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南常陸の戦い 後編 そして

!2026/9/23 いつの間にか累計PVが1万を超えていて驚いてしまいました。

このような拙い文章の小説ですが、こんなに見て下さる方がいて、本当に感謝しかありません。

ありがとうございます!

これから少しづつでも見やすく面白い物語を書けるように精進して参ります。

どうかよろしくお願い申し上げます。

天文二十二年(1553年)、十月(十二歳)。


 桜川を挟んで対峙する千葉・佐竹の両軍に、動きが生じた。

筑波山の方角から、小田氏治が手塚石見守と飯塚刑部を伴い、小田家の本軍六千を率いて到着したのである。


「見たか、手塚! 千葉殿の二万に、我が軍六千。合わせれば二万六千対二万弱。数においては、もはや我らの圧勝ではないか!」


 氏治は、海老ヶ島城での勝利を聞いてすっかり上機嫌であった。小田城での狼狽ぶりはどこへやら、朱塗りの鎧に身を包んだ彼は、意気揚々と千葉軍の本陣へ乗り込んできた。


「小田殿、参陣感謝いたします」

白井浄三が静かに礼を述べるが、その瞳は冷徹に小田氏治主従を観察していた。

一方、円城寺虎常は「訓練不足の六千の足軽が増えたところで……」と言いたげな表情を隠さない。


「では早速ですが軍議を行いましょう」


「うむ。浄三殿、このまま川を挟んで睨み合っていては埒があかぬ。某に策がある! 我が軍が密かに筑波山の麓を抜け、佐竹の背後に回り込んで奇襲をかける。その隙に千葉軍が正面から渡河すれば、佐竹義昭の首も容易く獲れよう!」


 浄三は眉をひそめた。

「……確かに筑波の山道は険しく軍が通り抜けるのは困難ゆえ、奇襲をしようと思えばそこしかありませぬな。しかしながら、抜けた先は開けた場所になっており、伏兵の好適地ですな。佐竹がそれを見逃すとは思えませぬが」


