18 落ち着きのない子供
隣で御者さんが「ひぇぇぇ」と情けない声をあげているが、なるほど、人質を取れば優勢になると思っていたのか。
どうしよう、もう怪我させる事覚悟で魔法使って割り込んじゃうべきかな? クヌギもここから僕達を助け出すのは難しいだろうし。
クヌギが大男を罵倒するのを見ながら、無言で考え事をしていると、背中から話し声が聞こえてきた。
「……この坊っちゃん、落ち着きすぎだろう。刃物が怖くねえのか?」
「いや、何が起こってるのかもわかってねえんだろ」
「護衛にメイドの服着せてるような奴がか? こんだけ小せえのにもうそんな趣味があるんだぞ。オレは体を切り刻まれても喜ぶ性癖があるとみた」
そんな訳ねえだろ、どんな変態だ! 僕はマゾじゃない!
「それよりよー、ボスがあのガキ壊しちまわないか心配だぜー。ここまで準備したんだしさー、オレの分も残しといてくれねーと困るっていうかー」
……うん? この無駄に偉そうな声はどっかで聞いたぞ?
「おっさん達、どっかで会ったことある?」
「ほう、オレ達の事を覚えてるのか。直接話してはなかったはずだが」
「昨日教会で、あの護衛に一方的にやられちまったからな。印象に残ってるんだろ」
「んだとこら! オレはおっさんじゃねえ、まだ23だ!!」
……あー、思い出した。イノアに絡んでたチンピラ3人組か。
剣を抜こうとする男(23)を、僕達に剣を向けている他2人が鎮めようとしているのを尻目に、改めて現状を考える。
なるほど、こいつらの恨みを買って僕達、正確にはクヌギが襲われているのか。一人無駄にプライド高そうなやついるしね。
「おっさん達、冒険者だって言ってなかった?」
「ふっ、嘘はついてないぜ? オレ達は確かにブロンズの冒険者だ」
「だがな、真面目に冒険者なんかやるよりも、はるかに効率のいい仕事を見つけちまったのさ。魔物倒すより商人相手の方が楽だし、なにより女で遊べるしな!」
「ガキが調子に乗ってんじゃねえぞー。お前のメイド様はなー、これからオレ達にぐっちゃぐちゃにされちまうんだからよー」
…………なるほど、クズどもが。
とりあえず良かった、あの場に僕達がいて。イノアが大変な目に遭うところだったのか。
ただのナンパかと思ってたけど、こんな連中だ。宿屋なんかに連れ込まれたら、最悪命の危険もあったかもしれない。
表向きは冒険者として活動して、裏では今回のような山賊行為を繰り返す。今までこんな連中の噂も聞いた事なかったけど、常習犯のようだし、他の領地で犯罪がばれて、シルフォード領に流れてきたってところかな。
なら、クヌギが目をつけられたのは、結果的には良かったのかも。あの大男はそこそこ腕がたつようだし、人によっては相手するのが難しいだろうしね、うん。
そうか……この目の前の剣も人間の血で汚れてるんだよな。口振りからしてもう何人も殺してるんだろう。
明るい喋り方なんかしてるけど、こいつらにはそんな風に楽しげに話す権利なんてないはずなんだよな……
………………気持ち悪い。
「ぎゃあああああ!!!」
僕の後ろに立っていた男が悲鳴をあげて剣を落とす。その右手は真っ赤に腫れ上がり、皮膚には霜がおりていた。
男の悲鳴に気を取られているうちに、御者さんを拘束している男に向かって手を伸ばす。
突然起きた仲間の異常に戸惑い、固まっているその足に触れて念じる。布の上には先程と同様に霜が降り、男は途端に発生した激痛に、思わず剣を放り足を抱えた。
「あっちいいいい!!! 膝が、オレの膝が!!!」
2人を戦闘不能にし、残り1人へ向かって振り返ると、すでに背中の鞘から剣を抜いて斬りかかってくるところだった。
「うらああああ!!!」
騎士団の皆よりも遥かに遅く鈍い剣筋は、一歩出遅れた状態からでも余裕を持ってかわせる。右側へ避けた後、相手の左の肩と肘を両手で掴んでまた念じる。
「だっ!?」
短く悲鳴をあげて動きを止めた男から剣を奪い、両手を後ろにまわさせて氷の手枷をはめる。他2人も同じようにして転がした。
「外道が……そんな口きいてんじゃねえ!! お前らがやってんのは犯罪なんだぞ! 倫理的にも法律的にもやっちゃいけないことだろうが! それを仕事だなんだと……ふざけんなよ! このクズ共!!」
……ふう、ちょっと頭に血がのぼっちゃったかな。
耳元であまりに気持ち悪い事言い出すもんだから、思わず手が出ちゃったよ。
いやあ、こんなに怒ったの前世でもなかったね。向こうの笑い方が本当に幸せそうで、思わずきちゃったよ。頭にきちゃったよ、うん。
「ラ、ラン様? 大丈夫ですか? 今まで聞いたことも無いような荒々しい話し方でしたが……」
「うん、もう落ち着いた。あ、もうそいつも喋れるように頭だけ残して、他はやっちゃっていいよ。だいたい予想はついたし、見てるのも胸糞悪いし」
「ラン様!? 落ち着いてください、気を確かに!」
クヌギが近寄ってきて肩を揺すってくる。なんだい、どうしたっていうんだクヌギよ。僕は大丈夫さ、あははは。
「ラン様が、ラン様の目が魚の目のように……ファイアーネット!」
「ぎゃああ、ぐふう、ほげえ」
「とりあえず早く屋敷へ……あなた達! 無理矢理引きずられたくなかったら走ってついてきなさい!」
大男を雁字搦めにして他の奴らの網と結合。足元だけ自由にした状態で馬車につなぎ、御者さんが鞭を叩いて僕達は屋敷への帰路についたのだった。




