10 迷ってない子羊、教会へ
シルフォード領の端の方に存在する街、リーブオ。
ダンジョンのすぐ近くに建物を作りやすい立地があった、という理由でシルフォード家が作り上げた街だ。
ダンジョンから湧き出る無数の魔物達は、それ自体脅威である反面、そこから採れる魔石や素材は重要な資源だ。
実際、街を管理する「リーブオ議会」、その活動資金の源は他の街や隣接するキノノメ男爵領とのダンジョン資源の交易であり、後者に至っては関税という形でシルフォード家も利益をあげている。
その街の空気は、一言で言えば明るい。
昼間は大通りに出店がずらっと並び、一個でも多くの商品を買ってもらおうと売り手が客寄せのために声をあげる。
日が沈んでからも街のあちこちにある酒場からは、一日中働きづめだった冒険者達の喧騒が溢れてくる。
冒険者は、決して安全な職業ではない。
気性の荒い魔物の相手は、一歩間違えればそれが致命傷につながるし、ダンジョンの中ではなおさらである。
職務中の死亡率は極めて高い。
にも関わらず、リーブオの冒険者の数は年々減るどころかむしろ増えている。
これは、ひとえに言って冒険者の実入りがいいからだ。
ダンジョン内での狩りは、日雇い労働や従軍よりも確実に儲けが出るし、ベテランの中にはそこらの商会で働くよりも羽振りがいい者もいる。
一攫千金を目指して、腕に覚えのある若者達が次々に集まっており、居住区の拡大のために過去何回か、街を囲う壁を増築するほどである。
普段は、税収の報告などを屋敷で受ける父さんだが、今回またこの拡大事業が行われているとのことで、工事進捗を確認しに来たんだそうだ。
そして、総人口の四割が冒険者だというこの街には、あるいはその冒険者特有の自由さが影響しているのかもしれないが、複数の教会がある。
いずれも異なる宗教のもので、今回僕が行くのは正教会のところだ。
「こちらですよ、ラン様。しっかりついて来てくださいね」
「ねえ、クヌギ。ちょっと寄り道していこうよ。僕、冒険者ギルドってところ見てみたいんだけど」
「ダメです。ラン様があんなところに行く必要なんてありません。ああいう人達と関わろうとしちゃいけません」
「いやいや、そんな事言っちゃダメだよ。僕が将来、貴族になろうが文官になろうが、そうやって人との繋がりを蔑ろにしちゃいけないよ。たとえ、相手が平民であってもね」
「……わかりました。ですが、今日は日帰りの予定なので時間がありません。教会でのお祈りの時間が無くなってしまいます。今度来た時に一緒に行きましょう」
そして最初に入った門から10分ほど歩いたところで、壁が真っ白な建物についた。中に入ると、背もたれのある横長の椅子の列が左右にあり、正面には大きい女神像。その左右に小さい女神像が並んでいる。
奥へ進むと、横にある扉から女の子が出てきてクヌギに話しかけてくる。クルミ姉さんと同じくらいの歳かな。
「こんにちは。正教会に何か御用があるのですか?」
「ええ、今日は託宣をお願いしたくてですね。神官様を呼んで来てくれますか」
女の子はこくん、と頷くと出てきた扉へ戻っていく。少し経ってから、今度は黒い服を着た、中年太りのいかにも善人な感じのおっさんが出てきた。
……わがままボディのお姉さんじゃなかったかー。
「どうも、こんにちは。託宣の依頼という事でしたが、親御さんはいないのかな?」
「いえ、後から来る予定です。本日はこちらのシルフォード侯爵様のご子息であるラン様のステータス情報をお願いしたくてですね……」
「なんと、貴族の方でしたか。これは失礼。わかりました、ではどうぞそちらの椅子に座ってお待ちください」
そして僕達が座った椅子の前に自分用の椅子と机を持ってきて、託宣の説明をしてくれた。
託宣スキルは、人間の知り得ない情報を知ることの出来るスキルで、恩恵型だそうだ。教会で祈ることで得られるスキルの一つで、中々得るのが難しいらしい。
このおっさんは、レベル6の託宣スキルを持っていて神父としてここの教会を運営しているそうだ。
「託宣は、子供の才能を見る場合は大体6歳ぐらいがいいと言われているんですが……ラン様は何歳ですか?」
「3歳だよ。でも隠蔽のスキルのせいで観察スキルが妨害されちゃって正確な情報が得られないんだ」
「ほう、隠蔽ですか……うん? 隠蔽?」
やはり、僕の成長速度はおかしいらしい。事情を説明しても中々理解できない様子だったが、とりあえず託宣をすれば分かると言ってやってもらった。
目を閉じた神父さんが次々と紙に文字をおこしていく。
ラン・アザレア 3歳 男
所属:エリアス王国
人種:人族
身分:侯爵家子息
力:20
魔力:175
素早さ:43
体:4
技能:5
所持スキル:魔力操作LV6 隠蔽LV4 絵描きLV3 観察LV1 生活魔法LV1
結果を見た神父さんもクヌギも口をあんぐりと開けて固まってた。
……うむ、案の定やってしまったようだ。
「ラン様……ま、魔力操作がレベル6なんですが……それに魔力の数値がおかしい……いや、よく見たら力と素早さの欄もおかしいですよ……」
「な、何だこの子は……化け物みたいな数値が出てるぞ……」
おい、おっさん。子供を化け物呼ばわりすんな。こちとら貴族様だぞ。
そういえば、クヌギにも隠蔽スキルがある事を言っただけで、他のスキル情報は言ってなかったな。魔力操作が何のスキルか分からんが、レベル2と6じゃだいぶ違いそうだしね。
ちなみに生活魔法は、クヌギがやってるのを真似してたら出来るようになった。クヌギは部屋の掃除の仕上げに少量のホコリを消すのに使っていたが、僕にとってはトイレとかお風呂とかで自分の体に使う魔法だ。
ご都合主義あるあるの「浄化魔法」にあたるもので、例に漏れず僕もどういう原理なのかさっぱりわからない。まあ、便利だからいいんだけどね。細かいことは、気にするな。
クヌギも僕が生活魔法を使えるのを今知ったようで、
「ありえません! 何で属性魔法より先に生活魔法を覚えてるんですか!」
と大声で言われてしまった。
……おかしいな。別にすごいチート能力もらったわけじゃないのに人を驚かせてばっかりだ。なんだろう、転生者の定めなのだろうか。
こうして今日も僕は規格外の子供として改めて認識されるのだった。
次の話からは一週間一本ペースで更新する予定です。
文字数も増えるかも……




