15 僕が追い払うのがテンプレなんだけど……
「なあなあ、良いだろう? 少しぐらい付き合ってくれたって。損はさせないからさ」
「そうそう、ちょっとそこまで行ってかるーく相手してくれるだけでいいんだよ」
「オレ達、魔物狩りで疲れちゃってよー。神官様に癒してもらいたいっていうかー」
「しつこいのです。孤児院のお世話があるから無理だとさっきから言ってるのです。というか私が神官見習いである事もわからないとは、貴方達本当に冒険者なのですか?」
修道服を着た金髪美少女が、チンピラ3人に絡まれながら教会に入ってきた。会話を聞いた感じ、どうやらナンパの類のようだ。
……イノアはまだ12歳なんだが。こいつら本気で狙ってるのか?
と思ったが、この国においてこの年齢層をターゲットに据えるのは別におかしい事じゃないのを思い出した。
生活魔法で清潔な環境を保ち、神聖魔法で病気を治せるこの世界だが、残念ながらエリアス王国の平均寿命は前世の現代のものよりも短い。老衰ではなく、魔物による外的要因で亡くなるパターンが多いそうだ。
貴族の女性の結婚適齢期こそ学園の関係で10代後半とされているが、平民、特に死亡率の高い冒険者にとっては生理を迎える女性は誰もが行為の対象になりうるらしい。ちなみにショタも一定の女性層から狙われるとの事だ。
前世の記憶があり、オタク文化に片足を突っ込んでいた僕だが、前述した通りロリコンではない。好みとしてはクヌギ(外見のみ)より少し上くらいがちょうどいいのだ……そこ、精神年齢20歳超えてるとか言わない。
そんな僕からすれば違和感の塊の会話だったが、残念ながら彼らは正常である。宿屋に行っても特に変な目で見られる事はないだろう……相手の同意さえあればだが。
「ほら、もう教会に着いたのです。いい加減帰ったらどうですか? あまりにしつこいようだとギルドに通報する事になるのです」
「まあまあ、そんな事言わずにお兄さん達といい事しようよ」
「そうそう、少しぐらいお仕事休んだって誰も文句なんか言わないからさ。パーッと遊んで気分良くなったらすぐ戻ってこれるし」
「ていうかー、オレ達冒険者なんだけどー? 魔物から守ってやってるんだから言う事聞けっていうかー」
完全に事案です。最後のやつ、なんか妙に偉ぶってるし。
……僕が追っ払わなきゃダメかなあ。うーん、イノアも嫌がってるようだし仕方ないか。
そう思って立ち上がろうとすると、すでにクヌギがイノアに歩み寄り3人に罵声を浴びせていた。
「ここは神聖な教会ですよ。貴方達のような、心まで腐っていそうな人間が来るところではありません。アンデッドのように臭うその汚らしい身なりで教会を汚す前に、どうぞお帰りください」
……お、おう。相変わらずの毒舌である。アレが溢れ出ちゃってるな。
「ア、アンデッド!? おいおい、言ってくれるな姉ちゃん。これでもブロンズの冒険者なんだぜ?」
「そうそう、なんなら姉ちゃんも混ざるか? こっちは大歓迎だぜ」
「ふ、ふざけんな! てめえ、このオレ様にそんな口きいていいと思ってんのか、ああん?」
若干一名、我慢できてないのがいるぞ。
ちなみにブロンズとは、冒険者の強さを五段階で表したうちのちょうど真ん中である。石、鉄、銅、銀、金の順に強くなっていき、ブロンズは中級冒険者としてそこそこ知名度もあるはずなのだが……
はて、こんな奴ら見たことあったっけ?
