11 女神様との再会
毎週木曜日の13時に投稿します。
結構な時間をかけて、託宣の衝撃からようやく抜け出したクヌギと神父さん。
クヌギはもう少し僕のステータス情報に言及したかったようだが、「お祈りの時間」の確保のために渋々引き下がった。
「お祈りの時間」は、文字通り神様へ祈りを捧げる時間のことだ。自分の中で抱えるしかない悩みなどを、なんと神様が直接聞いてくれるらしい。
まあ別に僕、今困ってることとかないんだけど、初めて教会を訪れた人は必ず「お祈り」をする決まりらしい。メメ様とも話したいしね。
机と椅子を片付けて、神父さんが正面の女神像の前で話し始める。僕とクヌギは並んで座ったままだ。
「祈るという行為は、この世界を見守る神様に感謝する、という事を意味します」
「神様のお陰で、私たちは食べ物を得る事が出来ています。武器を作って畜生を狩り、より良いものを作って生活を豊かにする。私たち人間の生活は、神様の与えてくれるスキルが無くては成り立ちません」
「そして神様は、私たちに『祈り』スキルを与えてくれました。祈りによって、神様の声は私たちに届くようになっています。神様は私たちに心の拠り所も与えてくれたのです」
「欲を捨て、疑いを捨てて信じなさい。あなたの祈りが真であるならば、必ず神様は答えてくれるでしょう」
神父さんの真似をして、両手を組んで、目を瞑る。
……思い浮かべるのは、当然メメ様の姿だ。最後に目にしたあの修道服姿を思い出して、頭の中で像を組み立てる。
段々と周りから音が消えていく……
♢♦︎♢♦︎
「ずいぶん早くに目覚めましたね」
そう声をかけられて、意識がはっきりと覚醒する。周りは、前に見たのと同じ宇宙空間だ。
僕はファミレスなんかに置いてあるお子様用の椅子に座っていて、目の前にはお茶とクッキーを載せた丸型テーブル。反対側には、前と同じ白い修道服に身を包んだメメ様が座っていた。
「お久しぶりです。今日はスーツ姿じゃないんですね」
「あれは私の仕事着です。あの格好だと仕事のペースがあがるんですよ」
「そうなんですか。でも僕的には今の格好の方がいいですね、とても綺麗ですよ」
「うふふ、ありがとうございます」
そう言って微笑む姿は、やはり人間らしくない、神々しい雰囲気をまとっている。首を傾げる動作に、全然あざとさを感じない。
……ああ、見てるだけで幸せだ。
日本人と同じ黒髪黒目を見ていると、ミトゥンに来てからは目にしていないからか、ひどく懐かしい気分になる。
「目覚めるのが早いっていうのは何のことですか?」
「前の世界の記憶を思い出すのが早いってことです。大体6歳ぐらいで脳が十分な容量を持つのでそこで思い出すよう設定したんですけどね。あなた、1歳半くらいで思い出したじゃないですか」
「えっ、そうだったんですか? 変な後遺症とか残らないですよね?」
「後遺症というか……あなた魔力値と魔力操作が凄い事になってるでしょう?足りない容量を補うために脳を魔力で活性化してるのよね。まあでも、寿命が短くなるとかは無いですから、安心してください」
「そうですか、良かった。それでですね……」
会話を続けようとすると、メメ様が両手を前に出して止めてくる。
「待ってください。私との会話なんですが、あるルールがあります。私はいわばデータベースなんです。質問されればどんな問いにも答えることはできますが、それは私の望むところではありません。あくまで、人間の悩みを聞くための時間なので」
「そうですか、それは失礼しました」
「いえ、謝る必要はないですよ。それよりもあなたのお話を聞かせてください。あなたの人生に興味があるんですが、私も常にミトゥンを見ているわけじゃないので」
そんなわけで、僕はメメ様にいろんな話をした。
僕の現在に至るまでの身の上話から、家族と過ごす普段の生活の話、この世界で新しく発見した人生観までとにかく色々と。
メメ様は相槌を打ちながら、どの話もとても楽しそうに聞いてくれていた。
「ミトゥンでの生活があなたに合っているようで良かったです。あなたの召喚の後、前世での記録を見ていたら何だかとても泣けてきたんですよ。中々辛い人生だったようで……ここでならあなたも幸せを見つけられそうですね」
「いやー、お恥ずかしいです。でも僕、毎日が充実してて楽しいです。生まれてから3年しか経っていませんが、この世界に転生できて良かったと思ってます」
「うふふ、そうですか」
そして、机の上のクッキーがなくなってきた頃、体が引っ張られるような感覚を覚える。どうやら時間のようだ。
「そろそろ時間みたいです。クッキー、ご馳走様でした。美味しかったです」
「いえいえ、私も楽しかったです。良ければまた来てね」
頷くと、メメ様の姿がどんどん離れていく。同時に視界も光に包まれていく……
