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とある男性研究員の記録

記録:突然変異体「GM-01」

記録者:矢野正彦 四三歳


今日から突然変異体「GM-01」の観察記録を行う。

一応記録書は別にとってある。これは私が個人的に書いてるものだ。他の誰にも見せるつもりはない。あるとするなら、きっとこれが終わった後の時代の人間がこれを偶然見つけることぐらいだ。


一九四五年八月九日(以後一九四五年は省略する):

突然変異体「GM-01」…長くなるので以後変異体と呼ぶことにする。

あれからまだ変異体の危険性を把握できていないため、こちら側は麻酔を投与し続けて眠らせている。

本来なら致死量のへキソバルビタール(静脈麻酔)のはずだが、呼吸は常に安定し、血圧にも変化がない。

血圧についてだが、調べると異常に高かった。

まるで常に全身の筋肉に力を入れているような状態だ。麻酔の過剰投与にこのような症状はない。これは間違いなく変異によるものだろう。

現場にあった人糞から成分を分析した結果、人肉が含まれていることが判明した。

この変異体は人を食っている。

それより、人を食っても体に特有の異常が発現しないほど体が変異していることのほうが重要だ。

この生物はもはや人という種から逸脱している。

体を調べると、損傷らしきものが全く見られなかった。原子爆弾の爆心地にいてこんなことがあり得るはずがない。再生したというのが自然か。

それから、この施設に移送した際に麻酔の再投与のために静脈に針を刺したのだが、一本目の針が皮膚に負けて折れ曲がった。部隊の人間の話を聞くと、これほどの皮膚の強度は発見当初はなかったらしい。

つまり、この変異体はまだ変異の途中の可能性が高い。

一〇〇人殺してもなお成長途中なら、この先まだ何が起きるのか全く分からない。麻酔はまだするべきだろう。

この施設は本来秘密裏に銃器の性能試験をするための場所だ。およそ四十平米、形は長方形というより正方形の方が近い。二階からも観測できるよう、高さは十メートルある。施設の外は一切見えない。

二階は一面にガラスが張ってある。当然防弾ガラスだ。即席で作ったので、質素なベッドと麻酔投与用の機械ぐらいしか設置できていない。

この空間のコンクリートの壁の強度は、そこらの対物ライフルでは貫通できないほどのものだ。

本来心配する必要がないはずなんだが、嫌な予感がする。

この麻酔も、この成長速度ならいつ耐性をつけてもおかしくない。


八月十日:

次の日になって様子を見ると、驚いたことに触手が消えていた。というより、収納したというほうが適している。これは安定してきているということでいいのだろうか。

触手を収納するのは、いや、そもそも触手を持っているのが無脊椎動物に見られる性質だ。どうしてこの少年は人間の形を保っていられるのだろうか。

現場にあった防災頭巾から身元を特定することができた。

この子の名前は山本勝、十七歳。身長は一七九センチ。一人っ子で、両親は原爆によってすでに息を引き取っている。

当然本人もこんなことになるとは想定していない。かわいそうに。いっそのこと両親とともに死にたいとでも思うだろうか。

とりあえず意識がない内に収容所の家具を増やした。机と座布団、水道も開通し、贅沢にラジオも置いてみた。一人を収容するにはとてつもなく広いことと、壁や床がむき出しのコンクリートであることを除けば、そこらの一つのくつろぎ部屋と何ら変わらない。

食事については昨日から栄養剤を麻酔薬と一緒に投与している。

扉も少し改良して扉を開けずに食事を提供できるようにしている。

変異体とは言ったが、勝君も一人の人間だ。最低限の人権を守ってあげたい。それはここにいる皆同じだろう。誰も好きで少年一人をこんなところに閉じ込めていない。


八月十八日:

恐れていたことが起きた。突然変異によって麻酔に対して耐性をつけて覚醒してしまった。

耐性をつけることはもちろん想定して薬の量を毎日増やしていったのだが、この変異体は私たちの想定をはるかに超える速度で耐性をつけていた。刺さっていた投与用の針を引っこ抜き、上半身を持ち上げてあたりを見回していた。

