19 それは真っ白な世界で起きた事故
僕は、自分の事を割と明るい人間だと思っている。だけど今、屋敷の私室でどうにも気分が落ち込んでしまっていた。
僕は僕自身の魔法について、ある誓いを立てていた。ある意味前世で僕が生きる理由だったものを、生まれ変わってから改めて立てた誓いだったんだ。
今回の騒動でその誓いを……激情に任せて破ってしまった。
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その誓いを立てたのは、僕が騎士団の訓練に参加するよりも前。魔法の訓練をしている時に起きたある出来事が原因だった。
魔法の訓練をやっていく中で、僕の魔力値は馬鹿みたいに、本当にとんでもないスピードで上昇していた。
それにつれ、操れる水の量、生み出せる水の量が増えていくのにも関わらず、疲れる度に挟んでいた休憩の回数は減っていく。
そんなある日、屋敷の裏手にある川の流れを堰き止め続けても疲れないようになってしまったのだ。
一般に魔法の訓練としては、魔力値の上昇を目的として負担のかかる魔法を発動し続けるものと、スキルレベルの上昇を目的として発動できる魔法の種類を増やすために研究するものがある。
母さんのような一流の魔法使いであっても、その内容は変わらない。熟練すればするほど後者の割合が増えていくが、魔力値が高ければ高いほど、使える魔法の規模や回数が増えるからだ。
僕の魔力値は習い始めた当初こそ母さんのそれには及ばなかったが、疲れなくなった時点ではすでにその倍を超えていた。天才的な才能を持つ母さんでさえ、平均して1ヶ月に3〜4上がるぐらいなのに、僕の場合、1日ごとにその数値が変化していたのだ。
実におよそ10倍の成長速度である。さすがに加護があるにしてもおかしいんじゃないかと思ってメメ様に聞いてみた。
「以前も言いましたが、あなたが目覚めたのが早すぎたから、というのが私が原因として考えているものです。あなたの未発達な体を働かせる『魔力操作』スキルの行使と、私が与えた加護によるステータス成長速度上昇が噛み合って、相乗効果を生み出しているのではないでしょうか」
世界のルールの説明を嫌がったメメ様に、加護の不鮮明性を盾に無理矢理聞き出した言葉だ。
今度はスキルの説明だが、この世界には「火魔法」や「水魔法」などの「〜魔法」スキルとは別に、「魔力操作」スキルが存在する。
この「魔力操作」は称号型に分類されているスキルで、オドからマナへ干渉する際に作用すると一般に言われているのだが、どうやらオドを使った身体操作にも関わっているようだ。
まだ脳の小さい僕が大人並みの思考速度を維持できているのもこのスキルのおかげ、という説明は前にもメメ様に言われている。
水魔法レベル1だった僕が川を止めてしまった時点で、僕の訓練は魔法のレパートリーを増やす方向へシフトした。
「属性魔法スキルは称号型よ。イメージによって起こせる現象は人それぞれだから、ランも自分の到達点を見極めなきゃいけないの。一生を決めちゃう選択だから、本当はもう少し成長してからの方が良かったんだけど……」
クヌギやクルミ姉さんは適正が火だった事と、その道の頂点が身近にいた事で母さんと似た魔法を習得することになっている。
一方で母さんは水魔法に明るくないので、僕は自分自身の魔法を見つけないといけなかったのである。
非常に難しかった。何日も考えこんでみたものの、僕の乏しい想像力では、水を使った攻撃としては莫大な量の水を用いた質量攻撃しか思いつかなかった。
分子説や質量欠損の知識が頭にあったせいで、空中に水を生み出すことすら苦労したのだ。マナがある時点で元の世界とは法則が違うと強く思い込む事で、初めて何もないところに水を作り出すことができた。
そして馬鹿魔力によって大量の水を生み出せる時点で、相手の口元を狙う窒息攻撃みたいな小技なんかも選択肢から外れてしまっている。このままでは、攻撃と災害が同時に起こるドジっ子系魔法使いになるしかなかったのだ。
そんな時ヒントになったのが、母さん達の使う火魔法、正確にはそれが持つ「熱」だ。
生み出した水の温度を操作できれば氷や熱水の攻撃ができる!
そう思いついてやってみたところ、なんと簡単に出来た。両手を水に突っ込んで念じた瞬間、大火傷したのだ。
一緒に訓練してたクヌギが悲鳴をあげ、母さんが慌てて川まで連れて行こうとしたが、僕はどこか冷静だった。手は確かに痛みを訴えていたが、空中に冷水を生み出して素早く冷ますことで事なきを得た。
手を冷やしながら、なぜこんなに簡単に出来たのか考えていたところ、前世でいう「エネルギー」というものが僕のイメージに合っているのでは、という結論に至った。
主に物理の授業で用いられた「力学的エネルギー」や「仕事」の知識が、現象を思い浮かべるのに、程よく具体的で程よく漠然としているのだ。
化学の先生が小話として教えてくれた潮力が持つエネルギーの知識が水操作を助け、日本史の先生が原爆の話題として話してくれた静止エネルギーの知識が水生成を妨げる。
熱力学の話で出てくる絶対温度の定義が、今回水の沸騰を促してくれたのだろう。
その日の僕は有頂天だった。
母さん達は心配してくれたけど、何日も出なかった正解にたどり着いた気がしたし、手を見ればレベル2になった水魔法スキルの習得が意識できる。
単純な水操作の時には感じられなかった疲労も、体の周りにダイヤモンドダストを生み出すだけで一気に感じる。
新しい段階に上った気持ちで、明らかに気分が良かった。
そしてその次の日の朝……事故が起きたのだ。
ベッドで寝入っていた時に突然響いたクヌギの悲鳴。跳び起きた僕がまず見たのは、凍りついた自分の体だった。
部屋を見渡すとあちこちに霜が降りていて所々に氷の結晶が出来ている。そしてなにより、クヌギの姿がその白い部屋中のどこにもいなかったのだ。
すぐ近くで聞こえた筈の悲鳴の主が見当たらない。覚醒した頭で考えを巡らせた僕は、顔を真っ青にしてドアに駆け寄り力の限り開ける。
そこにへたり込んでいたのは……右手を真っ赤に腫らしたクヌギだった。
21話で1章を終わらせるつもりだったんですが、誠に勝手ながら、そのタイミングで投稿してある全話を加筆修正したいと思っています。大筋は保つ予定ですが、伏線などを改めて検討して加えたいので。
別作品もそれくらいで投稿再開したいです。




