15-7 愛してる(後編)
「布団持ってきた」
「う、うん。ありがとう」
お互いに風呂を済ませ、寝るための格好へと着替えた二人。春はズボンと半袖のTシャツとラフな部屋着に着替え、耀は可愛いピンク色のボタンで前を留めるタイプのパジャマへと着替えていた。
春の部屋で少しゆっくりしていると時間にしてはもう夜の十時を過ぎており、若者にしては早いが寝るには十分な時間帯。春は部屋に来客用の布団を持ってくるとそれを床に置く。しかし、それを広げようとはしなかった。
「………? は、春?」
「………耀」
「は、はい! 何!?」
「一緒にベッドで寝れないか?」
「………え゛!? いっ、ベッ、一緒のベッド!!?」
今日の春は一体どうしたというのだろう。まさかの提案に耀は顔を真っ赤に染めると奇声に近い声で耀は聞き返してしまう。その可愛い反応に春はたまらず笑顔をこぼし、からかうように聞き返した。
「嫌?」
「い、嫌じゃないです!」
「ハハッ、よかった」
耀の勢いある返答に春は再び笑ってしまう。しかし、そんな春の笑い声は耀の耳には届いておらず、同じベッドで寝るという行為を想像し、固まっていた。
やがて、二人は同じベッドで横になる。落ちると危ないということで耀が壁側に寝るのだが、その寝方は耀の心拍数を更に高めてしまう。
(壁だ! 壁側だ! 逃げられない!)
壁側に寝かされたことで何かあったときの逃げ道を狭められ、変な勘繰りをしてしまう耀。そして、背中に当たる春の背にまたドギマギしてしまう。
(ヤバい! 心臓の音聞こえてるかな!? ていうか春のベッド! 春の匂い! ヤバいぃぃぃ!!!)
「耀?」
「―――っ。な、何?」
春に声をかけられ、思わず体をビクッと震わせてしまう。しかし、なんとか平静を装って答える。
「今日はごめん。急に誘っちゃって」
「う、ううん。全然いいよ。でも、なんで今日だったの?」
「えっと、実はもっと早くこうしたかったんだけど、最近色々と忙しかっただろ? だからタイミングが見つけられなくて」
「もっと早く?」
「ああ。………芥見さんの最後を看取った日から、ずっと」
「っ!」
芥見の名を聞くと耀は大きく目を見開き、徐々に落ち着きを取り戻していく。そして、耀は落ち着きを取り戻すと優しい声音で春へと語りかける。
「なんでこうしたかったの?」
「………不安になったから、かな?」
「不安?」
「ああ。芥見さんの想いを聞いて………、奥さんと娘さんを失った悲しみを聞いて、想像しちゃったんだよ。もし、耀を失ったらって」
「………………」
「もちろん、そんなことは絶対にない。俺がさせない。何があっても耀のことは必ず守る。だけど、それでも不安なってさ。そしたら、無性に耀の傍に居たくなったんだ」
「………っ」
背中を向けているため、その表情を見ることはできない。でも、きっと春は優しい笑顔を浮かべている。愛しくて愛しくてたまらない、素敵な笑顔を浮かべている。
そんな春の顔を見たくなった耀は反対側を向く。しかし、春が背をむけているためにその顔を見ることは叶わない。それを煩わしく思った耀はこちらを向くように春へと要求する。
「春。こっちを向いて」
「………分かった」
若干の気恥ずかしさはあるものの、耀の言う通り春は体の向きを変える。二人は互いに向かい合い、相手の顔を見る。暗い室内ではあるものの、カーテンの隙間から入る月明りと暗さに慣れた目でしっかりと相手の顔を認識する。
そして、自身の目の前にある春の穏やかな笑顔をしっかりと見つめる。思った通り、いや、それ以上の素敵な笑顔に耀も微笑んでしまう。
「やっぱり笑ってた」
「駄目だったか?」
「ううん。それが見たくてこっちを向いてもらったんだもん」
「そっか」
狭いベッドの上で向かい合う二人。当然、足や腕などが自然と触れてしまう。春は手が触れた途端、反射的にその手を下げようとする。しかし、耀はその手を逃すまいと掴み、指を絡める。足も同様であり、春が反射的に下げると耀はそれを追いかけて密着させる。春はそれらに対し抵抗する事は無く、むしろ受け入れるように指を絡めた手をしっかりと合わせる。
触れる手や足から相手の熱を感じ取る。そして、耀は自分とは違う、硬くて力強い感触に先程までとは違う胸の高鳴りを覚えた。
「私も、春の傍に居たい。これから先もずっと春の傍にいる。春のことは私が守る。だから、私の傍から居なくなったら嫌だよ」
「ああ。もちろんだ」
「ふふっ」
「ははっ」
傍に居たい。ただそう言葉にして笑い合うだけの時間が愛しく、幸福に満ちていた。それはきっと、笑い合える相手がこの人だからだろうと二人は思う。そして春は今、一つのことを理解する。
「きっと、父さんと母さんもこうだったんだ」
「こうって?」
「こうやって、ずっと大切な人の傍に居たかったんだ。愛する人の傍で一緒に笑って、幸せになりたかった………いや、幸せだったんだ」
相手のことが大切だから一緒にいた。愛していたから結婚した。そんなことは分かっていたが、それは知識や漠然とした感覚としてだけ。真の意味では理解できていなかった。
ただ今は違う。その意味を、その想いを本当の意味で理解した。
「だから、結婚したんだなって」
「………そっか。………そうだね。うん、そういうことなんだ」
「ああ」
春の言葉を噛み締める。そして耀は今、自分が抱いているこの想いが何なのかを真の意味で理解する。
相手が見せる笑顔に愛しさを覚え、自分もまた笑顔を浮かべてしまう二人。そして、互いの瞳を見つめ合う。春は熱の籠った耀の美しい赤い瞳に心を奪われ、じっと見つめてしまう。やがてその視線は下がっていき、唇を見つめる。
程よい潤いを保った、桜色の美しい唇。その唇に吸い寄せられるように春は顔を近づけてしまう。他意を感じさせないその行動に、耀も思わず顔を近づけてしまう。
徐々に近づいていく二人距離。やがて目を閉じ、そっとその唇を重ね合わせた。
「「―――………」」
時間にして数秒。それでも二人にとって、触れた唇から相手の想いを受け取るには十分な時間であった。
唇を離してもなお、互いの吐息がかかってしまうほどの距離を二人は維持する。そして、春は胸に昂る想いを言葉にする。
「愛してる」
嘘偽りのない、真っ直ぐな気持ち。それに対する耀の答えは既に決まっている。
「私も愛してるよ」
精一杯の気持ちを込めて、愛を伝える。そして、あまりの幸福に二人とも満面の笑顔を見せる。
これから先、辛いことや苦しいことは多々あるだろう。それでも、この先の人生を歩いていきたいと願う。なぜなら、愛する人の隣にいることができるのだから。
閲覧ありがとうございました!
ついに二章が完結! 次回からついに『三章』へと突入です!
なのですが………、詳しい話は活動報告にてどうぞ!
面白いと思っていただけたなら『ブックマーク』『作品の評価』『いいね』をお願いします!