だが幸い、本人はかなり精神的に安定している。暴れる様子は見られない。周囲の様子をうかがっているようにも見えた。

衝撃的なことは他にもあった。歩き方がおかしい。眠っていた期間を加味してもだ。一応二足歩行ではあるのだが、なんだかぎこちない。まるで生まれて初めて歩き出したかのようだ。

突然変異の脳への影響は甚大なものなのかもしれない。まさかと思ってスピーカーから声をかけてみた。案の定言葉が通じていないようだった。反応を見るに聴力を失ったわけではない。

ここで疑問が生まれてくる。この変異体は山本勝君として存在できているのかどうかだ。

突然変異によって勝君の脳が完全に変異しきってしまったのなら、そこにいるのはもう勝君ではない全くの別の存在だ。

次に、扉から牛肉のステーキ、白米、みそ汁を食事としてプレートに乗せて出した。

変異体はそれを見るなり、ぎこちない足の運びで近づき、しゃがんでは箸も取らずにステーキを手づかみでとって食べ始めたのだ。

間違いない。この変異体は勝君だったころの記憶を完全に失っている。言葉も、箸の使い方も。

軍を襲撃した時も、記憶がなく混乱していた可能性が高い。

ステーキだけでなく白米やみそ汁にも手を付けていた。人肉だけを食べるような感じではなさそうで私は少し安堵している。もちろんみそ汁も具を手で取って食べていた。器を傾けて汁をすする程度のことはできるようだ。

この生物は本当に危険なのだろうかと不思議に思うほどおとなしい。

試しに服も入れてみた。汚れた手で服を持ち上げて広げるが、使い方がわからないのか、すぐにその場に放り投げた。


八月二十六日:

変異体の発見当初からわかっていたことではあるが、この子は夜の時間帯にベッドに横になって眠る。夜行性の習性は持っていない。どこまで人間としての要素を持っているのだろうか。

ラジオは一日中つけている。最初は不思議そうに見ていたが、日本語がわからないので数日たった今では定期的にラジオの前に立ってぼうっと眺めては部屋の中を歩き回っている。

歩き始めたころより格段に歩きがうまくなっている。椅子や机の使い方も理解し始めたのか、毎食出てくる食事を手にとっては机まで持って行って椅子に腰かけて食べるようになっている。

箸の使い方も全く教えていないのに、最善の方法として私たちが日ごろ使うやり方を自分で編み出している。

服も着始めていた。注意深く観察し、自分の体とぴったり合うことを理解して袖に腕を通した。

この子は私が想定していたよりもはるかに知能が高いのかもしれない。学習能力が異常だ。

人間でもチンパンジーでもここまで早く使い方を独学で理解することはできない。

触手についても、いつの間にかまるで手足のように扱っていた。収納された背中から二本の肉付きの骨が飛び出す。目に当てられない姿をしているが、当の本人は特に痛みなどなさそうに見える。

今のところ使い道がないのか、触手を出して両手で撫でるように触っては収納することを繰り返している。その時に服を貫いてしまったため、今は背中に二個の穴が開いている。


九月一日:

数日前から一人の女がとんでもない提案をしていた。変異体と実際に対面してコミュニケーションを図りたいとのこと。

名前は鈴木幸子、二五歳。新入の研究員だ。

確かに今のところあの変異体は一切暴走する様子はない。

だが、人を食うことができる相手に自ら向かって行くことができることに、私は疑問を感じて止まない。

研究員の中でも一番若い彼女が十七歳の少年とコミュニケーションをとるのに最適なのはわかってはいるが、正気の沙汰とは思えない。

年が一番近いゆえ勝君への同情心が強いのか、その使命感をもってしてなのか。

もちろん私は止めた。だが彼女は毎日毎日私に申し出てくる。仕方がないので、自己責任で許諾を出した。彼女には事前に遺書を書かせ、何かあっても助けることはできない旨も伝えた。

