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君と契りて 言はで思ふ心の理  作者: はまちゃん
君と信じた不言論

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17/42

数の女神様②

名古屋へ向かう新幹線の中。


窓の外では、見慣れた愛知の景色が少しずつ近づいていた。


東京で過ごした二日間。


長かったようで。


振り返れば、あっという間だった。


浅草で笑ったこと。


スカイツリーから街を眺めたこと。


神保町で数学の本を選んだこと。


ホテルの夜に話したこと。


その一つ一つが、海斗の中に鮮明に残っている。


しかし。


それとは別に。


今、海斗の頭から離れないものがあった。


夢。


アリスモス。


そして。


完全数。


「……。」


海斗は窓に映る自分の顔を見る。


白い神殿。


古代ギリシャのような場所。


そこで自分は、まるで昔から知っていたかのように彼女と話していた。


セオドロス。


なぜその名前で呼ばれるのか。


なぜアリスモスという少女を知っているのか。


何より。


なぜ夢の中で、数学の話をしているのか。


「海斗君?」


隣から声が聞こえる。


振り向くと、玲が不思議そうな顔でこちらを見ていた。


「どうしたの?」


「いや。」


海斗は少し迷った。


夢の話をするべきか。


ただの夢だ。


そう言えば終わる。


しかし。


玲なら笑わずに聞いてくれる気がした。


「変な夢を見た。」


玲の目が少し輝く。


「夢?」


「ああ。」


「どんな夢?」


海斗は少し考えてから話し始める。


「白い神殿みたいな場所にいて。」


「そこに、白い髪の少女がいた。」


玲は静かに聞いている。


「その子と一緒に、数字を探していた。」


「完全数を。」


その言葉を聞いた瞬間。


玲は少し目を丸くした。


「完全数?」


「ああ。」


「夢の中で見つけた。」


玲は少し笑う。


「夢の中でも数学なんだね。」


「海斗君らしい。」


海斗も苦笑する。


「自分でもそう思う。」


「でも。」


玲は首を傾げる。


「でも?」


海斗は窓の外を見る。


「妙に現実感があった。」


「ただの夢とは思えないくらい。」


玲は少し考えたあと、優しく笑った。


「もしかしたら。」


「海斗君の中にずっとある記憶なのかもね。」


「記憶?」


「うん。」


玲は窓の外を見る。


「数学って、昔の人の考えが今につながってるんでしょ?」


「関孝和さんも。」


「ピタゴラスさんも。」


「何百年も前の人の考えが、今の海斗君につながってる。」


海斗は黙って聞いていた。


玲の言葉は、時々不思議なほど核心を突く。


「だから。」


玲は微笑む。


「夢の中で昔の数学者さんと話してても、不思議じゃない気がする。」


「……玲ちゃんらしい解釈だな。」


「そう?」


「ああ。」


海斗は笑う。


「普通は夢だって言って終わる。」


「でも玲ちゃんは、そこにも意味を探す。」


玲は少し照れたように笑った。


「だって。」


「海斗君の数学って、そういうところが面白いから。」


その言葉に。


海斗はふと気づく。


自分は昔。


数学をただの論理だと思っていた。


正しいか。


間違っているか。


証明できるか。


できないか。


それだけだった。


しかし。


玲と出会ってから。


数字を見る目が変わった。


60という数字。


交互完全数という概念。


そこには。


発見した瞬間の感動。


一緒に考えた時間。


誰かと共有した思い出。


そんなものまで含まれている。


「完全数……。」


海斗が小さく呟く。


玲が反応する。


「気になるの?」


「ああ。」


「昔から研究されている数だ。」


「でも。」


海斗は少し考える。


「夢の中で、もう一度考えさせられた気がする。」


「完全って何なのか。」


玲は首を傾げる。


「完全って?」


「完全数は、自分自身を除いた約数の和が元の数になる。」


「つまり。」


「自分の中にある要素だけで、自分自身になる数だ。」


玲は少し考える。


「なんか……。」


「人みたい。」


海斗は驚く。


「人?」


「うん。」


玲は笑う。


「誰かに何かをもらって完成するんじゃなくて。」


「自分の中にあるものを全部合わせて、その人になる感じ。」


海斗はしばらく黙った。


数学的な説明ではない。


けれど。


なぜか心に残った。


「完全数……。」


「そして交互完全数。」


玲が呟く。


「似てるね。」


海斗は頷く。


「ああ。」


完全数。


交互完全数。


どちらも。


数字そのものの性質を表している。


しかし。


海斗には別の意味にも感じられた。


完全数は。


一つの調和。


交互完全数は。


違うものが交互に関わりながら、一つの形になるもの。


まるで。


自分と玲のように。


「海斗君。」


「ん?」


「また研究する顔になってる。」


玲が笑う。


海斗は我に返った。


「……悪い。」


「でも。」


玲は嬉しそうだった。


「いいと思う。」


「海斗君が好きなことを考えてる顔。」


海斗は少し照れた。


「退院したばかりなのに。」


「もう数学の話か。」


「いいじゃん。」


玲は笑う。


「私たちらしいよ。」


その言葉に。


海斗は自然と笑った。


やがて。


新幹線は名古屋駅へ到着する。


人々が立ち上がる。


荷物を持つ。


日常へ戻っていく。


二人も席を立った。


東京旅行は終わった。


しかし。


二人の時間が終わったわけではない。


海斗は心の中で思う。


完全数。


アリスモス。


そして。


交互完全数。


すべてが一本の線でつながっているような気がした。


ただの夢。


そう片づけることもできる。


けれど。


数学者である海斗は知っていた。


まだ証明されていないものを。


最初から存在しないと決めつけてはいけない。


可能性がある限り。


追い続ける価値がある。


そして。


その日から。


海斗は新たな疑問を抱き始めた。


完全数とは何か。


交互完全数とは何か。


そして。


数字に宿る「美しさ」とは何なのか。


その答えを探す旅が。


また始まろうとしていた。

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