09 パテギア・トルクメニアン 王女の憂鬱④
「いいじゃない、スミス。可愛い子には旅をさせろって言うでしょ?」
「なりませぬ! いつもお城を飛び出して、こちらは毎回苦労しておるのです。影で調整役を務める某と、王女様役を務めるブレアの身にもなって下され」
私の意見に賛成してくれたお姉さん、ナイスです。続けて吐き出されたスミスの嘆息が部屋の中へ広がっていきます。
「いえ、僕は王女役には慣れていますから」
「ほらー、ブレアもこう言っていますし……スミスぅうー、ねぇ、お願い♡」
懇願するポーズを取り、上目遣いでスミスへ迫る私。
「スミスさん、大丈夫ですよ。サウスドリームは観光客や冒険者で賑わう反面、ならず者も多いですものね。まぁ、王女様は俺とガーネットがしっかり護衛しますから、心配には及びません!」
「ハルキ様……素敵です。ありがとうございます♡」
懇願するポーズのまま、視線と共にキラキラとした星を光線のようにハルキ様へ贈る私。
「そこまで言うなら仕方ありませんな。城での仕事はブレアへ任せましょうぞ」
「山羊座の守護者ブレア。任務承りました」
女執事姿のブレアが恭しく一礼します。と、言う事は……。
「じゃあ、いいのねスミス! ありがとう!」
「今回だけですぞ、王女様。その代わり今回は某も一緒についていきますぞ」
暫し流れる沈黙……。
「え?」
「ん?」
最強執事スミスはなぜか満面の笑みです。
「いや、あの……どうしてスミスが一緒に来るの?」
「王女様だけが羽根を伸ばすとは狡いですぞ?」
私の表情が一瞬強張ります。これでは私のサウスドリーム×ハルキドリーム計画が……。
「心配せずとも王女様、某は分からぬようあくまで影として付いていきます故、ハルキ様のデートは気にせず行っていただいて良いのですぞ?」
「いやいや、気になります! 保護者同伴のデートだなんて聞いた事ないから!」
「では、サウスドリームへ余暇は認められませんな……」
「くっ……それは……」
アルシューン公国へ私がお忍びで向かった時はついて来なかった割に、今回はなかなか引いてくれないスミス。
「まぁ、いいじゃない王女様。むしろスミスが居てくれるなら、これ以上の護衛はないわよ? 安心してカジノも楽しめるってものよ」
「うーん……それはそうなんですが……」
何か腑に落ちないんです。保護者同伴が……。
「まぁ、家族旅行と思えばいいじゃないか、パフェ。俺がちゃんと傍についているからね?」
「分かりましたハルキ様行きましょう!」
今、私の脳内では、ハルキ様の『俺がちゃんと傍についているからね』発言が繰り返し再生されています。白い翼を広げ、このまま大空へ風と共に飛んでいきたいです。
「王女様はいつもこうと決めたら揺るぎませんからなぁ。今回は某の負けですわい」
こうして、私のサウスドリーム×ハルキドリーム計画は実行へ移される事が決定したのです。
決行予定は五日後。楽しいバカンスの始まりですわ。
この日、ハルキ様とガーネットさんのために会食が開かれる事となりました。スミスやブレアも一緒です。
昨日の食事とは打って変わって、会話が弾み、笑顔が飛び交う楽しい会食。食事はご飯の美味しさを噛み締める事は勿論だけど、こうやって好きな人との時間を共有する事で、より素敵で楽しい時間となりうるんですね。団欒って言葉の意味を改めて知った気がします。
会食を終え、ハルキ様達は一旦自宅へ帰る事となります。名残惜しいですが、暫しのお別れですわね、ハルキ様……。
その夜、皆が寝静まった頃、私は自室奥の書斎へ続く部屋へと入ります。様々な国の書物が並ぶ部屋。私はこの部屋で幼い頃から本を読んでいました。本を読むための丸いテーブル。椅子へと座り、誰も居ない部屋にて、本と本の間に隠してあった不思議な水晶玉を取り出し、テーブルの上へと置きます。
今、部屋の外には女執事のブレアが警備をしているみたい。水晶玉が一瞬淡い光を放ち、とある方の姿が映し出されます。その姿を見た瞬間、私は気分が高揚し、笑顔を振りまきます。
「はい、こんばんはーー! 聞いて下さい! ハルキ様が今日還って来たんですよぉ~♡ もう、嬉しくて嬉しくて」
私の喜ぶ表情に、水晶玉の向こうのあの人も頷いてくれる。
「そう、そうなんです! 本当に無事でよかったです!」
あ、そうだ。忘れてた。あの報告をしなくちゃなんでした。
「そうそう、この間お話した騎士団長のアルクは、五日後にサウスドリームへ行く事になりましたよ?」
報告を受け、あの人の表情も綻ぶ。喜んで貰えて私も嬉しいですわ。そして、私やハルキ様もサウスドリームへ行く事になった旨を付け加えます。
「いや、そんなぁー、デートだなんて、みんな一緒ですから……♡」
ハルキ様の姿を思い出すと、顔が火照ってしまいますわ。
「そうなんですよ、やっぱり私の命が狙われる事を警戒してるんでしょうか……あ、それもそうですね♡ ありがとうございます」
水晶玉越しの提案に、私は彼の姿を思い浮かべるのでした。




