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義を持って!  作者: 某某
隆暗の章
3/4

たかが子供、されど子供

「ん!また私の勝ちだ!こんな幼子に負けるようではいかんぞ?」

この子供独特の煽り口調は、9歳になった虎千代である。


「いやはや...この遊びで虎千代様の右に出るものはおりませぬな...」


「がはは!そうであろう、そうであろう!」

家臣の者が疲れて弱っているのをいいことに、好き放題煽っている虎千代。

このときの虎千代は天真爛漫な正確で、とにかく暴れたいという感じであった。

彼らがしているのは木刀を使った戦遊び。

虎千代は日頃から武芸、座学を嗜んでいるが、成績優秀で周りの大人もその実力は認めている。


「虎千代様、為景様がお呼びです。」

使いの者が知らせに来た。


「うむ。分かった。ではな!次は私に勝てるようにな!」

さて、本当に次は来るのだろうか。

家臣のものは大きく頷いて、虎千代が去っていくのを見送った。


「虎千代様は次と言っていったが、そろそろじゃねえか...?」

「ああ、そうだろうな。もしかしたら今から為景様が虎千代様に仰られるのは...」


春日山城内、某所。


「お前に話がある。」


「なんでしょう、父様。」

聡明な虎千代はすでに覚悟を決めた目である。

これから言われること、明日から自分がなすことをすべて受け容れる覚悟をした目だ。


「お前はもう九歳になる。だからそろそろ林泉寺(りんせんじ)に入れようかと思うのだ。」

「はい、かしこまりました。」

まず、林泉寺は春日山城付近にある、曹洞宗の寺である。

また、この時代では男の兄弟は寺に入れるのが普通である。

長男との家督争いの火種になりかねないからだ。

そして、長男が戦で人を殺した罪を僧となった弟が許してもらう役割もある。

そういう意味で虎千代が僧になることは容易に想像がつく話なのだ。


「では、支度に参れ。」

「はい。」

意外と為景の話は手短に終わった。

このときの虎千代は意外とワクワクしていた。

寺には将棋の強い僧や、運動神経の良い僧兵がいるだろうと思っていたので、今までよりも噛み応えのある遊びができるのではないかと目論んでいたからだ。


数日後、林泉寺にて。

「ここが林泉寺だ。」

為景は虎千代に言った。

実は、虎千代は殆ど林泉寺に来たことがないのであった。


二人は、正門の前に立つ。


林泉の名に恥じぬ、鬱蒼とした木々。

城下町でも見たことがないような花。

虎千代にはすべてが新鮮に映る。


「よくぞお越しになりました。こちらへどうぞ。」

初老の老人が出迎えてきた。


「お出迎え、ありがとうございます。虎千代、行くぞ。」


(将棋、強そうじゃん♪)

虎千代は密かに胸を高鳴らせた。


林泉寺の中で話す間に、虎千代はこれからのことが結構分かったらしい。

まず、このいかにも将棋が強そうな坊さんは"天室光育(てんしつこういく)"といい、林泉寺の住職であるということ。

この和尚がこれから自分のことを教育し、自分は僧としてこれから生きること。

そしてこの和尚はあまり将棋が強くないこと。

とにかく、これまでの生活とは一変しそうである。


「で、ではっ父様、私にもう戦はできぬのですか!?」

焦った様子で虎千代は聞いた。

とにかく動きたい盛りの虎千代は、このことが一番辛いということを忘れいていた。

家には貢献できず、思いっきり暴れることもできないと思ったのであろう。


「なあに。そんな大した問題じゃない。お前がこうしてこの寺にいることで、俺も、お前の兄も安心して戦ができるというものだ。とにかく、お前はここで知識を磨け。その知識は将来必ず役に立つだろう。」

為景は虎千代の心中をすべて察したかのように言った。


「そりゃあそうだけど...」


「今は納得できなくても良い。お前が大人になった時にその役割をわかっていればそれで良い。」

虎千代は、父にはすべてお見通しかと思いつつ、頭を冷やすと言って林泉寺の敷地内を彷徨っていた。


「はあ...なんで僧なんかに。私が長男であれば...」

物憂げに言った虎千代の目に、何やら光るものが映る。


「なんだこれ...?」

この光を辿っていくうちに、(ほこら)のようなものを見つけた。

恐る恐る近づいてみる。


ギィィィ...


祠の扉が勝手に開いた。

なんと、そこから人型の何かが現れるではないか。


「う、うわあああああああ!!!」

虎千代が思わず叫ぶ。


人型の何かは、身長が自分の二倍ほどはあろうかという感じで、肩幅は広く、そしてなんといっても光っていた。


「だ、誰だっ!」


「我が名は毘沙門天(びしゃもんてん)(わし)の姿が見えるそなたに命令する。」


「ちょ、ちょっと待て!毘沙門天!?実在するわけがないだろう!」


虎千代は毘沙門天を知っていた。

天竺(てんじく)生まれの七福神で、勝運の神であることから、"軍神"と崇められている。

春日山城付近にも"毘沙門堂"として毘沙門天を祀っている場所がある。

これらのことからも、毘沙門天は神であって、自分の目の前に存在していてはおかしい。

いや、存在してはいけないのだ。

なにせ、神だから―――。


そんなことを考えるうちに、毘沙門天は言う。


「現に儂はそなたの眼の前にいる。そしてこれが何よりの証拠だろう。」


そういうって、虎千代の体をすり抜けてみせた。


「儂は神だ。」


言葉の重みが違う。

だめだ、この目の前にいるやつは本当に神で、毘沙門天だと、信じるしかなかった。

そして直感も嘆いた。本能も呟いた。これは毘沙門天だと。


「はい。あなたが神なのはわかりましたが...。私に何をご命令するおつもりですか?」

虎千代は戸惑いつつ毘沙門天に問うた。


「儂は神だ。逆に神でしかない。一度人の子になってみたいのだ。」


「は、はあ...。」


「そこでだ、儂はそなたの中に入り、儂はそなたとして生まれ変わる。というより、文字通り一心同体のようなものだ。儂はそなたで、そなたは儂。よいな?」


「ま、待ってください!どうして私なのですか!?」


「敬語など使わなくて良いぞ。なにせ一心同体なのだから。それに理由など決まっておろう。」


「......え?」


「そなたに儂の姿がみえる。それだけだ。ではそなたに入るぞ。」


「え!?も、もっと聞きたいことが!」


そこまで言って、目の前から光は消えた。


(儂だ。これが人の子の視点か。これからよろしく頼むぞよ。)

頭にさっきまで目の前にいたはずの毘沙門天の声が響く。


「なんでそんな冷静でいれるんだよ...」

いや虎千代こそ順応が早いな、というツッコミはさておき。


(儂は神だからだ。)


()()尊敬はしてるけど、だからこそなのかな、中にいられるのはちょっと嫌かも。」


(儂は神だ。心地よいはずぞ。)


「心地よくはないよ...。ていうか、人になった目的は何?」


(戦だ。儂は軍神。戦がしたい。もちろん、軍神の儂がいる限り勝率は十割だ。)


「...!戦、戦!私も戦がしたい!!」


(そなたの記憶を見るに、今のままでは戦はできんな。しかし儂は神だ。そなたを戦場に導いてくれよう。)


「まじで!?」


(儂は神だからな。不可能なことはない。)


「ああ、これからよろしく頼むよ!」


(ああ任せろ。儂は神だからな。)


少し奇妙な、虎千代、もとい虎千代&毘沙門天の新たな人生の始まりである。

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