第2章 最終話 宣戦布告
「ふふ。実に素晴らしかったですよ、蓮司。あなたが仕組んだ録音データの編集のせいで学校に呼び出しを食らってしまいました。対応によっては斉賀さんの退学もなくなるかもしれませんし、翠川だって。蓮司のことを思い出し、あと一歩のところだったのに正気を取り戻してしまいました。なのでこちらも、奥の手を使うしかありませんでした」
楽しそうに笑い、霊御さんはポケットから白い錠剤を取り出した。
「おっ、桜花しゃまっ。くだひゃいっ。わたしにっ! はぁっ、はぁっ」
その錠剤を一目見た龍華は、犬のように舌を出し、涎を垂れ流しながら懇願し始めた。その瞳はいつもの優しい眼差しでも、斬華を見る辛そうな眼差しでも、虚ろな眼差しでもない。
興奮。その二文字で表せるほど単純で、狂気的な色をしていた。
「……薬?」
「まさか。ただのビタミン剤ですよ。でもプラセボ効果……プラシーボ効果と言った方が通りがいいでしょうか。いわゆる思い込みの力ですね。これを非合法な薬だと言い与えたら……ふふ。こんなかわいくなっちゃいました」
「あぁ……! あぁぁぁぁ……!」
霊御さんがビタミン剤を地面に落とすと、龍華は一目散にそこに飛びつき、手も使わずにかぶりついた。
「あぅぅぅぅっ! ぅぁあああああっ!」
そしてそれを食べた龍華は……いや、もういい。
「霊御さん……」
「ふふふ。この事実をどう捉えますか? 蓮司。これが翠川の深層心理ですよ。とんでもないド変態ですね」
「霊御さん……!」
「ですがここまでなってしまうと少しめんどうですよね。翠川には私の隣で働いていただかなければならないのに。これではただのペットです」
「霊御っ!」
「はい、蓮司」
俺の叫びに、霊御は舌なめずりをし、答える。
「どうしました? 蓮司。私に……」
「朔夜を……返してっ!」
俺と霊御のやり取りに、人質にされていた恐怖でうずくまっていた渡牙さんが乱入してくる。
「はぁ……。あなたに興味はないのですよ、渡牙さん。それに翠川ならまだしも、如月には特に何もしていません。自分の意志で、自分のために。私のお友だちになることを選んだのですよ? ねぇ、如月」
「ごめんね……りんりん」
霊御に振られ、如月さんが一言。目を逸らして答える。
「ごめんじゃわからない……! 本当に、私を裏切ったの……!?」
「言ったでしょ……しょうがないって。ここはあたしたちの小学校じゃないの……。もうりんりんを構ってる余裕なんてない。あたしはあたしが生きるので……精一杯なんだよ」
「っ――――!」
如月さんの心からの否定に、渡牙さんは何も言えない。動けない。そんな、余力はない。
「翠川。あなたからも一言蓮司に挨拶しておきなさい」
「は、ぁい……」
口の中で錠剤を転がし、龍華は。座ったまま、霊御の脚に頬を擦りつけた。
「ごめんねぇ……蓮司くん。でもわたしはなにも変わってないよぉ? わたしはわたしの大切なものだけ守る。それが蓮司くんとおねぇちゃんから、桜花様に変わっただけ。わたしは桜花様のために……ためだけに、この命を使うのぉ……」
「よくできました、翠川」
「ありがとうございましゅぅぅぅぅ……」
霊御に頭を撫でられ、龍華がとろんとした瞳を送り返す。これが演技ならたいしたもんだ。つまりはまぁ……そういうことなのだろう。
「さて、蓮司とずっとお話していたいのですが……今回ばかりはそうもいきません。私はあなた方に宣戦布告をしに来たのですよ、第3学年生徒会」
霊御の冷たい瞳が俺の後方。十文字さんへと向く。
「そこに転がっているゴミのせいで蓮司が離れてしまいました。それさえなければ今とは全く違った結末が待っていたはずなのに……。わかりますか? 十文字3年生徒会長。あなた方のせいで私の希望は潰えたのです。せっかく3年派閥の方を多く入れてあげたというのになんという不義理でしょうか。私はあなた方を許さない。第3学年生徒会を全員退学にするつもりなので、覚悟しておいてくださいね」
霊御のその宣戦布告を受け、十文字さんは。
「それはこちらの台詞だ。生徒会は活動できなくなった時点でその資格を剥奪される。これだけの怪我だ。赤道はしばらくの入院を余儀なくされるだろう。わかるか? 霊御。貴様らのせいで副会長に加え、庶務まで失った。貴様らは桂来学園の生徒会にふさわしくない。私が第1学年生徒会を破壊する。そのことをよく覚えておくんだな」
霊御と全く同じ怒りのこもった瞳で、宣戦布告をし返した。
「霊御さん。君には悪いけど、3年生徒会は私たち2年生徒会の敵だ。君たちに譲るつもりはない」
それらの宣戦布告に乗っかる形で、黒峰さんが十文字さんを見つめる。そして、
「霊御。あんたの敵は外だけじゃない。あたしたちもあんたをぶっ潰したいってこと、忘れないでね」
美季、沙耶、杭座さんまでもが宣戦布告に加わる。
「ということらしいですよ、蓮司。あなたは美季たちのお仲間でしょうし、何も言わないでおきますか?」
「いいや。俺には美季の考えを全部理解することなんてできない。だから俺は俺で言わせてもらうよ」
俺にはどうでもいいんだ。学校のこととか、生徒会のこととか、霊御のこととか、全部。
俺にあるのは。
「俺の友だちを傷つけたお前を! 俺は絶対に許さないっ! ぶっ潰してやるから覚悟しとけやぁぁぁぁっ!」
これにて第2章終了です! ここまで読んでいただきありがとうございました!
度々になりますが、おもしろかったり続きが気になった方は、ぜひとも評価やブクマをお願いしますっ! めちゃくちゃお待ちしていますっ!