「お、おい、落ち着けって。もうすぐ落ちそうだってのに刺激するんじゃねえよ」
「そうそう、人数増えればその分美味しい思いが出来るんだからよ」
「穢らわしい。なぜまだ私たちの視界から消えていないのでしょうか……ああ、なるほど。私の言うことが理解できないほどの大馬鹿者だったと、そういうことでしたか。これは失礼しました」
「んだと、このくそ女があ!!」
逆上したチンピラCが剣を抜いてクヌギに斬りかかる。寸止めするようでもなく全力を込めているようだ。おいおい、穏やかじゃないな。
「きゃあっ!」
悲鳴をあげクヌギにしがみつくイノア。一方クヌギは涼しいというより白けた顔で手を相手に向け呟く。
「火魔法・ファイアーネット」
「「「うおお!?」」」
網状に展開された炎がチンピラ3人に襲いかかっていく。見るからに痛々しい映像だが、教会の外に投げ出された3人に火傷の痕は見当たらない。
「今後一切この教会に近づかないように。怪我をした時は他の教会に行ってください。次絡んでくるようなら正式にギルドに報告しますので」
そう言いながら手のひらに火を浮かべるクヌギに、「「「お、覚えてやがれ!」」」と捨て台詞を残し走り去っていくチンピラ共。
震えるイノアを抱き寄せて頭を撫でるクヌギの姿は、まさにモテる男主人公のそれであった。
……僕の出番なかったんだけど。
♢♦︎♢♦︎
とある路地裏にて、チンピラ3人が歩いている。
「くそったれ。もう少しって所で邪魔が入りやがった。なんなんだよ、あの女は」
「どうすんだよ、このままじゃボスに今週の分献上できないぞ。はあ、女攫うのも満足に出来ねえなんて、こんなでけえ街になんか来なけりゃよかったぜ」
「そんなことよりあのクソメイドだ。あんな男の経験もなさそうなやつに……くそがっ!」
ガンッと腹いせに壁を叩く男。その表情はおよそ冒険者などとは程遠いものであり、男の目は今すぐにでも犯罪を起こしそうなくらいにつり上がっていた。
実際彼らは前科持ちの犯罪者である。
とある田舎町で冒険者として活動しながら、裏では町に来る商人や旅人を山道で襲って金品を奪い、女がいれば持ち帰って遊び倒す。腕っ節のあるボスのもとで山賊行為を繰り返してきた極悪人である。
この国において、犯罪行為は裁判によってのみ認められるものであり、失踪率の高い町へ領主軍が調査にやって来たところを見て慌てて逃げてきたのだ。
調査と同時に姿を消した彼らは当然容疑者として疑われるだろうが、貴族領を跨いでしまえば追っ手は来ないと踏んでやってきたリーブオの街。
一方でギルド経由で手配される可能性は全く考えず、とりあえず日銭を稼ぐために魔物を狩り、女好きのボスに渡す前に遊ぼうと宿屋に連れ込もうとして失敗したのだった。
時に、彼らの身なりは明るいこの街では滅多に見ないようなものであり、それ故にイノアも怪しがって離れようとしていたのだが……女を口説き落とした経験もない彼らは、今回の失敗は全てあの罵倒メイドのせいだと思い込んでいるようだ。
「女風情がなめやがって……おい、あの女攫ってヤっちまおうぜ。やられっぱなしじゃオレの気がすまねえ」
「おいおい、あの魔法はどうすんだよ。数揃えたってあれじゃあ返り討ちだろ。今度こそギルドに突き出されちまうぞ」
「いや待て、あのメイドはメイドにしては魔法の腕が異常だ。確かあそこにもう一人ガキがいたはず。おおかた、貴族の坊っちゃんが趣味で護衛に着せてるってところだろう」
ニヤリと悪い笑みを浮かべる1人に、他2人も頷きを返す。彼女の本職がメイドである事など露知らず、彼らは人攫いの準備の為に仲間たちのもとへ向かうのだった。
この作品、作者は勝手に「てんのぞ」と読んでいるんですが、「てんのぞ」とは別の作品を書き始めたんです。
毎日曜の朝に投稿しようと思うので、そちらも是非読んでみてください。




