第3章 第10話 交渉 2
「それじゃあ蓮司、交渉させてもらうね」
「っしゃこいっ!」
美季の杭座さんを売り込む交渉。普段ならまず間違いなく引っかかるが、騙されていることがわかっている以上やられることはない。絶対に! 俺は騙されないっ!
「まず相手のメリットを伝える。自信満々で、過剰にね」
杭座さんにそう教え、いよいよ始まる。
「蓮司と雅が組んだ方がいい理由。それは他クラスであるあたしと沙耶にコネクションができることだよ」
「じゃあ杭座さんと組まない場合、美季たちは協力してくれないってことか?」
「そうなるね。あたしの判断力に、沙耶の技術力。雅だって頭は学年一。そして何より、霊御の情報を手に入れられる。いや、蓮司にとっては龍華さんのことが確認できる。これは絶対にほしいんじゃないの?」
「ぐっ……ぐぐ……!」
いきなり強い。今すぐにでも協力したいと言いたいところだがそうはいかない。美季は俺を騙そうとしているのだから。
「逆に雅と組まなかった場合どうなるだろうね。Z組だけで他のクラスに勝てる? 無理だね。なんせZ組は一番無能なクラス。所詮動けるだけ……って言ってもその動けるのも、二人三脚の場合上手くいかない。運動能力よりも、情報力や視野が求められる。いいや、こう言っちゃおうか。この勝負、大事なのは数だよ。数で抑え込むのが必勝パターン。少しでも協力者を増やすのが秘訣ってわけ」
「でも美季も友だち少ないだろっ!?」
「金がある。選挙でだいぶ使っちゃったけど、まだ残り数千万ある。物資は買えるし、人も買える。蓮司が雅と組んでくれるなら、1000万融資する用意がある。蓮司もポイントの強さは知ってるでしょ?」
「確かに……。いや! いやいや! 俺は斬華を助けるんだ! 絶対になっ!」
「斬華さんを助ける、ねぇ……。でもそれって斬華さんは求めてるのかな?」
「……どういうことだ?」
「単純な話。蓮司くんほどの戦力を、自分にくっつけることはしないんじゃないの? 斬華さんって自分より他人を優先するでしょ? 自分だけじゃなく、みんなを助けたい。だったら確実にクラスのためになる雅と組ませるでしょ」
「そ……うだな……」
「これでわかった? 雅と組むことは、蓮司くんにとってもZ組にとってもメリットでしかないんだよ」
「んん……そうだな……いや駄目だ! 違うっ! こんな上手い話があるわけがないっ! 絶対なんか裏があんだろっ!」
「そう。ここがポイントだよ、雅」
俺の渾身の指摘に何の反応も見せず、美季は杭座さんの方を向いた。
「当然これだけメリットを話せば、デメリットを疑ってくる。ここで必ず、少し弱ったところを見せる。相手に策を見抜いたっていう優越感を与えるんだよ」
「なんかそれもやられたなぁっ!」
「じゃあ実践するからね。……ばれちゃったか。実はね、雅、運動能力に自信がないんだよ。だからすごい運動能力を持ってる蓮司に頼みたいの。蓮司に断られたら……頼れる人なんていない。だからお願い……あたしを助けて……。……ここ下手ね? あなたに頼るしかないってことを強調する。相手を褒めることを忘れないこと」
「るかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「で、蓮司にはできないだろうけど、あくまで相手から交渉の提案をしてもらう。ここまで言えば、じゃあこういうのはどう? って話になるだろうから。とにかく相手に優位に立ったと誤認させることが大事」
「俺も言ったよっ! かっこつけてなぁっ!」
ここまで全部龍華にやられた! くそくそくそっ! あいつ俺を味方につけるためにガチで交渉してやがったっ! そんで全部引っかかってたっ!
「まぁあたしの場合こんな感じかな。どう? 蓮司を完全にはめられたでしょ」
「るか……絶対ゆるさない……くそ……くそ……」
「完全に心を挫いてますね……さすがです」
「これは別にトラウマがあるからだけどね。さて、蓮司。今言ったことは全部本音。どう? 呑んでくれる?」
「本音って言うなぁっ!」
「龍華さん……よっぽど蓮司がほしかったんだ……」
ここまで完璧にやられてたなんて……くそ、一言言ってやんないと気が済まないっ!
「美季! 杭座さん借りるぞっ! 絶対龍華に一泡吹かせてやるっ!」
「そう、よか……」
「あなたに決定権はないわ、外村くん」
「お願い外村くんって言わないでっ! 龍華っ! 龍華ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「よっぽど傷ついたんだね嫌われたの……」
傷ついてない……いや。あれは強がりだった。正直めちゃくちゃグサってきた。やっぱり龍華と直接話す必要が……あれ?
「妹が迷惑かけたようね。ごめんなさい」
いつの間にか龍華の姉、斬華が俺たちの集まりに顔を出していた。




