65.オープンスクールデー 2
家に帰ってからは、ギャンギャンと彰仁に絡まれた。やっぱバレてたよね。
「姫奈子、なんであんなところにいるんだよ! しかも変な格好して!! なんなんだよ!! 修吾に笑われたんだからな!」
あら、修吾くんに笑われちゃったのか。
「ちょーっと、用事があったのよ。オホホホホ」
「お嬢様は銀杏を洗っていました」
綱がバラす。やめてくれ。
「オホホホじゃねーよ! なんだよ銀杏て!!」
「あの裏に素敵なイチョウがあってね。ちょっと拾って洗っただけよ。ほら紅葉狩り的な? 風流でしょう?」
「紅葉狩りじゃないだろ! なんで洗ってんだよ!」
「うちに帰って処理したら臭くてたまらないでしょ? だから学校で綺麗にしてからと思って。ああ、銀杏は乾いてから焼いてあげるわ」
「焼き銀杏の話はしてない! あの後、生徒会に話しかけられたんだぞ!」
「あら良かったじゃない。光栄ね?」
「なんだよ、なんでそんなに平然としてんだよ? そんな調子で、淡島先輩や氷川先輩に変なこと言ってないだろうな?」
「いえ特に? 世間話など?」
「世間話? 世間話できる仲なのか?」
「別に世間話位するわよね? 綱」
綱に振れば、綱は無表情で答えた。
「氷川くんとは同じクラスですからね」
「じゃあ、淡島先輩とは何だよ! 芙蓉でもないくせに学院で何してんだよ!」
「別にいいじゃない」
「良くないよ! 淡島先輩だぞ!? わかってるのか?」
「ええ、存じ上げてましてよ?」
腹黒淡島先輩だ。良ーく知ってるともさ。私が一番怖さを知ってるとも!
「失礼なことしてないんだろうな?」
「してるかもしれませんね」
綱がシレっと答える。
「ちょっと! 綱! 冗談でも止めて!」
「お嬢様なら氷川くんにも失礼なことをしそうです」
「姫奈子! マジで止めてくれよ??」
「私だって命は惜しいもの! 綱、変なこと言ってたら注意してよ!」
そう言えば、彰仁が黙った。そう、私だって命は惜しい。もう二度と没落の憂き目はご免である。
「私が側にいる限りではフォローいたしますよ、お嬢様。彰仁さまも今のところはご心配なく。生徒会の方々には親切にしていただいておりますから」
綱が笑う。綱が言うなら大丈夫だろう。
「ああ、そうだったわ。綱、来年からは彰仁のことも呼び捨てしてね」
思い出して綱にお願いする。入学前までに打ち合わせておかなければならなかった。綱は気まずそうに彰仁を見た。
「ああ、そうだ! 綱。そうしてくれ。学校で後輩に『さま』つきなんておかしいもんな」
彰仁が屈託なく言えば、綱は戸惑ったようだった。
「そうよ。氷川くんが『くん』なのに、彰仁に『さま』なんておかしいわ」
「……そうですね。善処いたします」
「試しに、名前で呼んでみてくれ、綱」
彰仁が天使の全開笑顔で笑えば、綱は一瞬息を飲んだ。
そして顔を真っ赤にして、絞り出すようにして名前を呼んだ。
「彰仁……」
その声があんまりにも深く美しくて、彰仁が赤面した。
「やっぱり、何か慣れませんね?」
照れたように綱が笑った。
「綱の声、なにか……すっごい? えっち?」
思わず呟く。
「姫奈子のバーカ! バーカ! ばーか!!」
彰仁は捨て台詞を吐いて逃げていった。それだけの威力だったのだろう。
「変な子」
思わず笑えば、綱がジッと私を見た。
「どうしたの?」
「いえ……」
言ったきり、黒い瞳が私を見つめている。不思議に思って首をかしげる。
「ねぇ、姫奈」
家の中で不意打ちの名前呼びに、ボッと耳まで火照る。
綱の声は、酷く美しい。思わず顔を覆った。変な顔をしていそうだ。そんなの見られたくない。恥ずかしい。
「ちょ、っと、やだ。なによ、急に」
「別に、彰仁さまをお呼びしたので公平にと思ったまでです」
穏やかに微笑まれて、胸がバクバクと鳴る。
「綱の、綱のばーか!!」
私もその場を逃げ出した。
語彙力皆無のヘタレ姉弟である。







