第3章 第9話 交渉
「じゃあ二人三脚がんばってね~」
「がんばります!」
「答えはまた教えてくれ」
「はい! また今度」
「ばいばーい!」
「ばいばーい!」
送ってくれた永夢さんたちに手を振り、森の中にあるZ組の中に入っていく。……と。そんな中、木の陰に身を潜め、Z組の様子を窺っている女子生徒を発見した。足もとにはスーツケース……誰だ?
「どちら様?」
「あっ! えと、杭座雅です。生徒会選挙で落選した……」
「あーそっか。今日がクラス替えの日だっけ」
驚きつつもちゃんと挨拶をしてくれた杭座さん。生徒会選挙で落選した生徒は、強制的に1000万ポイントのペナルティと、Z組へと落ちることになっていた。俺は元々Z組だからポイントだけだが、元A組の杭座さんと、元V組の渡牙さんは今日の夜、Z組に合流することとなっていた。
「それにしては荷物少なくない?」
「そうですね。書物や家具は樹さんの部屋に置かせてもらいました。今持っているのは最低限の荷物だけです」
そっか生徒会に入ったってことはあのビルの一層丸々もらえたんだもんな。そんで元々A組だから一層持ってるわけで、合計2層。部屋は死ぬほど余っているだろう。
「入りづらかったんだろ? 一緒に行くか」
「いえ……実は外村さんを探していたんです」
「俺?」
てっきりZ組の奴らが丸まってるから入りづらかったのかと思ったが、違うようだ。にしてもなんで俺……?
「理由なのですが……」
「ちょっと待った! 考えるっ!」
永夢さんのアドバイス。考えることを忘れるな。それを実践するのには絶好の機会だ。
永夢さんは考えようと思って考える人なんていないと言っていたが、俺の場合ちゃんと意識しないと無理。一度話を止めてもらって考えるとしよう。
でも女子が俺を探してた……ってことは、一つしかない。
「告白っ!? っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「いえ違います。二人三脚の話を樹さんから聞いたので、ぜひペアを組んでいただけないかという打診です」
「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
やっぱり考えるのなんてクソだ。無駄にショックを受けてしまった。
「私と外村さんは共に1000万の借金を負っています。そこで同じ悩みを持つ者同士、一緒に戦うべきだと思ったのです。他の方と組んでは迷惑がかかるでしょう?」
「まぁ……そうだなぁ……」
でも女子と組むのはなぁ……。身体能力的にもそうだし、何より3日間繋がるってことはトイレとか寝るのも一緒じゃなければならない。
だが他の奴に迷惑がかかるというのは事実。そう思うと杭座さんと組んだ方が……ん? ちょっと待てよ……。
「ごめん、それ無理だ。俺、斬華と組まないと」
もちろん1000万の借金は途方もないが、斬華に至っては1億もの借金を負ってしまった。杭座さんには悪いが、優先順位が違う。
「そういうわけで……」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
俺が断ると、杭座さんはやけに焦った様子で引き止めてきた。そして目線を斜め上に向け、わかりやすく困った様子を見せた。
「えと……えと……あれです! 斬華さんと組んでしまうと、多くの方から狙われてしまいます。賭けるポイントは名簿アプリで確認できるようですし、確実にピンチ。いくら賭けるのかはわかりませんが、借金を返すにはまた学校から借りなければならない。完済するとなると1億借りて合計2億の借金。いえ、利子やペアの分も含めたら最低でも2億4千万ポイントを稼がなければならないのです! ね? 危険でしょう!?」
「まぁそうだなぁ……。でもだからこそ俺が助けないと。斬華運動神経ないからなぁ……」
「だ、だから! 斬華さんはもう手遅れです! 全校生徒相手に守り切れるわけがない!」
「いや大丈夫だろ。頭脳戦って言っても俺には運動だとしか思えないし。運動なら絶対負けない!」
「ですが! 二人三脚ですよ!? 身長も30cmほど違いますし……」
「それは杭座さんもだと思うけど……?」
「えと……えーと……!」
「はいそこまで」
杭座さんと話していると、奥の方の木の陰から美季が歩いてきた。なに? どゆこと?
「俺、試されてた?」
「試されてたのは雅。こいつ頭はいいけど中身カチカチなわけ。だから頭脳戦のやり方を教えてたんだよ。蓮司程度説き伏せられないと話にならないからね。で、結果はだめだめ。交渉のなんたるかを全然わかってない」
はーそういう……。まぁ確かに、俺のこと騙せないとか致命的だよなぁ、人間として。待ってそこまでか? 自分を過小評価しすぎじゃないか。いやそんなことないな。俺を騙せないなんて人間として終わってる。
「言ったでしょ? まず自分が弱い立場なこと。頼れるのが相手しかいないって伝える。その後胸でも触らせれば馬鹿な男の一人や二人、簡単に落とせるから」
「それやられたことあるっ!」
めちゃくちゃやられた! 龍華にそのまんまやられたっ! あいつめちゃくちゃ俺のこと騙そうとしてたんだなぁ……。
「でも樹さんはそんなことしないでしょう?」
「そりゃあたしはね。そんな女女らしいことしなくても勝てるから」
「では私にもそれを教えてください! 私が知りたいのは生き残る手段ではなく、勝つ手段ですっ!」
「んー……そうだなぁ……。顔もいいし小柄だし胸も大きいんだから絶対こっちの方がいいと思うんだけど……」
「美季もそうだと思うぞ!」
「はいセクハラ。ばらされたくなければ協力して」
「うっそだろっ!?」
「なるほど。そういう手段ですね……」
「いやこれはあくまで超絶お馬鹿相手。蓮司くらいにしか通用しないから」
「くっそがぁっ!」
なんなんだよもう……。なんで俺がこんな目に……。
「じゃああたしが実践してあげるから。ちゃんと見ててね」
「ちょっと待て俺今から騙されるのっ!?」
「騙すわけじゃない。あくまで交渉だから」
違いがよくわからないが、俺を上手く丸め込もうとしていることは事実だろう。だがそれを知っていて騙されるほど俺はチョロくない。
「かかってこい美季! 俺は絶対騙されないぞっ!」
「大フリありがと」




