第3章 第11話 交渉 3
「斬華……いつから……」
「あれだけ騒いでいれば嫌でも気づくわ。杭座さん、樹さん、ひさしぶり。元気そうで何よりよ」
「そっちに比べればね。1億の借金……いや、妹さんの件かな。ずいぶん顔色が悪そうに見えるよ。ベッドで寝て休んでみたら?」
斬華の登場に、さっそく煽りまくる美季。俺たちにベッドなんてものが与えられてるわけがないのに。
「牽制はいいでしょ? 体育祭……二人三脚の件ね。話は聞こえてたわ」
「ふーん。もう知ってたんだ」
「そこはZ組の特権ね。生徒が集まっているから、話もすんなり降りてきたわ」
「そっか。じゃああたしの提案、受けてくれるよね?」
もう交渉なんてする気がないのか、美季はさっき教えてた方法を全部無視して直接訊く。だがさすがは斬華と言ったところか。
「お断りよ。私たちにメリットが少なすぎる」
すぐさま断ってみせた。でもメリットが少ない……?
「冗談でしょ。情報と技術の提供に、ポイントの融資。充分すぎるほどだと思うけど」
「1000万ポイント? 少なすぎるわ。それに人数が大事というなら、そちらでもっと集めてくれる? 生徒会とA組のブランドがあれば可能でしょ」
なるほど、もっとねだるつもりか。確かに俺がほしいってわかってるなら言えばもっと……。
「え? もしかして自分に交渉権があると思ってる? 甘いよ」
と思ったが、美季は斬華の言葉を鼻で笑ってみせた。これもどっかで見たな……。龍華と永夢さんの交渉だ。あの時もこんな風にして断られたんだった。
「あのさー……自分の格と相手の格を理解してないんじゃない? あなた程度じゃあたし相手に有利に話を進めるのは無理。できることは『ありがとうございます。ぜひお受けいたします』だけ」
「……なら交渉は決裂よ。帰ってもらえる?」
「わかった。じゃあね、蓮司」
「……少し、待って」
言葉通りに帰ろうとした美季を、悔しそうに斬華が引き止める。やはりあの時と同じ、優位なのは相手側だ。
「めんどくさいなー……。こっちは斬華さん程度に構ってるほど暇じゃないんだけど……いいや。あくまで対等ってことにしといてあげる」
帽子を被り直し、美季が戻ってくる。
「まずこっちの目的を教えてあげる。二人三脚だけじゃなくて体育祭の話も聞いたんだよね?」
「……あくまで、Z組に降りてきた話はね。生徒会が知らされている情報ほどじゃないわ」
「そこは安心して。生徒会でも体育祭自体の話はあまりしてない。こっちも先生から聞いた限りの情報しかないから。とりあえず大事なのは順位とポイント。あたしはそう判断した」
「順位……?」
総ポイントが多いクラスが勝ちとは聞いたけど……順位?
「蓮司、覚えられないだろうけどちゃんと聞いといてね。桂来学園はどの学年でも全26クラス。そんで体育祭では学年別の順位と、3学年合わせた総合のクラス別順位に応じてポイントが与えられる。わかった?」
「わからん」
「単純な話。二人三脚の結果が26位だったら、130万ポイントのペナルティを負う。25位なら120万、24位なら110万のペナルティが、一人一人に与えられる。順位が一つ下がるごとに10万ずつペナルティが増える。ここまでは?」
「んー……ギリギリ」
「報酬がもらえるのは13位から。13位で10万、12位で20万ポイントがもらえる。マックスは1位の130万のポイントの賞金が与えられる。これは体育祭全体でも同じ。各学年ごとの種目に加え、最後のクラス別リレーまで合わせた総合順位でも同様にポイントの足し引きがある。学年、総合共に1位なら260万のプラス。逆に両方最下位なら260万のマイナスね。オーケー?」
「あー……ほんと、ギリギリだなぁ……」
「そして大事なのは、これが下基準になってること。二人三脚で全員負けたクラスが6つあったとしよう。こうなると下から7番目、20番目のクラスは、120万のペナルティを負うことになる。つまり賞金の最大値が下がることになるの」
「だめだわからんっ!」
「じゃあ大事なことだけ言うね。クラスが全員負けたら、その時点で130万のペナルティは確定になる。あたしはそれを狙っている」
「狙ってるって……どのクラスを?」
「決まってるでしょ、A組だよ」
A組が……A組を、落とす……?
「どういうこと……?」
「あたしと沙耶は130万ならたいした痛手じゃない。でも霊御たちは違う。金稼ぎの方法が信者から巻き上げるくらいしかない霊御は、100万越えのペナルティはそれなりの負担になる。まぁ生徒会にいる限り一月100万入ってくるから大丈夫っちゃ大丈夫だけど、それでも痛手には変わりない。何より勝てればプライドを傷つけられるしね。だからZ組にA組を倒してほしいんだよ。そして霊御から得るポイントはあたしの仲間。つまり蓮司と雅がいい。単純でしょ?」
最後の部分は俺にもわかった。確かに単純だ。つまり協力するから霊御を倒せってことなんだから。
「蓮司ががんばってくれたら、その分蓮司のせいでZ組に落ちた永夢さんも助けられる。龍華さんとも会えるし、蓮司にはいいことづくめでしょ?」
「俺は……そう思う……けど、斬華は……」
「……呑むしかない、と、私も思う。でも……私の一存じゃ決められないわ」
「へぇ。てっきり斬華さんがZ組のリーダーだと思ったけど?」
斬華の絞り出した声に、珍しく美季が本当に驚いた顔を見せる。確かに外から見れば、性格的にそう映るのだろうが……実情は違う。
「少し待ってて」
覚悟を決めた顔で、斬華は集まっているZ組の方に向かう。
「みんな聞いてっ!」
だがその叫びはZ組には届かない。当然のことだなんて言いたくないが……このZ組では、当然のことだ。
斬華は、Z組から嫌われている。