申し訳程度だが、前もって食事を出して変異体の腹を満たしておいた。この変異体が食事以外で人を殺す可能性は十分にある。テリトリーという概念を持っていた時や、自分へと接触してくる未知な存在への極度な緊張…軍一〇〇人が襲い掛かってきたこの子に何をしたかなど考えるまでもない。自衛のためだ、当然のことだろう。だがその当然の行いがこの苦難を招いている。変異体が人間に対して憎悪を抱いていないわけがない。

彼女のような命知らずな人間がこの仕事に向いているのだろうか。

変異体はベッドに座っている。見た目はどう見ても普通の男の子だった。

収容所の扉がゆっくりと開かれる。鈴木幸子、彼女が中に入る。

変異体はベッドから動くことなく横目で幸子を注視している。この子は威嚇ではなく沈黙することが警戒態勢のようだ。真顔を貫いている。

幸子は刺激しないようにゆっくりと近づいている。

ここからは二人の会話の様子を録音したものを文章にする。

「こんにちは」

「………」

「どうも…」

「…………コン…ニチハ…」

「え…喋れるの?」

「…シャ…ベレ…ルノ」

勝君は喋ることができた、というより、相手の言葉をまねることができた。

人間の体なので声を出せるであろうことはわかっていたが、実際に耳にすると驚いてしまう。

見たところ全く敵意はなさそうだ。そこだけに今はほっとしている。

幸子はもっと近づいた。その距離およそ五メートル。

「私は鈴木幸子、君自分の名前分かる?」

彼女は自分の胸を指さして言う。

「…サチコ…」

「そう!幸子。君の名前は勝だよ」

今度は変異体の方を指さす

「……マサル」

変異体は自分に向けられた指先を見る。

「幸子…勝…幸子…勝」

彼女は交互に自分と変異体を指さす。

変異体はその様子を見て自分が勝と呼ばれていることを理解したらしい。

変異体がこの日本語を言語だと分かっていたのはきっとラジオを聞いていた時からだろう。呑み込みが早すぎる。

幸子はさらに近づく、その距離一メートル手を伸ばせば触れられる距離。

彼女は変異体へとゆっくり手を伸ばした。

変異体は動かずにその指先を目で追う。まだ警戒を解いていない。

変異体の腕に届きそうになった時、彼の背中からあの触手が伸びてきて指先の進路を塞いだ。

「は…」

幸子はとっさに指を引っ込める。

「…ごめんね…びっくりさせちゃったよね…」

「……」

彼女はすぐに後ろに下がった。変異体は黙り込んで視線だけは彼女に向けている。

私はモールス信号で彼女に部屋を出るように言った。

扉を開けて彼女は部屋から退出した。変異体はそれまでずっとベッドから彼女をじっと見ていた。

とりあえず幸子が無事のようで安心した。あまり刺激するようなことはするなと言いたいが、今回はかなりの収穫でただただ称賛するしかなかった。


九月五日:

あれから毎日幸子は変異体の下まで来ては言葉を教えていた。まずは平仮名とカタカナ、そこから小学生レベルの漢字まで、前よりも変異体の喋りは目に見えて流ちょうになっている。

変異体の警戒はかなり解けてはいる。だがまだ物理的な接触は許してくれないようだ。

逃げも攻撃もせずただ触手で体を隠す。幸子は恐れずに何度も触れてみようとしているようだ。

どうしてそこまで変異体と関わろうとするのか、言葉を教えようとするのか、本人に聞いた。

曰く、変異体、勝君はまだ人間から離れ切ったわけではなく、故にこのように言葉を教えることで人間社会でも生活できるようになるのではないか、と。つまり、変異体の社会復帰を試みている。

聞こえはいいがあまりにも無計画で無責任な試みだ。仮に施設の外に出して、この変異体が人を襲ったら誰が責任を取るというのだ。確かに私は、勝君の最低限の人権を守ってあげたいと言った。人間社会で生きるのも立派な人権だ。それよりこの変異体は本当に人と同じような暮らしができるのか。

