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5. 副都カルルン





 あくる朝。魚の塩焼きを食べて満足した私は、乗船した船に揺られながら、しばらくの船旅をほとんど寝て過ごした。



 下船した足で海辺で海水から塩を抽出し、塩の結晶を作る。

 とっつかまえた魚を干物にし、二枚貝をせっせと乾物にしてと、忙しく動く。


 何を隠そう肉より魚派。卵は好きだが、魚介類には負ける。


 日持ちする堅焼きのパンは何個も焼いてきた。

 農夫からミニトマトを買い漁り、ドライトマトもある。

 それとは別に、夕方の市場にはオレンジが並んでいて、何個か買って食べる。



 夜に港を出たら、また飛んで、跳ねての移動を繰り返す。

 道中深い森に差し掛かったが、木の上を移動して野生動物をやり過ごした。


 ただ、無視できないものもあって、暗視魔法、熱感知まで使って、足を止める。



「これは、──すごいな。ハチミツか」



 異世界のハチミツは洞窟で作られるらしい。スケールの大きさは圧巻。


 甘味は偉大だ。

 とても欲しい。

 だが、いかんせん入れ物がない。

 ────さてどうするか。



「もどる…… か?」



 海辺まで戻り、砂浜から根性で分厚いガラス瓶を生成したのは、我がことながらいささか食い意地が張っていると思った。

 念のためスリープの魔法で蜂にお休みしてもらっている間、琥珀色のハチミツを瓶の中に閉じ込めた。


 味見したハチミツのコクのある甘々さに、思わず天をあおいで、神様に感謝した。


 寄り道に時間を割いたが、価値ある寄り道だった。


 


