ため息
ティアは狼の血抜きを行う。
腸を出し、首元にナイフを入れ、足に縄をかけてぶら下げる。
「これは、何をやっているんだ?」
「血抜きよ」
「血抜き?」
「まあ、動物の肉を痛ませないようにするものよ。出来れば水場でやりたかったのだけれど、この辺にはないから」
「なるほど」
狼は馬車の後ろにつるし、ティアは馬車の操縦に戻った。
「行くわよ、馬車に乗って」
「分かった」
クロが馬車に乗り込むと、ティアは馬車を進める。
「なあ」
「今度は何よ?」
「何で、馬車に乗るんだ?」
「それは荷物を運べて、更に走るより速いからよ」
「そうなのか?俺が走った方が速い気がするが……」
「私はそんなに速く走れないわよ!」
「そうなのか、ならいい」
「はぁー」
また、ティアはため息をついた。
もし、ため息で幸せが一つ逃げるのであれば、このままいくとティアの幸せはなくなってしまいそうだ。
しかし現状ティアはクロから逃げることはできない。
きっと逃げてもクロに追いつかれてしまう。
たとえ馬車で逃げてもだ。
よってティアはクロからの質問攻めとため息の連鎖を繰り返す。
「ティア?」
「何?」
「何で、ティアはその首輪をしているんだ?」
首輪とは「隷属の首輪」のことである。
「これ?だって、私は奴隷だからよ。」
「奴隷って何だ?」
「奴隷はそうね、道具かしらね。主人の言うことにはなんでも従うね」
「そうか、でもティアの主人はいないぞ?俺が殺したからな」
「そうね、あーもう何で殺したのかしら」
「ダメだったのか?」
「ダメよ」
「何故だ?アイツは俺に敵意を向けてきたんだぞ。それに鞭を使って攻撃してきた」
「そうね。あなたにとっては殺していいことなんだけど、私にとってはあまり好ましくはないわね。せめて、この隷属の首輪をはずしてから死んで欲しかったわ。知らないと思うから説明するけど、この首輪を外すには主人の同意が必要なのよ。もし、私のように主人が首輪を外す前に死んだのなら、奴隷は奴隷商人のもとに戻らなければならないわ。そうしないと、この首輪の呪いで死んでしまうからね。」
「そうなのか。なら奴隷商人は何処にいるんだ?」
「今向かっている町よ」
「そうか。なら町に着いたらティアとは別れることになるのか?」
「まあ、そうなるわね」
「そうなったら、俺はティアに常識を教えてもらえなくなるんじゃないか?」
「た、確かにそうなるわね」
ティアは不意に身の危険を感じた。
私が常識を教えられなくなるとわかったら、クロは私を殺すんじゃないかしら……と。
でも、これはチャンスでもある。
クロをうまく誘導すれば私は奴隷から解放される。
「で、でもクロが私を奴隷商人から買ってくれるのなら、またクロに常識を教えられるわよ」
「買う?」
「そう、買うの。お金を払ってね。」
「お金?」
「これのことよ」
ティアは馬車の中を漁っているときに見つけた袋の中から、手綱を握りながら一枚の金貨を取り出す。
それを隣に腰掛けているクロに渡した。
受け取ったクロはおかしなことに気がついた。
「思い出せない」のだ。
何故だ?とますます自分のことについての疑問は深まる。
「この金色のコインを百枚集めたらきっと私を買えるわね」
「そうか、分かった。集めておく。何処で集めればいいんだ?」
やってくれそうね!
ティアは内心で喜ぶ。
だが……
「そうね、働くしかないと思うけど……」
「働く?」
「無理そうね……」
その希望は無理そうだ。
「俺では集められないのか?」
「あなたをやっとくれそうな店はなさそうだしね、少し厳しいかも…………」
そうね、クロに特技の一つでもあれば変るんだけれど……
狼を素手で倒すくらいだものね。
それ以外は、はっきり言ってダメダメ。
筋肉馬鹿みたいだわ。
それなら、冒険者にしかなれないわよ。
ん?「冒険者?」あ、あるじゃない!
「いや、一つだけあるわ。雇ってくれそうなところ」
「集められるのか?何処でだ?」
「それは、冒険者よ。あなた狼を素手で倒しちゃうような人だし、多分大丈夫じゃないかしら?」
「冒険者?」
「そう。冒険者は魔物を倒してお金をもらう職業よ。だからきっとあなたでも出来るわね」
でも冒険者は命の危険の付きまとう危険な仕事、常識のある奴ならまずやらないわ。
しかし……
「そうか、何処でその冒険者?というのになれるんだ?」
クロには常識がない!
良かった。やってくれそうね。
これなら本当に私を奴隷から解放してくれるかも!
「町に着いたら冒険者ギルドってところがあるわ。そこに行けばきっと冒険者になれるわよ」
「そうか、分かった」
「それな、このお金はあなたに預けておくわね。いい、この金色のコインを百枚よ」
「わかった」
「ふふ、それじゃ頼むわ!」




