13. 昔々あるところに────。
昔々あるところにシュリーという女の子がいました。
大層元気な女の子で、早くから街の大きなお店に行事見習いに出され、周りの子達と切磋琢磨し、その技術を身につけ、競い合い、その中で誰よりも優れた子となりました。
しかし、ある日を境に、シュリーは優れた子ではなくなってしまいました。
シュリーが大人になったからです。
「商会は街から行商に出て物の売り買いをし、大きな利益を上げることでキャリアが積み上げられます。わたしは女です。長旅には向かないカラダな上に、男ばかりの中で、旅に出すのは無理だと何度も言われました」
「まあ、普通の人間なら、そうなのだろうな」
「それはわかります。マルコス会長から、自分で商会を立ち上げたらいいと言われました」
「……商会長がそのようなことを言うだろうか?」
「おそらく諭されたんだと。その時に、わたしとは違う女性が行商に参加したいと申し出たら、その人を長旅に連れ出すのかと言われて──返す言葉がなかったんです」
シュリーは理解はできたが、納得は出来なかった。
男だって危険は危険だ。
しかし、世間の目というものがある。
男が当たり前の行商に、女も同行させ、何かあったら。
商売を生業とするならば、いくらいいものを取り扱っていようと、信用がなければ売れるものも売れなくなる。
シュリーを守るためにつける護衛の代金は、人件費として余分に上乗せされてしまう。
それでも我を通すなら、それは商売じゃなくて道楽の域だろう、なんて言われたこともあるらしい。
それでもシュリーは、理解はできても、納得がいかなかった。
理解はできる。誰も悪くない。
でも、納得できない。
仕方ないですますことが出来なかった。
「だから神を罵倒したのか」
「そうです。……私は神に願うんじゃなく、嘆くんじゃなく、貶したんです。あなたが、こんな、こ、んな……ふっ、こんなカラダにしたから、わたしはっ……」
神を呪ってギフトがうまれた。
能力はあるのに、それを生かす旅に出ることは許されず。
鑑定の能力を使えばこのギフトのおかげで、自分の本来のチカラではないと。
何でも調べられる便利な左目。悪魔の誘惑か、神の天罰だと思ったらしい。
それでも便利だから、使ってしまう。
シュリーはそれを弱さだと感じたか。
「商人だから、使えばいいんじゃないか?」
「ずびっ……はぁ? わ、わたしの、話きいてました!? 魔法使いでもないのに、魔法が使える、こんな、呪いみたいな。ギフトって、教会の、えらい人がもらうとか、英雄とか、こんなちっぽけな自分がもらうなんて、変でしょうっっ!」
「だから、シュリーの言葉に合わせるならば、君はちっぽけな存在ではない可能性があると言っている」
「?????????」
「私の鑑定は生まれつきだ。大体はそうだし、ギフト持ちだから、結果、優れたポジションが与えられるんだと私は考えていた」
「…………な、なんて?」
「まずは落ち着け。水を飲め、ゆっくりな」
ガラスを生成して、冷たい水を出す。
ガバリッと砂浜から身を起こしたシュリーに、私はそのコップを渡した。背中にクリーンの魔法をかけてやるのも忘れない。
水を飲み終わってもまだ茫然としているシュリーの手からコップを取る。ガラスが風に乗って徐々に欠片となり、キラキラと砕け、やがて夜の砂浜に消えていった。
「人型を取るカタチある本来の神々は、人に似て俗物的だと私は思っている」
「…………そう、なんですか?」
「神々は人を集めて信仰させている。教会はソレを広める代理人だ。私の世界ではそうだったし、こちらもそう大差ないように思う」
スキル適正はただの能力にすぎないので、本人が努力しなければ育つことはないし、特出してこない。
それとは違い、ギフトは必ずカタチある能力であり、神から賜る贈り物だ。
神からもらったという、わかりやすく目に見えるカタチが重要なのではないかと思う。でなければ非効率だ。
目に見えないものでもいいのに、わざわざ主張してくるというのは、そのカタチが必要だからだ。主に信仰をあつめるために。
シュリーの左右の瞳の色は違う。
本来の右目は青で、左目は銀色。
本人は色付きのモノクルでわかりづらくしているけれど、明らかに神の主張が見られた。
スキルは本人の能力の表記にすぎない。
ギフトのそれとは違う。
鑑定は神々の作った世界図鑑の閲覧許可が出ている者を示す。
