第3章 第7話 BAN
「元々うちの代の生徒会書記は明日那じゃない。浮麗緋彩って女が務めていたんだ」
何の脈絡もなく始まった大賀さんの昔話。正直あまり興味はないが、たぶんこの人は関係のないことを話すような人じゃない。俺が聞く必要があるのだろう。
「俺の幼馴染で……ヒーローみたいな女だった。曲がったことが大嫌いで、俺の口の悪さをいつも咎めてた。たいした頭もねぇくせにこの学校についてきちまうくらい、俺のことを気にかけてくれる、すごい、いい奴だった」
過去形……って言うんだよな。だったって……。今は、もういないってことか……?
「あいつを生徒会に入れるのは苦労した。なんせただの正義馬鹿だ。万人から好かれる性格じゃねぇし、買収なんかできる奴じゃない。それでもあいつが……ああいう奴が、生徒会に入るべきだと思った。だから俺もそれなりにやべぇ橋を渡って緋彩を無理矢理選挙で勝たせた。もちろんあいつにばれないよう気をつけながら……今思えばそれが始まりだったのかもな」
この学校は、ふさわしい人がふさわしい場所に立てるとは限らない。人と話せない沙耶なんかより、斬華の方がよほど生徒会にふさわしかったはずだし、お互いそう思っていただろう。
だがそんな適正は、桂来学園には通用しない。どこまでいっても、頭がいい人間が勝てるようになっている。
「俺は勘違いしてたんだよ。緋彩が生徒会にふさわしいって。でも間違っていた。あいつに向いているのは生徒会で、桂来学園の生徒会じゃなかった」
俺でも想像がつく。斬華を見てきたから、正義感が強い人間がどんな目に遭うか。
「赤道天也……お前が喧嘩した獣みたいなあいつと、人間のエゴの塊みたいな緋彩がぶつかるのは時間の問題だった」
赤道さんか……。関わったのもあの一回だけだし詳しくはわからないが、やっているだろう、間違いなく。それなりに、あくどいことは。
「詳しくは言わねぇが、奴は金がねぇ女と金がある男をくっつける商売をやってポイントを溜めていた。そこに緋彩が飛び込んでいった。たった一人でな」
言って聞くような人じゃないはずだ、赤道さんは。そして暴力となると、もっとやばい。クソ雑魚なのは俺と比べた場合。多少武器は持っていようが、絶対に負けないくらいの力を持っていた。
「俺たち他の生徒会が異変に気づいて到着した時。あいつは商品にされる直前だった。だから俺は撃った。本物の拳銃で、殺すつもりで、赤道を。そして、外した。銃の扱いには自信があったのにな。一番必要な時、俺は一番大事な人を撃っていた」
あえて淡々とそう語る大賀さん。ミラー越しでもその顔を見ることははばかられた。
「腹に当たった。入院した。生徒会を辞めさせられた。留年した。そして今もまだ、学校には来れてねぇ。身体はとっくに治ってるはずなのにな」
言葉にすると、たったそれだけ。それだけで、終わってしまう。
「あいつを撃ってからようやく気づいたよ。俺は間違ってたってな。どうして銃を持っていたのか。どうして銃を撃てるようになったか。覚えてないんだ。この学校で過ごしていて、当たり前のことのように、普通に。できるようになっていたんだ。俺はこの学校に染まっていた。おかしくなっていたんだよ」
たぶん、俺が少数派なのだろう。馬鹿だから。変わらないでいられた。
運転も、喫煙も、ギャンブルも、ハッキングも、洗脳も、喧嘩も、裏切りも。全部、おかしいと思えている。
それが幸運なのか、そうでないのか。まだ俺にはわからない。
「この学校はクソだ。頭が全てだなんて現実染みたフィクションを騙り、子どもを、洗脳している。この学校を壊す。あの時から俺は、それ以外考えられなくなった。お前も同じだと思ったんだよ、外村」
ここでようやく、俺に言葉が向けられる。ただ馬鹿なだけの、俺に。きっと俺なんかより何百倍も考えている大賀さんが、俺に語る。
「お前の女も、この学校に殺されそうになっていた。お前なら、俺の想いを継いでくれる。勝手にそう期待しちまった。だからお前に、全部託そうとした。でもお前は馬鹿だった」
「なに当たり前のこと言ってんすか」
「そうだ。当たり前なんだ。俺とお前は違う。考えていることも、想いだって違うんだ。結局俺は、この学校に染まったままだった。利用できると。利用しようと思っちまったんだ」
正直、俺は何とも思っていない。どうでもいい。別に俺を利用しようが、策略があろうがどうでもいいんだ。俺は俺がやりたいことをやるだけだから。
でもそう、普通に言うことはできなかった。
俺と大賀さんの考えていることは違う。俺にとっては単純だけど、この人にはそうでないのだろう。
「……外村、悪かった。馬鹿な先輩を許してくれ」
震えた声でそう謝罪されてしまったら。俺なんかが何か言うことなんて、できなかった。




