13 閑話 とあるメイドの呟き
私の名前はクヌギと言います。
エリアス王国の侯爵家の一つ、シルフォード家に仕えるメイドの一人。とある縁でご当主様の妻であるセリーナ・シルフォード様に命を助けてもらって以来、この家で働くようになりました。
ここカルバス台地に住む皆さんは、使用人の中で最も若い私にとても優しくして下さいます。特にセリーナ様は魔法の指導もしてくださって、9歳になった今、直伝の火魔法の実力は、魔法騎士団の皆さん並という評価を頂いております。
「クヌギは筋が良いわ。あと10年も頑張れば私を超える魔法使いになれるわよ」
そう言って、お腹を膨らませたセリーナ様が頭を撫でてくださったのは、私の大切な思い出の一つです。
まあ、実戦経験は対魔物戦しかないので、純粋な戦闘力という意味では騎士団の皆さんには敵わないんですが。
……なぜセリーナ様はあんなに強いのか、甚だ疑問です。剣を持ち込む模擬戦に丸腰で挑んで、なぜ勝てるのでしょうか。騎士団の皆さんも手加減してなさそうなのに……
そんな若輩者の私ですが、シルフォード家に仕えて4年目の初春、少し立場が変わりました。
セリーナ様がお腹を痛めて産んだ4人目の子供、ラン様の専属メイドとなったのです。
男の子として生まれたラン様は、残念ながらシルフォードを名乗ることが出来ず、アザレア姓をセリーナ様のご実家からいただくことになりました。
生まれる前から私が専属になる事は決まっていたのですが、将来私はラン様と一緒にこの家を出ていかなければなりません。
セリーナ様と離れてしまうのは非常に残念でしたが、ラン様のお世話は手を抜くなんて事をせず、精一杯やらせてもらいました。
当然です、大恩あるセリーナ様のお子様を任せていただいたんです。何か問題でも起こしたらと思うと不安で仕方ありませんでした。
……今思えば、随分気を張っていたようです。私に優しくしてくれる皆さんに何か恩返しをしたかった、という思いがあったのかもしれません。
ラン様が生まれて1年と少し経った頃、ラン様が私の事を「クヌギ」と呼んでくださいました。
急いで旦那様達に報告し、部屋へやってきた御二方も「パパ」「ママ」と呼ばれてとてもお喜びだったのを良く覚えています。
私も名前を呼ばれた事は素直に嬉しく、しばらくの間上機嫌で掃除をしていました。
それから数日後、ラン様はお屋敷の中を歩き回り、色んな物の名前を覚えようとしました。その日の夜、旦那様にその事を報告すると、絵本を読み聞かせるように言われました。
お部屋に戻って早速絵本を開いたのですが、一日中歩き回ってお疲れだったんでしょう、お休みになってしまったので生活魔法をかけてベッドに運びました。
次の日からも、ラン様は色んな所を渡り歩いて色んな事を尋ねてきました。イ文字の習得にも精力的に取り組み、たくさん会話をこなせる様になりました。
それからまた数日後、夕食の席で旦那様に質問されて初めて気づいたのです。ラン様の習得速度がおかしいことに……
ラン様の専属になってからすでに3年。
相変わらずラン様との生活は驚きの毎日です。最近では頭の良さだけでなく、身体能力や魔法についても異例の成長を見せています。
ラン様との会話は、セリーナ様との会話と同じくらい話しやすく、シルフォード家の皆さんとも非常に仲良く話しておいでです。
最初なんて薄気味悪いと不審がられていたのに、今では意地っ張りなミリド様とまで親密に接しておられます。
きっと前世では、私には考えつきもしない善業をなしたのでしょう。3歳児らしくないその才能は、転生神様のご加護ぐらいでしか説明できません。
話し方もずいぶんと大人びていて、まだ幼いその笑顔で私の容姿を褒めてくださった時にはもう何も考えられなくなってしまいます。
……相手は3歳児ですよ、私。
原則平民が登用される文官は、貴族様と違って重婚は出来ないんですが、ラン様はどうなんでしょう。もし平民扱いであればいつか刺されてしまうんじゃないでしょうか。私、心配です。
あるいは私も、ラン様の妾になる事があるんでしょうか……




