佐竹攻め②
ストックが切れており、更新遅く申し訳ありません。
烏山城ーーー
那須家の当主・那須資胤は、居城の烏山城で、機嫌が悪そうに重臣たちと軍議を重ねていた。
「……千葉軍は真壁を一日で呑み込みおったか。三万五千の常雇いの兵……なんという財力だ」
「殿!いま千葉に従わねば、我が那須家は、領地安堵も反故になりまする!すぐに参陣のお支度をされる方がよろしいかと存じまする」
老臣の大田原資清が献策をするが、資胤は気乗りがせず、未だ迷っていた。
表向きは千葉家に恭順の意を示しつつも、資胤の胸の内を支配していたのは、「破竹の勢いで巨大化する千葉家への強烈な恐怖」と「名門としての誇り」の相克だった。
果たして、鎌倉よりの名門那須家がそのような事で他家に従うような事で良いのか?という考えが未だに心のうちの大部分を支配していたのだ。
そうして何も決まらぬままにだらだらと軍議を続けていると、蘆名家からの使者の来訪が告げられる。
なんでも至急の書状を資胤に直接手渡したいと言う。
「蘆名め、いったい何を企んで使者をよこしたのか・・・」
「殿。それなれば、まずは某らが用向きを尋ね、内容如何では殿にご臨席を賜るのでは如何でしょうか?」
「いや、儂に直接というからには何かあるのだろう。こちらに連れて参れ」
「某、蘆名家家臣、松本舜輔と申しまする。主、蘆名盛氏より那須資胤様への至急の書状を持参致しました。書状はこれへ」
松本は端然と懐から袱紗に包まれた書状を取り出すと、近くに控えていた近習が受け取り、資胤へ恭しく渡す。
中身を改めるべく書状を開く。
「・・・・・・・・・!使者殿、松本殿と申されたか。これはまことか!?」
「は!主、蘆名盛氏は、我ら蘆名、そして白河結城と共に佐竹へ加勢して千葉を打ち払い、その支配地、そして様々な利権や財を我らで山分けとする事、談合致したいと申しておりまする。さらに、蘆名と那須の間における国境の諍いは、これより懇ろな話し合いにて那須様が不利にならぬよう取り計らう事を約しておりまする」
「うむう……だが千葉の背後には北条もおる! 下手に動けば我らは挟み撃ちに……」
「那須様、千葉は本領である下総では飽き足らず、南常陸も吞み込んでおりまする。益子も小山も取り込まれた様子にて、いずれは下野も、果ては陸奥まで呑み込もうとしておるように見えまする。今、佐竹と千葉がぶつかるこの好機を逃せば、次は・・・・・」
「我らの兵力はかき集めても八千程度じゃ。千葉は銭雇いの兵ばかり三万五千と聞く。一蹴されて終わりではないか。まさか我らを捨て駒にするのではなかろうな?」
「ご安心くだされ!此度は白河結城だけではなく、二階堂、岩城、田村も同心しておりまする。蘆名家ではこの戦に一万八千の軍勢を出すべく、すでに陣触れが出ております! 白河結城様も軍勢七千にて加勢するとの由。
本領より押し出してきた佐竹勢は二万五千との由。合わせて五万。
これに加え那須殿が八千の軍を率いて宇都宮領を通り千葉の背後を突けば、千葉の三万五千の軍勢など、ひとたまりもございませぬ!」
資胤の目がギラりと光った。
佐竹もまた仮想敵だが、常陸太田で佐竹と千葉を相撃たせ、自らは蘆名・白河と組んで千葉の背後を討てば、北関東の勢力図は一変する。
ここで資胤は決心した。己の野心に忠実に生きる。
ここに各国の利害が合致し、那須と南奥州国人という大きな壁が千葉家の前に立ちはだかることになる。
一方、初秋の冷たい風が下野の野山を吹き抜ける中、益子領から怒濤の勢いで北上ししている三万五千の千葉軍は、まさに嵐のごとき凄まじい脚力で陸奥・常陸への要衝、茂木城へと肉薄していた。
