不運
男は運が悪かった。
「ハアハア、くそ! なんで俺がこんな目に……」
目を覆い隠す程の前髪に無精髭。ギャルゲーの主人公が不摂生になったような見た目の男だった。
男の人生は、神様から嫌われているかの如く運が悪かった。
少年時代は親の仕事の都合で転勤が多く、どの学校でも社交的だったため、直ぐに友達は出来たが引っ越しを繰り返し、逆にその性格がムカつくとイジメにあった学校で永住することになった。
小、中、高と運悪くイジメ関係者と進路が被り、最悪ともいえる学生時代を過ごした。せめてもと高校受験の時に進路を別にすることに成功したのだが、進学した高校のクラスの四分の一がイジメをやっていた奴の友達というドツボ。お金を貯める為に始めたアルバイト先がことごとく潰れるという不運っぷり。
男は段々と運命を呪うようになった。
しかし男はまだ諦めなかった。
頑張って勉強をした。頑張って仕事をした。
努力のかいあって、志望大学に余裕で合格できる程の学力もついた。
しかし男は受験当日、車に弾かれそうになっている老人を助けて受験出来なかった。
男は絶望した。
そんな男は、たった今、警察官に追われている。
「どこに行く気だ! もうどこにも逃げられんぞ!」
カンカンカンカンと、ビルの非常階段を男と警察官二人が登っていく。警察官の一人はかなりバテているのか、大分離されているが、もう一人は男に手が届くところまで迫っていた。
「大人しく――うおっ」
掴み掛かった警察官の手が空を切る。男は突然しゃがみ込むと水面蹴りを放ち警察官の軸足を蹴り、前に倒れこんできた警察官を肩で受け止めるようにいなすと重心を的確に読み、沈み込んだ分だけ伸び上がり警察官を階下に落とした。
「うああああああ!?」
「ハッ、ゼッ、へ?」
息も絶え絶えに登ってきた警察官に落とされた警察官がぶつかる。
男は慌てたように手を伸ばした。
「大丈夫ですか!? わざとじゃないんです! ――おっと」
男が伸ばした腕の袖から手榴弾が零れ落ち、男は咄嗟にピンを掴んだ。
男が警察官に偶々……偶々! 追いつかれた踊場には非常口があったので、いかんせん非常事態に付き緊急避難措置として非常口の扉を開けて避難した。
「ヒッ――」
警察官が何か言ったようだったが、爆音でかき消された。
「……そんな……」
男の顔は悲壮に彩られていた。
「偶々足が滑ったら偶々警官の足に当たって偶々俺の方に倒れこんできたから肩でささえたら偶々勢いがついてしまって偶々追いかけてきてたもう一人の警官に当たって偶々護身用に持ってた手榴弾が零れ落ちて偶々掴んだ所が手榴弾のピンだったなんて……ああ、なんてついてないんだ」
……え? あ、うん。
「大体なんでイジメていた奴らを三十四人拷問して殺しただけで捕まらなきゃならないんだ! 絶対間違ってる!」
そうだね。
「昔からそうなんだ昔から。支配出来そうだった地域からは転校させられて、正義の味方面する奴らがいる地域に永住することになるわ、アルバイトを始めた店で横流しをしたら直ぐに潰れるわ、大学受験でストレス溜まってんのにトロトロ横断歩道渡ってたババア蹴り飛ばしたら偶々寿命が来ただけなのに殺人犯扱いされるわ、なんだってんだ!」
だよね。
非常ベルが鳴り響くビル内を男は歩く。
男はどこか手近な所で服を着替えようと思った。服を変え髭を剃り避難する人の波に乗ろうと思った。危ないからね。きっと火災だね。
どうやらこのビルのこの階は食事処の個室のようだ。
男はとりあえず一番近い個室を開き、説得して服を譲って貰おうと思っていた。
男は個室の扉を開いた。
薄暗い室内には座り心地の良さそうなソファが二脚。一つには目つきは鋭いが美人OL風の長い髪を肩で一纏めにした女性が。もう一つは空。
しかしそのOL風美人の後ろにオレンジ色のつなぎの様な服装の特にどうといった特徴のない男性が立っていた。
男は運が悪かった。
モレ
「じゃじゃーん。モレ、現る」
強敵
「ば、ばかな……何故ここに!?」
モレ
「しかしモレからは逃げられない!」




