第2章 第40話 NTR
「蓮司くん……すご……」
「俺割と動けるって前に言いませんでしたっけ? 永夢さんには言ってないか」
珍しくマジっぽい調子で永夢さんに褒められたが、あんまりうれしくない。俺が身体能力で負けないくらい知ってたし……後片付けできて偉いねと言われているような気分だ。できて当然のことを褒められると逆に馬鹿にされているような気がしてくる。
「はぁ……は、ははぁ……」
「あ、まだ意識あったんだ」
「ぐ、ぅ……!」
踏みつけている赤道さんが苦しそうに笑ったので、腹に乗せている脚に力を入れる。そうか、俺裸足だったもんな。靴を履いている時より蹴りの威力は落ちるか。
「まだやりますか? 俺さっさと龍華のところに行きたいんですけど……。無駄なんでやめません? 痛いのやでしょ?」
「は、はぁ……。むかつくぜ……。再戦したところで勝てる気がしねぇ……」
「当たり前でしょ。じゃ、そういうことで」
「お前……よほどあの女……翠川龍華のことが好きらしいなぁ……」
よくしゃべるなぁ……。さらに力を込めてみると、苦しみながらも必死に声を押し出してきた。
「喧嘩じゃお前には勝てねぇが……お前の大切な女を壊すことはできる。俺があいつの推薦者だ……。呼び出そうと思えばすぐにでも呼び出せる。逃げられねぇ場所で徹底的にブチ犯……」
「あんた喧嘩狂だろ? 関係ないことすんなよ」
「そうだったけどなぁ……気が変わった。今まで負けたことなんかなかったから気がつかなかったが……負けると無性に腹が立つ。どんな手段でもいいから……復讐しねぇと気が済まねぇ……」
「ふーん……。ねぇ永夢さん、この学校では殺してもいいってほんとですか?」
訊ねると、永夢さんは引いた顔で首をコクコクと縦に振っていた。なんでそんな顔されなきゃいけないんだろう。まるで俺が悪いみたいじゃないか。悪いのはこの頭脳戦を望んだこの人なのに。
「はは……お前にはできねぇよ……」
永夢さんに顔を向けていると、足もとからゾンビのような笑い声が聞こえた。
「殺してもいいと……殺せるは別物なんだぜ……? 普通。人は人を殺せない……! くだらねぇ倫理観や常識のせいで……どうしたって躊躇しちまう……! だが俺は違う。俺は何も考えず、人を殺せる……! わかるか……外村ぁ……! お前に俺は殺せないっ!」
「……色々悪口を言われてきたけど、普通って言われたのは初めてだな」
転がっていた赤道さんのナイフを拾い、俺は。当たり前のことを一言、口にする。
「俺が普通なわけがないだろ?」
やっぱりこいつは馬鹿だ。俺のどこを見て普通だと思ってしまったんだ。本当に、馬鹿らしい……。
「ま……待て……! ほんとに、殺す気か……!?」
「え? いや龍華を傷つけるつもりなんだろ? じゃあ殺すよ。それ以外に方法があるなら教えてくれよ」
「あ……あるだろ他にも……! 俺のところに行かせないよう注意するとか……他の生徒会役員に頼るとか……!」
「……? 赤道さんを殺した方が早くないですか?」
「馬鹿野郎っ! おま……馬鹿ぁぁぁぁっ!」
「まぁやりたくないのは事実だけど……しょうがないよなぁっ!」
「そこまでにしてもらおうか」
ナイフを振り下ろそうとすると、聞きなれない声が俺を止めた。
「えーと3年生徒会長の……十文字さんと……書記の狼煙さん……?」
ホールとは逆方向から2人の3年生徒会が歩いてきた。
「ウチの者が迷惑をかけた。その非礼については会長の私が謝罪する。だからこの場は私の顔を立ててくれるか」
「ごめんなさい、なに言ってるのかわからないです」
顔を立てるってどういう意味だ。とにかく赤道さんを殺してから……。
「蓮司!」
「またかよ……」
また誰かが俺を止めようとする。無視しようかとも思ったが、よく聞いたらこの声……。
「……美季?」
「赤道さんを殺したらその友だちが辛い思いをすることになるよ。蓮司もそれは嫌でしょ?」
「なるほど確かにな……。じゃあこの程度で!」
「ごっ!? ほぉ……」
赤道さんに全力で金的を食らわせて終わりにする。白目剥いて泡吹いてるし、しばらくは起き上がれないだろう。
「ありがとう美季! ほんとに殺すとこだった!」
「ほんとだよ……。こんなのあたしの役目じゃないのに、さぁ……」
美季がホールの廊下から出てくる。その後ろにはうなだれた斬華と、それを支える沙耶と杭座さんの姿があった。
「ここにいるってことは龍華を助けられたってことだよな?」
「……ごめん、蓮司。霊御は止められたけど……」
「翠川を助けることはできませんでした」
今度はホールの側面から。霊御さんが現れる。その隣には如月さんと……。
「桜花しゃまぁ……。がまっ、我慢してたのでっ。ちゅー! ご褒美に、ちゅーしてくださいぃ……!」
「ふふ、そうですね」
「ぁぅ……あぁーーーー!」
狂ったような顔で、霊御さんとキスをする龍華がいた。
「ごめんなさい、蓮司」
そして龍華の唇から口を離し、霊御さんは心底気持ちよさそうに、笑った。
「翠川龍華は私のお友だちになりました」