「案ずるな! あの道は我が庭も同然よ!」

そう言われては他国の領主に対してこれ以上は強く言えず、虎常に至っては厄介払いとばかりに「それは心強いですな!」と追い出しにかかっていた。

その結果、氏治は浄三の忠告を聞かず、手柄を焦るように六千の兵を率いて迂回路へと向かってしまった。


「・・・・図らずも友軍を敵の誘引に使う事になるとはのう」

と言いつつも浄三は口角が少し上がっていた。


「白井殿・・・・顔に出ておりますぞ」


「おお、これはまずいですな・・・だが、儂は忠告しましたぞ?」


「うわっはっはっは!!」二人は堪らず笑い出してしまった。


 氏治が「我が庭」と豪語した筑波山麓の狭隘な街道。

そこには、父・佐竹義昭から「遊軍を任せる」と命じられていた若き嫡男、佐竹義重が潜んでいた。後に「坂東太郎」と恐れられる、まだ十代半ばの天才肌の武将である。


「……父上の読み通り、小田の馬鹿どもがやってきたぞ」

義重は、漆黒の具足に身を包み、冷ややかな笑みを浮かべた。


 小田軍が山道に伸び切った瞬間、義重の合図で法螺貝が鳴り響いた。

「放てっ!」

高所から無数の矢と岩が降り注ぎ、狭い道に密集していた小田軍はパニックに陥った。


「な、なんだ!? 伏兵だと!? 策が漏れていたのか!?」

氏治が狼狽する間もなく、横合いから義重率いる騎馬を含む四千が、さながら「鬼」のような勢いで突っ込んできた。


「小田氏治! 首を置いてゆけ!」


「ひ、ひえぇぇ! 飯塚、手塚、どこにおるのじゃ!」

群がる敵兵に対して槍を振り回すが、敵は怯まず迫って来る。


 そして、手塚が氏治に追いつき、手勢とともに敵を追い払う。

「殿ぉ!!むん!!」

「おお、石見来てくれたか!」

「殿。こちらはもう既に崩れておりまする。下がって下され。ここは我らが殿を務めまする!」

「・・・うむ。石見、忝い」


 出陣前の威勢の良さとは裏腹に、氏治は這う這うの体で馬を走らせ、戦場を脱出する。

主君の不手際を補うべく、手塚らが決死の殿(しんがり)を務めたが、小田軍は千に近い死傷者を出し、潰走する兵たちが桜川の千葉軍本陣へと流れ込んだ。


「義重、ようやった!安藤、船尾、今じゃ突っ込め!!」

「応!!」

佐竹義昭の号令とともに佐竹本軍8千と古河公方から兵を預かり派遣された旧関宿城主梁田の一隊五百が千葉軍への突撃を始める。


「小田軍、潰走! 敗残兵が我が方の最右翼を掠め、やや陣形が乱れております!」

伝令の報告に、虎常がニヤリとした。

「予想通りやってくれたわ……! 浄三殿、佐竹の本隊が動いたぞ。この混乱に乗じて渡河を始めた!」


 佐竹義昭はこの機を逃さなかった。小田軍の敗走によって生じた千葉軍の隙を突き、全軍で一斉に桜川を渡り始める策である。

鉄砲隊の射撃も、味方の敗残兵が邪魔になって思うように機能していない。


「虎常殿、ここは予定通り一時引いて陣を立て直す振りをする。……退路にとっておきの土産を馳走してやるわ」

浄三は慌てることなく、背後に控える葉隠衆に目配せした。


「者ども退けーい!!」

千葉軍は訓練通りの退却戦に入る。

その移動は訓練の成果が上がっており、規律に従って粛々かつ迅速であった。


 佐竹軍が勝利を確信し、深追いする。

さながらスタンピードのごとく突っ込んでくる。

まともに受けていては突破されるばかりの勢いであった。

――――だが、葉隠衆が密かに敷設した「とっておきの土産」が、佐竹軍の進むその先にあった。


「今じゃ。工兵隊、地雷火(爆薬)に点火せよ!」


――ドォォォォン!!


 佐竹軍の進軍路の脇を囲む斜面に隠されていた火薬が爆発し、金属の破片や石などが勢いよく飛び散り被害を拡大させる。

阿鼻叫喚の地獄である。


 これで一時、佐竹軍の先陣と後陣が分断され、混乱が生じる。

浄三は望遠鏡で敵陣をつぶさに観察する。

「敵の本陣は、扇に月紋の旗印と古河公方の御旗が立つ一角だ。虎常殿、お待たせした。思う存分、暴れられよ」

「応、合点だ!」


 虎常率いる鉄砲騎兵隊が、混乱する佐竹軍の横腹を、今度は正確に撃ち抜いた。

さらに、葉隠衆による「佐竹義昭、討ち死に!」という偽情報が戦場を駆け巡り、佐竹軍の士気は一気に崩壊した。


「……これまでか。全軍、太田城へ撤退せよ!」

義昭は苦渋の決断を下し、夜陰に乗じて北へと引き揚げていった。



――――数日後、小田城。

 這う這うの体で逃げ帰った小田氏治を待っていたのは、かつてないほど冷ややかな家臣たちの視線であった。


「殿、此度の振る舞い……もはや弁解の余地はございませぬ」

菅谷勝貞が重々しく口を開く。

「千葉軍の援軍があったからこそ、小田の家は今日繋がっております。さもなくば、殿の首は筑波山に晒されていたでしょうな」


「う、うむ……それは、わかっておる。だが、儂も策を……」

「その策が、我らを滅ぼしかけたのです!手塚殿も付いておりながらこの体たらく・・・」

赤松凝淵斉が、珍しく声を荒らげた。


「まことにもって面目ない・・・・」

手塚が項垂れて両手をついて謝罪するが、凝淵斉は睨んだまま動かない。


 菅谷勝貞が諭すように氏治に現状を伝える。

「殿。この戦国、もはや名門の意地だけで生き残れる時代ではございませぬ。佐竹は鬼、北条は大蛇、千葉は怪物にございます。……特に千葉の『政』は、我らの想像を超えておりまする」


「某が思うに、千葉介殿が民を慈しむ政を行っている様は殿の成さりようとは相性が良いように思いますぞ。ですので、これまでのように千葉と誼を通じて足を引っ張らぬようにする事が肝要と存じまする」

凝淵斉が氏治を宥めるように語り掛けるが、氏治は、膝の上で震える己の手を見つめた。


 自分なりに必死だった。名門小田家を守りたかった。だが、自分に足りないのは武勇でも銭でもなく、下総の小さき龍、千葉介親胤が持っているような「時代を俯瞰する目」なのだと、痛感せざるを得なかった。