天皇は変異体については内閣や他の政治家には報告してないようだ。つまり、今この変異体の存在を知っているのはここの施設の人間と今は消えた日本軍の上層部の人間、天皇だけということだ。変異体の社会復帰を目論んでいることが彼らに知られてたらまず面倒なことは避けられない。

そこの判断は後回しにして、ひとまずこのことは内密にしておこう。


九月十日:

幸子は勝君に算数を教えていた。算数の教科書とペンを何本か持って行った。

「ここにペンが一本ともう一本。合わせて何本?」

「えっと…二本」

「当たり!ちょっと簡単すぎたね」

本当に簡単すぎだようだ。見る限り、答えに詰まったのは計算が間に合わなかったからではなく、”二本”という言葉を探していたからだろう。

「ペンじゃ限界があるなあ、やっぱり紙に書いて教えるね。」

数字はこの前教えていた。読めないことはない。

「じゃあ難しくするね。五六七から一八八を引いたら?」

勝君は幸子の手からペンを抜き取って紙に三七九と書いた。

「え…」

言葉を探して言うより数字を書いて答えたほうが早いと判断したのだ。

だが重要なのはそこではない。勝君の手が彼女の手に触れたのだ。

今までになかったことで幸子は硬直してしまったようだ。

書き終わった勝君は再び彼女の硬直した手にペンを差し込んだ。

「…合ってる?」

「…うん」

「足し算と引き算はもう分かった。他の教えて。」

「…いいよ」

「…元気ない?勝何かした?」

「ううん、大丈夫!」

今度は積商を教えるようだ。

最初の方はいつ殺されるかとヒヤヒヤしていたが、今は安心できる程に勝君は友好的になっている。


九月十七日:

今日は元軍部の上層部の男が急に施設に訪問した。今の変異体を見てみたいらしい。軍部の大戦時の実権もあって、軍部から離れているとはいえ拒否できなかった。

男は私と同じように二階から変異体を見下ろした。

変異体はベッドに座っては足を組み、顎を指に乗せてはこちらをじっと見ている。

男はそれを見て、「人殺しの目をしているな。相も変わらず化け物だ。」と言った。

この男はわかっていない。あれは人殺しではない。もはや純粋な一人の高校生と変わりない。

「こいつに兵器を撃ち込んでみたりしたか?色々話を聞いたが、頑丈なんだろ?」

「そんなことはしていません。この変異体も一人の人間なので。子供に銃口を向けるようなことをするわけないじゃないですか。」

「ふん…”人間”ね。この人食いのどこが人間なんだ。俺の部下が大勢死んだ。こいつのせいでな。」

この男の言い分もわかる。自分が弟子のように鍛えた者たちをこの子は暴走一つですべて消し去った。私だってそんなことをされたら今にも撃ち殺したい感覚に襲われるだろう。

勝君は特に反応を示さずにこちらを見ている。

特に暴れもせずにじっとしているのがつまらなかったのだろうか、男は変異体が無力にも収容されているところを確認すると帰っていった。ここは小笠原諸島。そんな気軽に来れるような場所ではないと思うが。

邪魔者がいなくなったので、幸子は勝君の下まで行って今度は社会の授業をしていた。国語、数学、社会、理科。いずれも義務教育レベルまで、幸子は徹底的に勝君に叩き込んでいた。本当に社会復帰をさせるつもりだ。

私も最初は不安ではあったが、今では思う。勝君はここに閉じ込められて生涯を終えるべきではない。


九月十八日:

勝君とコミュニケーションをとることができる今なら可能かと思い、身体測定をしてみることにした。

色々と器具を部屋の中へ移動させ、幸子の指示で勝君に動いてもらうことに。

身長は一七九センチで変化はない。体重は一三三キログラム。極度に発達した全身の筋肉と触手を含めたらこのくらいの重量になるのだろうか。いや、何か違和感を感じる。あの見た目でこんな重量は出せるようには見えない。まだ何か秘めているのだろうか。