♢♦︎♢♦︎
気がつくと、教会に戻っていた。横からクヌギが覗き込んでいる。
「あっ、起きられましたか、ラン様。神様とのお話はどうでしたか?」
「うん、とても有意義だったよ。父さんは?」
「奥で神父様とお話ししています。先程まで、ラン様の結果を見て固まってましたよ。口が開いちゃっててとても面白かったです」
うん、クヌギもさっきそうなってたよ。
クヌギが父さんを呼びに行って、神父さんに挨拶したらそのまま教会を出て門へ向かう。まだ明るい時間だったが、今から帰らないと帰り道の途中で暗くなってしまう。
門で馬車を返してもらい、門の前の冒険者の列を横に見ながら、屋敷へ帰る。
帰り道で父さんに、今日行った正教会について話してもらった。
正教会は、「正オルディナ教」という宗教を掲げる宗教組織だ。
かつて「オルディナ教」と呼ばれる宗教がここエリアス王国の国教であったが、ある時、オルディナ教会と王家が強く結びついて宗教国家化しかけた事があったそうだ。
教会が独占する「神聖魔法」の操り手。病気や怪我の治療を名目に、市井から巻き上げた莫大な金を元に、王家への贈賄が行われ、教会のトップ陣が国政に口を出し始めた。
上がそんな事をするもんだから教会全体に汚職の風潮が広まり、純粋な信仰心が薄くなっていく。
ところが、信仰心によって成長していくスキルが教会信者の強みだったので、上に立つものよりも純粋な信仰を守るものの方が優秀という事態が生まれたのだ。
私欲にまみれた人間がそのような状況を許せるはずが無く、「スキルの優劣に関わらず、偉い者は生まれながらに偉い」という暴論を神の名を騙って言い始めた。
しかも当時の国王がその後押しをしたため、これが「優秀な人材でも、卑しい者は偉い者の下で働かなければならない」という思想に変化する。
これによって平民が「宗教奴隷」という名前で王国の所有物として扱われそうになり、暴動が起きそうになったところで、クーデターが起きる。
当時の第一王子が四侯爵家の力を借りて王城に攻め入り、国王の首をとったのだ。
荒れる民衆の前で、父の首を手に国王の世襲と純粋な信仰を続けた「聖女」を正妻とすることを発表し、オルディナ教の国教認定の停止を宣言したそうだ。
以来、オルディナ教の代わりに、その聖典を合理的解釈で書き換えたものを教本として「聖女」が広めた正オルディナ教は、民衆に広く広がっていった。
「即位したフィットル王は、『時代に合わせて、我々は変化しなければならない。もはや国家は民のために存在するのみで、国王は少し力のある民に他ならない』と宣言してね。平民出身の女性が王族入りした事もあって、王国内での平民の地位が一気に上がったそうだよ」
ふむふむ、暴動による革命を防いで、王政を保ったまま国民主権を掲げた、って事か。すげえな、フィットル王。
スキルのレベルで信仰心が測れる世界で神を騙った、というのもすごい。祈りスキルで誰もが神様と話せるのに、そんな事して嘘がバレないと思ったとか、どんだけ頭お花畑なんだよ。
「オルディナ教は一神教でね。創造神オルディナを絶対視して、それ以外の超常的な存在、僕達が普段話す神様のことは神の使いの天使と呼んでいたんだ。オルディナ様と話せるのは低くてもレベル8の祈りスキルが必要とされていてね。新旧合わせても、歴代教皇の中で実際に話せたのは二桁いないって話だよ」
「えっ、でも今日会った神様は女神だって名乗ってたよ?」
「さっき言った『オルディナの闇』をきっかけにオルディナ様に許可をいただいたみたいだね。実際オルディナ様とそれ以外の神様は格が違うらしいし」
……あれか、メメ様が女神と名乗っても良くなった、って言ってたやつか。
「正オルディナ教は、とにかくオルディナ教とは違う事を重要視してね。スキルを使ってお金をもらう事以外は全く別の宗教なんだよ。それも以前よりだいぶ安いらしいしね」
多神教で、厳しい戒律も無く、何より神様と話せるという事で、平民のみならず貴族にも広まったらしい。
今日行った正教会は怪我した冒険者が金を落としていくため、孤児院も併設されてるんだとか。
……あのおっさん、神聖魔法使えるのか。あんなパッとしない見た目だったのに。
その後特になんのアクシデントも無く行きに通ってきた森を抜け、屋敷に着いた時、ちょうど夕暮れが見えた。
夕食時に僕のステータスの話で母さん達が固まるのを見てクヌギが笑い、お風呂で父さんに魔法の適性を調べてもらって、ベッドに入る。
明日から魔法の特訓をしてくれるらしい。
ついにこの世界で魔法を使えるようになるのか。僕の魔法の才能はどれくらいなのか、とても楽しみだ。
……生活魔法?ノーカンだよ、ノーカン。
教会の設定が思いの外長くなってしまいました。
次話はもう少し控え目の予定です。