民を想うのであれば、そして守れるのであれば、それを成す頂点が誰であれ問題は無いのだ。


「……わかった。勝貞、政貞。儂は、本佐倉へ向かう」


「千葉殿の元へ向かうと申されますか?先の戦での失態の詫びに?」


「うむ。先の戦での失態の謝罪と援軍への感謝。そして改めて千葉の傘下となる事を願うて来ようと思う」


「それは?!・・・・臣従の挨拶ということになりますが!!まことにそれでよろしいのですか?」

勝貞が大慌てで聞き返す。


「ああ。千葉殿が司どっている『新しい政』。その下で我が領民と其方たち、そしてこの千代丸と、安らかに暮らせる道があるのなら……それも悪くないと思うておる。

皆はどうじゃ?こんなわしに付いて来てくれるか?無理にとは申さぬ。異議がある者は感状を与える故、どこぞの家に召し抱えてもらうのも良いじゃろう」


「・・・殿、氏治様。もう決心なされたのですな」

勝貞が代表して氏治に声を掛けた。


「うむ。其方らには至らぬ儂をこれまで良く支えてくれた。心より感謝をしておる。苦労をかけた」


「殿、我らはどこまでも御供仕りますぞ。それに今の言い草では、まるで腹を切る様ではござらぬか?大げさでござるぞ」

「あははははは!!」

凝淵斉がそう言うと一同が大笑いした。


「わしは・・・わしは良い臣下に恵まれておるのだな・・・」

それだけ言うと氏治は泣き出してしまった。

一同皆泣き笑いの表情でそれぞれが氏治を慰める。


 脇で目を閉じ香箱座りをしていた千代丸が、一瞬だけ目を開けて氏治を一瞥して、『仕方のない奴め』とでも言っているかのようにおおあくびした。


 そして天文二十二年(1553年)、十一月。

本佐倉城の謁見の間にて、俺は小田氏治と対面した。


「小田殿。筑波での戦い、大変でしたな。だが小田殿が佐竹を誘い出してくれたおかげで、勝利を掴むことができた・・・感謝いたしますぞ!」


 俺は、あえて氏治の失策を「囮としての功績」として称えた。

そうでもしなければ、あえて知らずに囮になるように仕向けた浄三達の尻が拭けないと思ったからだ。

聞いた時には呆れ、申し訳無く思ってしまったが、良く考えれば恩を売るには最適な気がした。

段々と俺も悪い顔になって来たのだろうか・・・。


「・・・・なんと、そのようにわしをかばって下さるとは。家督を継いで4年・・・わしは・・・・わしは調子に乗って奇襲をかけるなどと策を弄したが、佐竹には見破られており申した。挙句、一千以上の兵を失う結果となり申した。それに政などは家臣に任せきりで、わしは百姓どもと仲良うするだけが取り柄のどうしようもない領主。それゆえに、かくなるうえは民を慈しむ政を成されておる千葉家に我が領地をお預けするのが良いと決め申した」

氏治は俺の言葉のあと、涙を流して平伏してこう言った。


 これにはさすがの俺も驚いた。

援軍の礼と不手際の謝罪に来たのかと思えば、国を差し出すとは・・・・。

だが、これは良い機会だ。


「小田殿・・・・民百姓と仲良うする事が出来る領主なぞ国中探しても中々いるものではありませぬ。それは貴殿が良い領主という証でもあると某は思いますぞ」


「そのように言うてくださり感謝致しまする。じゃが家臣とも良く話をし申した・・・千葉介殿……いや、親胤様。この小田小太郎氏治、これからは貴方様の足元を照らす灯火となりたく、伏してお願い申し上げまする。どうか小田家の臣従をお許しくだされ。我らを願わくば千葉家の末席にお加え頂きたく」


「なんと!・・・・わかった・・・小田殿、いや小太郎よ、これから末永く頼む。代官として南常陸のいずれかの統治をお願いすると思うが、評定の結果を待って欲しい。政には千葉流の行政を指導する行政補佐役を派遣する故、心配は無用。むしろ発展してどんどん富んでゆくであろうが、その差配が大変になるだろう。心してかかるように」


「はっ。仰せのままに」


「それと、菅谷親子、平塚自省、天羽源鉄らを常備軍の将、あるいは軍師として派遣してもらいたいのだが、異議はあるか?」


「はっ・・・仰せとあらばそのように致しまするが、殿にはわしに叛意があるとお考えですかな?」


「小太郎よ、そうではないのだ。委細を申しておらず、すまない。わが軍は領内で募った銭雇いの常備兵で成り立っている。今後は南常陸からも募兵をする事になる。

それらを千葉家譜代の者が率いても良いのだが、名も心も知らぬ他国出身の者に率いられるよりは、その土地の元からの国人衆たる、かの者たちが率いる方が兵の忠誠心を得やすいであろう?そうした理があるのだ」


「なるほど!合点致しました!その方が南常陸の領民が主たる雇い兵も安心しますな。新たに臣従した我らに兵を預けて下さると言うのもご信頼の証。委細承知。勝貞、政貞、良いな?」


「はっ、仰せのままに」


 その後の評定により南常陸は、このまま小田に任せるのが一番良いだろうという事になり、氏治には筑波郡と新治郡、信田郡の代官をしてもらう事にした。

この南常陸は占領後の統治モデルケースのひとつになるだろう。


 これにより、千葉家は下総、上総、安房に加え、常陸の南半分を手中に収めた。

支配領域はついに百万石の大台を超え、名実ともに関東最大の勢力へと成長したのである。

交易による利益を合わせた実質石高は180万石を超える勢いだ。

常備兵力は6万を超える・・・。


 農民からは遠征のための徴兵をやめているが、いざ攻められた時は各領主代行の裁量で臨時に兵を集められるようにしてある。

その総数はどのくらいだ?10万を超えるか?もうそうなると正面から攻められる事はほぼ無さそうだな。あとは内から崩そうとする調略に気を付けなければ。

隙を見せないようにうまくやらないと・・・。

お読み下さり有難うございます。

初投稿の素人ですので、稚拙な個所や至らぬ点が多々あるかと思います。

生暖かい目で見てくださると幸いでございます。

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