色々調べるとすごいことがわかった。まずこの子は体中の細胞が常に初期化させ続け、さらに古い細胞を排除しつけている。要するに老化しない。この子は今後ずっとこの見た目から変化しないだろう。

また、免疫力も著しく高かった。風邪をひいたり、病気になるなど到底考えられないほどに。

次に筋力を調べた。

握力は一四五キログラム。背筋は二五三キログラム。やはりおかしい。握力から推定できる背筋力よりかなり低い数値を出している。突然変異とはそういうものなのか。勝君本人は全力を出しているようには見えるし、これ以上出せないと言っていたのでおそらく本当なのだろう。

触手の筋力も調べた。足を地面に固定して前方にある横向きの体重計を触手で押してもらう。

数値は三〇〇キログラム。指標がないため特には言及しない。

数値では部屋の壁を破壊するほどの力はなさそうだ。今まで脱走を試みなかったのはこれを理解していたからなのだろうか。

あと一つ計測したいものがある。それは走力。だがこの部屋ではそれを計測するには小さすぎた。となれば外に出すことになる。ここが島であることと、人を襲う様子が見られないことから外に出すことは可能と判断し、部屋から外に出させることにした。変異体を恐れる一部の研究員は事前に無条件の有給休暇として今日のうちは島から離れてもらっている。幸子に手を引っ張られて勝君は施設からゆっくりと体を出した。一切日の光を浴びていなかった勝君の肌は真っ白だった。時間は午後一時。終盤とはいえ夏であったため、外は強い熱気に包まれている。この施設は島の中心付近に建てられたもので、周囲は森に覆われている。

「……外。」

「そうだよ。初めて見たもんね。」

「……綺麗。」

「熱くない?」

「…熱くない。」

勝君には突如走り出して逃走するような兆候は見られない。このまま走力の計測を開始する。

消石灰で一〇〇メートルのラインを引き、勝君に走ってもらった。

タイムは五・八秒、最大加速度は秒速一一メートル。ここから推定できる膝伸展筋力はおよそ六〇〇キログラム。他の数値とのズレが大きい。今回は高めだ。

大体の計測は終了した。

「もう終わったから、日が沈み始めるまでこの島を見て回ってもいいよ。」

「わかった。」

勝手なことは言ってほしくないが…まあ大丈夫だろう。勝君が水の上を走れない限り、この島から出ることはできない。それに自由な時間を与えられた勝君が何をするのかは私も気になった。

太陽、森、海、砂、虫、動物…勝君は数々の新しいものを見て感じるだろう。

世界を知り、命を感じる。今の勝君に必要なものだ。

日が沈みかけてきたころ、本当に勝君は戻ってきた。誠実な子だ。

だが血まみれで帰ってきた。怪我はなかった。要するに、何かを殺してきた。

事情を聞くと、森の中を歩いている最中に猪と鉢合わせたらしい。

大きな生き物を見て、好奇心で近づいたら急にこちらに向かって突っ込んできたらしく、驚いた拍子に触手で猪の頭を潰してしまったとのこと。

勝君はこのことで幸子からこっ酷く怒られていた。勝君は他の生物よりもはるかに強い存在であることを自覚しなければならない、人間とともに生きるためには。

その後、勝君はおとなしくまた部屋に戻った。


十月二五日:

幸子により、勝君はそこらのトップ校を目指す高校受験生と遜色ないほどの学力を手に入れた。

必要最低限の知識を手に入れた。そして知恵も。幸子は勝君に日常生活のすべてを教えた。買い物、食事、洗濯,仕事…勝君は何も知らない、何も見たことがない。だが勝君は理解する。

それは知能が高いからなのか、かつての記憶がわずかにも残っていたからなのかはわからないが、いざ人間社会に溶け込んでも言われたことを満足に実行できる確信が得られる。

敗戦後、アメリカ軍は今や日本全土を占領して来ている。いずれこの場所にもやってくるだろう。

その時にやつらが勝君をただで済ませるとは思えない。

やつらが来る前に勝君を自立させないといけない。


十一月三日:

やつらが来た。

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