15-6 愛してる(前編)
膨大な魔力の暴走から一週間が経った。エデンなどの一部の情報は伏せられたが、この事件は大々的に世間へ報じられた。世界的犯罪組織であるフロンティアの関与、危険な魔力実験、そして主犯格である芥見蓮の話題で世間は持ちきりとなった。
芥見蓮については妻と娘を亡くした男が死者蘇生の危険な実験にのめり込んだ、という事実ではあるものの真実には少し遠い報道がされる。エデンを使おうとしたという話も上がるには上がったが、所詮は都市伝説と噂だと世間では一蹴されることとなった。
そして、その報道による芥見蓮への世間の評判は『自身の願いのために多くの人を傷つけた悪魔』という声が多かった。妻と娘を亡くした件には同情的な声も多いが、やはりそのために多くの人を傷つけたことは到底許されることではない、ということであった。魔力の暴走を阻止した魔法防衛隊には多くの賞賛の声が集まると同時に、フロンティアなどの犯罪組織についての対策を問われ、良くも悪くも注目を集める結果となった。
しかし、増幅装置の流出は止まり、装置の使用で意識を無くしていた人たちが目を覚まし始めたことで、事件は一旦ではあるが収束へと向かっていた。
そんな中、春と耀はというと―――
「お、お邪魔します!」
「い、いらっしゃい!」
「………ゆっくりしていくといい」
春の家でお泊りをするという事態になっていた。
※
事の始まりは学校を終え、支部での特訓を終えた帰路でのこと。耀を寮へと送り届ける道中で、春が唐突にこんなことを提案する。
『今日、家に泊まらないか?』
『………へぁ?』
予想だにしていなかったお誘いに変な声を上げ、固まってしまった耀。すぐに顔を真っ赤にさせて戸惑うも、少し落ち着くとその提案を喜んで受け入れる。その際、耀の携帯を借りて彼女の母である光莉に許可を取るという大胆な行動にまで出た。
『なるほど。耀を君の家に泊めたいと』
『はい』
『いいよー。ただし条件があるけど』
『何でしょうか?』
『今度の夏休み、君が耀と一緒に家へ泊まりに来ること』
『分かりました』
『分かりましたぁぁ!!?』
『それとまぁ………中学生という自覚をもって一晩を過ごしてね』
『ちょ!? お母さん!?』
『はい!』
『うっっっぎゃああああ!!!??』
なんとも珍しく、春が攻めて耀が翻弄されるという構図が出来上がっていた。しかも電話越しではあるが母親への挨拶を済ませ、夏休みにはご挨拶に伺うアポまで取るというかなりの攻めっぷり。耀は怒涛の展開に目をグルグルと回し、あれよあれよという間にお泊りセット持参で春の家にお邪魔していた。
「ふふっ、三人とも緊張し過ぎだって」
「だ、だって………!」
「そ、そうよ! ねぇあなた!?」
「………うむ」
ガッチガチに緊張している耀と祖父母の三人を思わず笑ってしまう春。しかし、三人からしてみれば落ち着いている春が異常であり、笑う春を責めるように小さく睨む。
「俺が入院したときに挨拶したんでしょ?」
「それとこれとは違うって………!」
挨拶はした。世間話はもちろん、食事となってもこのメンツならある程度は支障なくできるだろう。ただ、お泊りとなると全く話が違う。話の次元が違う。
むしろなんでお前は落ち着いているんだと三人は春に対し、僅かに苛立ちを覚える。そんな中、春は
淡々とその場の状況を進めていく。
「それじゃあ、電話でも言ったけどご飯は済ませたから。ただ、風呂だけは貸して」
「え、ええ。それは構わないわよ。お風呂ももう沸いてるし」
「ありがとう。それじゃあ耀、どうする? 先に入る?」
「え゛!? え、えっと………。それじゃあ、先に入ろう………かなぁ?」
「オッケー。じゃあ、風呂場はこっちだから」
「う、うん」
春は耀を連れ、リビングを出ていく。その後ろ姿を楽人と依理は静かに見送り、何を話せばいいのか分からずしばらく固まる。その沈黙が辛くなってきたのか、依理から楽人へと話しかける。
「急にどうしちゃったのかしら。耀ちゃんについてあまり喋ってくれないのに、いきなり家に連れてきてお泊りなんて」
「………さあな」
家に連れてくるどころかお泊りという急展開に戸惑う二人。そこへ、春が一人リビングの扉を開けて戻って来る。
「耀、今風呂に入ってるから入らないようにお願い。出たらそのまま俺の部屋に連れて行くから」
「そ、そう。分かったわ」
「それから、来客用の敷布団って仏間の押し入れだっけ?」
「………春。いいか?」
「うん? 何、じいちゃん?」
「………何か、あったか?」
「………ああー、まあ………うん」
楽人からの問いに、春は困ったように首の裏を右手で撫でる。そして、少し悩むように目を伏せると頷いてそれを肯定する。その仕草に何かあると感じた楽人は心配そうな目を向ける。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
静かに笑い、そう答える春。その目にはしっかりと光が宿っており、心配など無用だと二人に語りかけてくる。それにより、二人は自分たちの心配は杞憂だと知る。
「………そうか」
「はぁ………分かったわ」
「うん。心配してくれてありがとう」
「で、でもね春! まだあなた達は中学生なんだからその自覚を持って………ね!?」
「………ばあちゃん。台無しだよ」
「………うむ」
※
(わーどうしようどうしようどうしよう!? ついに一線超えちゃうの私達!? お母さんから釘を刺されたときは『はい!』って答えてたけど、その場の勢いでって場合もあるし………!!)
「うぅー………!!!」
湯船に浸かり、顔を潜水させて悶々とする耀。こっちはこっちで色々と台無しであった。
閲覧ありがとうございました!
次回! 二章完結と初めての………!
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