クロとティア
「とりあえず、ありがとう」
女は少年に言う。
「それと、服はなかったかしら?さすがにこの格好は恥ずかしいのだけど……」
女は裸だ。
「これのことか?」
少年は箱から服を取り出す。
「そう、それよ。でも、それは男もの服ね。多分、アイツは私の分の服も積んでいたと思うのだけど……ん、これね」
女は自分で箱を漁り、見つける。
見つけた服を身につける。
「あなたもその服を着てくれないかしら?」
「何故だ?」
「あなたの……その……腰に付いているものをみせつけられるのはちょっとね……」
少年は、手に持っていた服を着る。
が、かなりぶかぶかであった。
「ごめんなさい。あの豚の服だとぶかぶかよね……少し待って」
女は箱に入っている別の服を取り出して、折ったり、紐で結び長さを変える。
一方少年の形をした何かは「豚?」と首を傾げている。
「これで、いいかしらね。着てみてもらえないかしら?」
女は少年に出来た服を手渡す。
その服を少年は身につける。
「うん。ぴったりね!」
女は自分の作った物の出来に満足げにうなずく。
少年は不思議そうに首をかしげる。
「服を着るのは常識なのか?」
「…………そうよ」
女は内心で呆れながらうなずく。
「えっと身なり自体は整ったことだし……
そうね。自己紹介でもしないかしら?
ま、あなたは自分のことが分からないらしいから、名前だけでも教えてくれないかしら?」
「名前?名前って何だ?」
「ちょ……名前の意味が分からないの?」
「そうだが」
「そ、そう。えっと名前はあなたが何て呼ばれているかよ」
「呼べれているか……お前は俺を何て呼ぶんだ?」
「え?私?何で?」
「何でってお前が俺を何て呼ぶかで名前が決まるからだが?」
「はぁ!?ちょっと何を言っているのか分からないのだけど……
も、もしかして自分の名前も分からないの?」
女は驚き尋ねる。
「ん?そうだが」
少年はさも当然のことのように言う。
「そ、そう。」
「で……お前は俺を何て呼ぶんだ?」
「つまりは、私があなたの名前を決めろということかしら?」
女は少し呆れ気味に聞いた。
「そうだ」
そして、帰ってくる答えも半分分かっていたものであった。
「私が本当に決めていいの?そんなセンスみたいなものはないわよ」
「かまわないぞ」
「そう……少し待って頂戴」
女は少しの間考える。
そして、
「決めたわ、あなたの名前はクロよ」
「クロ?分かった。これからはクロと名乗ればいいのだな」
「そうね。あと私の名前はティアよ。私のことはそう呼んで頂戴」
「分かった」
「それで、これからどうすればいい?常識とやらを教えてくれるのか?」
「それは教えるけれど、
そうね、とりあえずは町に行きましょう」
「町?町って何だ?」
「はぁー。あなたには教えなきゃいけないことが多そうね。」
ティアは大きなため息とともに、これからの苦労を考え渋い顔をした。
クロは常識以外にも色々なことを知らないようだ。
馬車を進めながらティアは尋ねる。
尋ねたのは、クロの質問攻めから逃れるためであった。
「あなた、食べ物が何処にあるか知らないかしら?」
「食べ物?干し肉とかククアの実のことか?」
「そ、そうよ」
さっきから質問攻めを受けていたティアはクロが「干し肉」や「ククアの実」について知っていたことに驚く。
「それなら、お前が気絶している間に食った」
「は、はぁ!?食った?一週間分はあったわよ!」
ティアはさらに驚くことになった。
「全部じゃないぞ、残してある」
「そ、そう。どこ?」
残してあると聞き、安堵したティア。
だけど……
「ここだ」
食べ物の入った箱をティアは受け取る。
そして
「って、何が残してるよ!二日分もないじゃない!」
ティアの絶叫が草原に響き渡る。
「ん?まずかったか?」
「まずいわよ!当たり前じゃない!町まで馬車があるとはいえ、一週間はかかるわよ!」
「そうか」
「そうか、じゃないわよ!あなた分かってる?このままじゃ餓死するのよ?常識あるの?」
「無い」
「そ、そうよねー。そうだったわー。ってそうじゃないわよ!ああ、どうしようかしら」
ティアは自分で自分にツッコミを入れる。
「食料をとってくればいいのか?」
クロは当然のように聞いた。
「その食料は何処にあるのよ?」
ティアは呆れながら言う。
「あそこだ」
クロは遠く彼方を指す。
「何処よ?ないじゃない!」
ティアは半狂乱になっている。
「まあいい、少し待ってろ」
クロはそう言い駈け出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
ティアは叫んでみたが、クロの姿はいつの間にか遠く彼方にあった。
「はぁーアイツ本当に何者よ……」
ティアは今日何度目かのため息をついた。
数分後、クロは大きな血まみれの狼の首を掴みながら馬車へと戻ってきた。
不思議なことにクロには血の一滴も着いていない。
「これでいいか?」
「え?」
いつの間にか馬車に戻ってきたクロに、また血の一滴もつかずに狼を狩ってきたことに、ティアは呆れ気味に驚く。
また、ティアは少し安堵していた。
「いつの間に戻ってきたのよ……っていうかなによその狼」
血まみれの狼を指しながらティアは尋ねる。
「ん?食料だが」
「狼ね……食べれるのかしら……」
ティアは呆れたが、食糧問題は何とかなりそうなので少し安心する。
クロは狼を馬車に乗せ、ティアの質問攻めを開始する。