 ハチミツで何を作ろうかと構想を練っている間に、目的の街に到着していた。この国の副都市にあたる「カルルン」。


 王都が王侯貴族の街ならば、こちらの副都カルルンは商人の街になる。


 都市の四方の街道からもたらされる交易品は、その種類と量の多さで売り買いが盛んに行われている。

 王都に次いで、多数の商会が拠点をかまえているとあって、人の流れも物の流れも多い。



 城壁の規模も大きいが、入るのにはそれほど時間はかからなかった。


 入場料は1回か年会費制で、年間の方は金を払うとシリアルナンバーの書かれた通行手形が発行される。


 ここら辺の5都市共通のため、結構な金額になるが、貯めていた金で年間の通行手形を発行してもらう。

 日割り換算したら、圧倒的にコチラの方が格安で何より便利だ。


 出入りの際に時間の制限がなくなり、いつでも外に出られる。

 夜型の私にとって、行動時間の不自由さは結構な痛手だった。


 これで、夜間、外に出ての魔法制御実験がはかどるというもの。自由に飛び回れるフライ魔法は移動範囲を広げるため、何とかしたいところではある。

 街中でアレをやるには、夜でもいささか目立つので、あまり大っぴらに試せていなかった。放牧されている牛をビビらせてしまったのは記憶に新しい。


 城門を通り抜け、街並みの色鮮やかさに目を奪われる。

 広々とした馬車が行き交うレンガ道。

 花壇や鉢植えに植えられた花々や、木々。

 商店の店構えの大きさに、向こうの方に噴水なども見える。



 門番に手頃な宿がないか聞いてみたところ、泊まり客が多くいる区画に、宿屋街があるらしく、そこから選べば滅多なことでハズレはないと言われた。

 早速、宿を押さえるために、そちらへ足を向ける。


 値段はピンキリだが、ちょうど中間くらいの素泊まりで5000エィの部屋を見つけたので、そちらを押さえる。


 荷物を置き、持参した食事を軽く済ませ、寝る前に宿屋街や副都の街並みを少し見て周る。

 その後、ふかふかのベッドでしばらく旅の疲れを癒した。



「んぁー……このベッドは、実に良いな。流石に寝過ぎたか」



 寝心地のいいベッドをぽふぽふと何となしに叩き、通りに面した窓を覗き込む。

 日は完全に沈んでいるのに、外は結構活気があった。

 何だか明るいと思ったら、多数の店先の街灯が宿屋街を照らしていた。

 そうか。日中移動して、この時間から宿を利用するのが普通か。


 前の街では、夕陽が沈む前に宿を利用する者が大多数だった。なんせ鐘が鳴るのに合わせて門限もあるから、大体はそれの前に街中へ入ってくる。

 夕陽が完全に沈めば、普通の店を閉める時間の目安だった。


 これだけ夜でも明るければ、確かに今から泊まるところを物色したり、一杯酒をひっかけに行くのも不便じゃない。


 魚の干物とドライトマトをかじり、パンを口にくわえつつ、ワクワクした気持ちで宿の外に出る。


 宿屋街の先にある繁華街。

 品物も結構ある。

 はるか昔に行った、異国の夜市を思い起こさせた。


 最近の感覚だと、夜に出店を出しているのには驚きだが、私はその中で粉物を扱う店を見つけた。

 種類の多さに、片っ端から鑑定魔法でチェックする。品質と比例した確かな価格設定に、思わず笑みがこぼれる。


 精麦前の小麦も置いてあったので、値段を確認してから、次の店を物色した。




 夜通し街を見たが、夜は活気はあるが、朝はせわしない。

 日の出と共にワラワラと門の外へ飛び出す商人達や、その護衛など。


 門横では最後の仕入れ時と、商品の売り買いが行われていた。


 1番大きな大門付近の、商業区には宿屋街や夜店があり、反対側には職人街。


 奥の方は居住区や領主邸、さらに奥に畑や酪農。


 ざっくり分けるとこんな感じらしい。


 門の外にも小麦畑などはあるらしく、果物屋のマダムの話では、物を売るにも場所が決められているんだとか。

 端的に言うと住民と、市民権を持たない商人では、露天で売れる場所の制限がある。



「買い物はどこでも出来るよ。ただね〜、テリトリーから出るのもあんまりないかね。夜店はガラの悪いのもいるし」


「そうか。……朝にパンと水を売るならどこがいいか。あまり忙しないのも性に合わなくてな」


「水だけなら練り歩いて売れるけど、仕入れ先の当てはあるのかい?」



 フワッと空中に出した氷水を見て、何がおかしいのか果物屋のマダムに大笑いされた。





「まさか、果物屋のおばあさんも、魔法使いがパンを売りたいなんて思わなかったんでしょうね」


「そうらしいな。氷や湯の需要を忘れていた」


「商人の街ですからね。氷はありがたいですよ。それにフリーの魔法使いなんて、今どき珍しいですから」



 この国で本格的に魔法が使えるといったら、王侯貴族、教会の医療従事者など、身分が上か宗教関係者。

 職業だと騎士や魔法使いとしての雇用になり、大体は貴族が抱え込んでいるか、王宮などの王国に仕える者が通説だと。


 火を起こせたり、水が出せるくいなら、豪商、病院などにも在籍しているらしく、平民で氷の塊や大量のお湯が出せるレベルの者は珍しいと言われた。


 複合魔法は王族、貴族、教会。

 原始魔法の使い手は一般にもいる。


 どちらにも言えることは、大体の魔法使いはどこかに所属しているのが普通。食事は作るより、食べる側か。


 果物屋のマダムから大手の商会に行けば、どこかしら仕事はあると言われ。

 試しに大通りで店を構えているところに売り込みしてみたら、一軒目から氷の塊を出して欲しいと言われた。


 このあとすぐ、氷と共に、食料品を売りに行くらしい。

 あとは水瓶に氷水を補充したり、風呂に湯を入れたり。


 どこに何が欲しいか案内されながら、担当者に色々教えてもらえた。


 その商会から代金と共に手渡された手紙と紹介状を持って、次の指定の店へ向かう。

 商業区にある大門に近い、布をあつかうとても大きな店で、本当にここで合っているのか疑問が浮かぶ。

 念のため売り場の店員に声をかけ、店に間違いがないか聞いてみた。場所はここで合っているようだ。



 店の奥にある個室に通され、お茶を出されて待っていると、紳士が部屋に入って来た。

 手紙と紹介状を手渡せば、それを読み終わっても、しばらく考えこんでいた紳士が、おもむろに私に質問を投げかけた。



「この街の居住区に屋敷がある。今は維持費ばかりがかかっていて、手にあまり、ろくに使われていない。有効活用するとしたら、貴方様は何に使うか」


「そうだな……───間取りを見てみないことには何とも」


「申し遅れた。私はマルコス・ラサール。ラサール商会の11代目になる」



 自分はアザミだと名乗ると、紳士ことマルコス・ラサールは、───「では見に行こう」と、私をそのまま馬車に乗せ、問題の屋敷へと連れ出した。





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