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転生前が学生の貴族は異世界に何を望むのか  作者: 朝丸
第2章 少年期編 〜優等生にランはなる〜
23/26

23 旅の途中で

 エリアス王国は、領土的に見ると大陸の中では小国だ。それも端っこにあるため、大陸全土の地図ではかなり目立たない国である。


 バームクーヘンの様な形をした国土は、南と東が海に、北と西が他国と陸路で接している。大きさこそ何倍も違うが、なんとなく神奈川県の様な形をしている、と言えばわかるだろうか。


 この中心部西寄りに王都が存在し、その周囲には王家の直轄地、天領として農業地帯が広がっている。

 その四方を四大侯爵領が囲んで、あらゆる方面からとにかく王都を守っているのだ。


 その内、北を守る盾のニコラス領と、西を守る剣のカブラト領は、国境線にも接していて、丸くないドーナツの様に中心部だけが彼らの領地でない。

 そこには伯爵以下の貴族領がそれぞれ群集しており、それぞれニコラス派閥とカブラト派閥を形成していて、年に数回ある王城会議ではたびたび衝突しているらしい。



 では我らが魔のシルフォード家は海に接しているのかといえば、そうではない。


 とある理由から、海に接している土地は、いずれも財のリンドーン領である。

 チリの様に沿岸部に細々と、それでいて王都の真下部分だけは固有X線の様にぐんと上に伸びている。

 後ろの例えは、分かる人には分かるだろう。高校物理の原子分野で出てくるあれだ。



 というわけで、領土的には他侯爵領よりも圧倒的に小さいシルフォード領は、屋敷がある東から西へ横断するのにだいたい二日。天領を横断するのも含めて最短およそ一週間ぐらいで王都に着く予定だ。


 前回は試験に合わせて体調を整えるために、時間をかけながら毎晩宿に泊まっていたが、今回は強行軍だ。今みたいに、何もないところで日が暮れてしまったら、たき火を囲んで3人仲良く寝袋で寝なければならない。


「非常事態宣言が出て学園が封鎖される様な事態になった時、とにかく早くこっちに戻ってこれる様に、経験を積んでおくんだよ」


 近年また騒がしくなってきた隣国の状況を見て、父さんが出した指示である。学生の保護のために学園を封鎖するというのに、新入生の僕が完全に戦力として数えられてるんだが?


「私のエクスプローションを完全に防げるくせに、今更何言ってるのよ。本当にもう、魔力だけは馬鹿みたいにあるんだから」


 最近、父さんだけでなく、心配性の母さんまで発言に遠慮が無くなってきた件について。ミリド兄さんを送る時も泣いてたのに、すっかり僕の化け物扱いが定着してしまった。


 模擬戦でも、威力最大の火魔法はもちろん、風魔法も加えた爆発攻撃も使ってきて、もはや命のやり取りレベルになったんだよね。

 属性魔法を組み合わせて相乗効果を生み出すのは、今のところ母さんとグレンくらいしかできる人を見たことがない、高等テクニックである。

 当然、その殺傷能力は一属性の魔法より圧倒的に高くなる。子供相手に何やってんだ、母さん。


 僕と母さんの模擬戦って、最初は母さんの火魔法をいかにレジスト出来るかが鍵の勝負だったのに、今ではどの模擬戦よりもド派手になっていた。

 スキルのレベル差を魔力値でごり押しした結果、火と氷が飛び交って薬草畑がより被害を受ける様になってしまったのだ。


 騎士団の面々が僕を見る目が、段々母さんを見るのと同じになってきたのも悩みだったんだよね。

 向こう5年会わなくなる事に喜んでいた団員がいたのは、僕も驚いたし、ちょっと悲しかったな。グレンに殴られたのを見て大笑いしてやったけど。


「いくら薬草の被害が大きいからって、あれは酷いと思ったね。僕の魔法を母さんがレジストしないで避けちゃうからあんな惨事になるのに」


「あんなにでっかい氷の塊、火魔法じゃ対抗出来ませんよ! 仮に溶かしきったとしても、湯気になって大火傷じゃないですか!」


「えっ、でも水魔法使いだったら、あれくらい呼吸するようにやるんじゃないの?」


「普通の水魔法使いは、氷魔法の真似なんて出来ないです。そもそも対象があんなに大きい生成なんて見た事ないですよ」


「大きいと言ってもなあ、質量勝負で魔物に押し負けちゃうからなあ。氷ってさ、水より軽いんだよ」


 そう、僕が生み出す氷は、割れやすい上に軽いんだよね。先っぽを尖らすとか、形をしっかり作らないと威力持たせられないんだ。

 クラスター構造の知識で、氷が水に浮く事を説明できちゃうからね。折れ線型の水分子が、固体の状態だと規則正しく並んで、すき間の多い構造をとるってやつ。

 時々、前世の記憶が邪魔してくるんだよ。


「御者さん、なんかこう、密度を上げるイメージの助けになりそうなの無い?」


「へっ!? ミツド……ってなんすか? アゲル……ってことは唐揚げの仲間っすかね?」


「いやいや、食べ物の話じゃないよ」


「ラン様がさっき押し負けたのってヒュージボアじゃないですか。そもそも冒険者がパーティーを組んで倒す魔物ですよ」


「そういえばそうだったね……これどうしよっか?」


 馬車の横には、氷漬けになった巨大な魔物の死体があった。夜ご飯にちょうど良くて、御者さんが解体して食べたんだけど、まだまだ余ってる状態だ。


「そうですね……いくらラン様でもこの大きさは運べないですよね……」


「ん? 運ぶくらいなら別にできるよ?」


「えっ?」


「うん? いや、王都でこれを出したら騒ぎになっちゃいそうじゃない?」


「……次に寄った村に置いていきましょう。大人数で食べれば腐らせずにすみます」


 また僕の非常識ポイントが上がった気がするけど、まあいいや。いつもの事だし。


 そんなこんなで、辺りにラン式索敵魔法を撒きながら、僕達は柔らかい寝袋で夜を過ごすのだった。

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