一般的なギフトとは、特性に応じて身体の一部にその特徴があらわれ、必ず名前がついている。
私はシュリーの銀の瞳に、鑑定を使った。
『えっち』
「────ん?」
「きゃあぁぁぁぁ────……」
波動にブッ飛ばされた身体が、シュリーから遠のき、砂を巻き上げて浜辺を何度もバウンドする。
衝撃と共に海の浅瀬へと着水して、私は身を起こした。
唖然と何が起きたか考え、座り込んでしまっていた私の方へ、バシャバシャと靴を濡らしながらシュリーが駆け寄る。
「だい、大丈夫ですか! ケガは!! ぁ、う? ん? ん??」
「怪我はないがどうした?」
「加護に『商いの神のお気に入り』? 『商人の目利き』?? ……読め、る、のが、あの。下の二行だけ」
空中に向かって指を差し示す異様さに、身に覚えがありすぎて、混乱していた思考が戻ってきた。
透明で手が通り抜ける板に何か書いてあったんだろう。鑑定するとよくあることだ。
それにしても、商売を司る神を罵ったのか。
「シュリー、君はバカだ。商いの神に君のカラダをどうこう文句言って何になるんだ。言う相手が違うだろう。せめて月か生命か豊穣の女神を罵れ」
「え、えぇッ?! いや、あの、うぅ……ハイ。スミマセンでし、た」
元の場所まで戻って、またクリーン魔法をかける。
弱くしていた魔法の光源の加減を、再び、元に戻す。変な顔をする彼女と視線が交差した。
「アザミさ、ま? 目が、片方銀に……」
「はぁー…………。もう一度だけ試すから、3歩さがりなさい」
「ハイ。」
「────────君はよほど愉快な話を、神に喋って聞かせたようだな。いいか、一回しか言わない」
─李姝(リ・シュウ)の左目────
真作の銀商眼
加護:商いの神の寵愛
※本人にこの内容を伝えたら、
あなたに商いの神の天罰がくだる。
─────────────────
今度は左頬に衝撃が来て、そのまま真横にブッ飛んだ。
「───で、何がどうなって、貴方様はそうなったのですか」
「私に新たに付与された商いの神の寵愛を取り外して捨てただけだ」
「……なんともったいない事を。我々にしたら、喉から手が出ても頂戴できぬものなのに。実に惜しい」
いつもの朝。店を開けるより早くやってきた商会長に、私はモーニングセットを差し出す。トーストの上にバターを多め。アイスティー付きだ。
ギフトとはよくできていて、カタチあるものだから、触れられる。それでいて身体から切り離せばその効力は消える。誰かに渡すことも出来ない。
髪を切ればただの髪になるように、眼球も一緒だ。
あちらから一方的に愛されても、神々は信仰の自由を認めているから、貰った者が「いらない」とすれば捨てられるものになる。
カラダの一部を失う代償は、アチラからしたらささいなことなんだろう。
クシャミで異世界に飛ばされたり、むこうはちょっと触ったつもりでも、一般人なら命の危機だ。神様はスケールが違う。
シュリーが天罰と間違うのも致し方ない。鑑定をもらったその日から、1週間は生死の境をさまよったらしい。
黒い目隠しをした私を、商会長がうらめしそうに見ている。カラダの機能を失えど、人より器用な魔法使いの私なら、生活に支障はない。
「それで、なぜ、そうなるのですか?」
「なんだ。商会長も隠さなくなったか」
「どうせいつかは知られるものを隠したところでですな───それより、『創造神のお気に入り』の横にあるのは、なんなのです。見たことがない」
「……これは、象形文字で『草』をあらわす。説明を省くが、覗き込んだ者は読めるところだけ読むだろう。実際は私にしか理解できない読めない文字の方で、私が遊ばれているだけだから気にするな」
「創造神に弄ばれているなど、なんと罪深い」
商いの神の寵愛をぶん投げたら、草付きで何かギフトが生えてきた。異界の勇者や聖女にも伝わるか怪しいマイナージョークを、商会長に説明するのは難しい。
代わりに『神眼』が左目に生まれたけれども、コレを捨てたら何が起きるかと流石の私も躊躇うし、トップや上司にあたる創造神が目をかけているとなれば、いらぬ神々も悪さしないだろう。
ただ、主張が激しいので、普段は見えないように目隠しをすることになった。
客商売するにはただでさえ愛想がないのに、さらに朝が似合わない男率が悪化した。
本日(7月5日)夜に完結予定です。