真壁城を攻略してわずか数日。千葉軍は三万以上の軍勢が一日半で移動するのに不可能な距離を破竹の勢いで踏破した。
茂木城を守る当主・茂木治房以下、城内の守備兵二千は、突如として視界を埋め尽くした無数の千葉家の旗印に息をのんだ。
「な、なんだあの軍勢は……!? 千葉軍が真壁からもうここまで来たというのか!?」
「馬鹿な、まだ佐竹からの後詰が到着しておらぬというに!」
茂木城の城壁から下を見下ろす茂木家の足軽たちは、麓を埋め尽くす勢いの大軍勢に怯えて身を震わせた。
茂木城の麓に到着するとすぐに偵察に出ていた葉隠衆が報告に現れる。
「申し上げます!佐竹の援軍、その数二万五千、常陸太田を出て既にこちらに向かっている由。会敵まで3日後と思われまする」
「うむ。ご苦労だった。あちらで温かいものを用意させる故、ゆっくりするように」
「は!ありがたき幸せ」
「さて、浄三、どう見る?」
俺が浄三に見立てを尋ねると地図を見ながら浄三が川をなぞる。
「そうですな。敵は恐らく那珂川沿いを進軍して来るのでしょうな。そしてこの飯野の辺り(現在の新那珂川橋のあたり)から茂木を目指すものと思われまする。我らの兵数を生かすにはやはり開けた場所がよろしいでしょう」
「となると、この先の馬門の辺りか、この茂木城麓か、だな。ただここだと佐竹本軍との戦の途中で城兵が雪崩込んでこないか?どう思う?」
「そうですな。されば城三千程の兵を抑えとして置きましょう」
「よし。佐竹本軍の到着までに、まずは茂木城への備え、そして敵が到着する前に陣地を完成させよ!」
早速、茂木城の周囲は、水谷正村率いる部隊によって二重三重に封鎖された。
城からは一羽の鳥すら通さぬほど完璧に遮断され、茂木城は完全に陸の孤島と化した。
茂木城に籠城している兵は大軍の包囲の前に固く門を閉ざして籠城を続けるしかなかった。
そして、茂木城の包囲を固める一方で、俺は麓の平野部における「野戦陣地の構築」を命じた。
「土塁の高さは五尺以上! 鉄砲の射線を交差させるため、柵は千鳥状に配置せよ!」
「工兵隊、急げ! 補給の車馬がいつでも本陣と最前線を往復できるように街道を整備するのだ!」
俺は前世の知識で近代的な物流・組織運用を構築したが、最近は皆それに慣れたどころか、かなり使い倒すようになっていた。
兵糧・弾薬の補給網と通信網を無駄なく機能させ、最前線の兵には温かい飯と十分な矢弾が絶え間なく届く仕組みは緊張感の中にも圧倒的な安心感をもたらしたようだ。
南常陸出身の兵
「おい、千葉軍はすごいぞ。こんな山の中で、毎日握り飯と塩鮭がちゃんと届くんだ」
「あの黒々とした鉄砲の弾も山積みだ。これなら負ける気がしねえ……!」
兵士たちの士気は、陣地が完成に近づくにつれて凄まじい高まりを見せていた。
だが、嵐の前の静けさは長く続くものではなかった。
那珂川上流、那須領 黒羽城近くの森ーーー
頭巾を被り修験者のような格好をした男達が3人ほどの斃れた男達を見下ろしている。
「手古摺らせおって。千葉の草どもめ」
「ああ、だがこれであらかた片付いたな。」
「これで千葉へは報せが行かず不意を突かせることが出来るな」
「褒美もたんまり出よう」「今夜は飲み明かすか」「ふふふ」
だが、この光景を森の木々の間から静かに見ている目があった・・・。
お読み下さり有難うございます。
稚拙な個所や至らぬ点が多々あるかと思います。
生暖かい目で見てくださると幸いでございます。




