶は私が好んで持ってきたわけじゃないからな。
東京のコンビニにはもう食べ物が残ってなかったんだ。
きっと、他にも生き残りがいてそいつらが略奪してったんだろう。
「ま、探したりなんてしないけどね。さ、ジョン行こうか」
あ、このわんこの名前はジョンに決めたぜ。
ほら、私もR社のライフルを使ってるし、ちょうどいいだろ。
あのジョンは最後かっこ良く死んだが、私は死なせる気はないぜ?
◇◇◇
読者の皆様初めまして。澪です。
あの娘みたいにハイテンションなモノローグはできないと思いますが、どうかよろしくお願いします。
まず、バイクで出かけて行ったあの娘のお見送りを終えた私は門を閉じます。
はい。牧場はすでにフェンスで囲い終わりました。
まあ、私は何もしてないんですがね。全部あの娘がやってくれて……
本当にすごいですよね。突然パニックホラーな世界に投げ込まれたというのにあんなに落ち着いていて……
あっ、落ち着いてはいませんね。でも、なんだが泰然としているというかなんというか……
サバイバルに必要な知識もたくさんあって、あの娘がいなければ私はもう死んでいたでしょうね。
豹変した同僚達に怯え、閉じこもっていた私に差し込んだ一筋の光。それがあの娘でした。
でも、最初はとてもびっくりしました。だってあのセリフは完全に敵役のそれでしたもの。
自分でもわかったのか、あたふたしながら否定しようとする様が微笑ましくって、可愛くって。気づいた時には涙を流していました。
ふふっ、その時のあの娘のさらに慌てた表情を思い出したらなんだがおかしくなってきてしまいました。
私が嬉しそうにしていたのがわかったのか、ブラッシングしていた牛さんがこちらを向いてもー、と一声。
泣いてしまった私を落ち着かせようとそっと抱きしめてくれたあの娘。
あの時は本当に嬉しかったです……
でも、そのあと日光に着いて、これからのことを教えてもらって……
私はすごいなぁとしか思えなくて……
私なんかいらないんじゃないか? って思えてしまって……
だから、動物達の世話を任された時はとてもほっとした。
ああ、私にも価値があるんだなぁって思えた。
それでも、あの娘はなんでも一人でできてしまったから、私は毎晩考えずにはいられなかった。
なぜ私は連れてこられたのか? 私は必要ないんじゃないか? いつかは捨てられてしまうのではないか?
私はいつも不安だった。
夜に少し遊んだ時は私が必要とされた気もしたけれど、結局あの娘が一線を越えることはなかった。
「……よしっ!」
とと、思考がどんどん暗い方に進んでしまいましたね。
よくない、よくないです。
必要とされないならされるまで! いっぱい尽くさないとですね。
「あれ? なんだが門の方が騒がしい……」
放し飼いにしていた鶏や山羊が門の方から移動してきていました。
少し不思議だった。何かから逃げているようなそんな動きでした。
「ちょっと待っててね」
牛のブラッシングしていた手を止め、門の方へと行ってみることにしました。
歩いている最中にチェストホルダーに収まった拳銃を確かめます。
今日は霧もなく、こちらが風下になっていたので、臭いが遠くを歩く私のもとまで漂ってきました。
……はい。これはいますね。腐臭。死人の臭いです。
拳銃の安全装置すでには解除しました。
ばしばしとフェンスが叩かれる音が聞こえてきます。
門には6体の死人がたかっていました。
二重になった門の一つ目を越えて、死人の前にまできました。
そして、額に照準を合わせ、引き金を引く。
乾いた音が森に響きました……この表現って月並みですよね。
それを繰り返すこと6回。
フェンスにへばりついていた死人は全て倒せました。
しかし、まだ奥には歩いている死人がいますね。
遠目でよく見えませんが、まだ10人くらい? いますね。
二枚目の門を開き、一枚目と二枚目の門の間にある銃座につきました。
そして、待つこと数十秒。弾を無駄にしないで済み、かつ、打ち損じても牧場内に逃げ込める距離まで引きつけます。
小気味良い音を立てて弾丸が発射され、死人の体が破壊されていきます。
残すところもう一体。
一番後ろを歩いていた死人だけになりました。
ですが、その死人を見た途端。私の引き金を引く指が固まってしまいました。
「え? 嘘……?」
その死人は長い、白い髪を持っていました。
血や埃に汚れ、くすんではいますがあれは白髪です。
小柄な体躯に白髪。まさか、本当にあの娘なのでしょうか……
指は——動きません。
その間にもその死人はゆっくりと迫ってきます。
今の私の顔はきっと青白いでしょう。
心なしか呼吸も浅くなっているような気がします。
嫌な汗がじっとりとまとわりついてしました。
私があの死人を撃ってしまえば本当に一人になってしまうのではないかという不安。
頭の中に鎌首をもたげだ不安。
ですが、私はそれを打ち払うように頭を振りました。
私はあの娘を信じることにします。
決して私を置いていなくなりはしないと——一度関わったのだから最後まで見捨てないと。
私が指に力を入れると死人の頭が吹き飛びました。
そして、はらはらと舞う白い髪。
と、耳すませば低い音が。朝方聞いた低いとが聞こえてきました。
戻ってきてくれた……
安堵や嬉しさが入り混じった複雑な表情で道の先を見ていました。
すると、だんだんと見えてくる大きな翅のついたバイク。
それに向かって手を振りました。もちろんおしとやかにです。あの娘がこういうのを好むのを知っていますからね。
でも、なんだか様子が変ですね?
あまりスピードが出ていないようです。
いつもならもっと飛ばしているのに……
それでもバイクは速いもので、あっという間に門のところについてしまいました。
そしてバイクから降りる彼女。
……やはり様子が変です。
その綺麗な白い肌がいつにも増して白いです。
ふらついた足取りで私のところに歩いてきます。
「……ただいま。澪」
「おかえりなさい」
笑顔でそう答えれば、彼女は安心したように目をつむり、そのまま私の胸に飛び込んできました。いや、倒れこんできました。
慌ててしっかりと抱きとめます。落としたりなんかしたら大変です。
回した腕に変な感触がありました。
ぬちゃり、少し粘っこいような水っぽさがありました。
彼女を片手で支え、見てみると私の腕は真っ赤に染まっていました。
唇に顔を寄せてみますが、息をしていません。
静かな森の中に私の叫び声が響きわたりました……
ゴッドライディーンとクスィーガンダムって似てますよね?




