第2章 第39話 頭脳戦無双
「うれしいぜ、外村。ここまで焦らされた甲斐があるってもんだ。お前とガチでヤり合えるんだからなぁ」
赤道さんが首をポキポキと鳴らす。場所はホールの出口の少し前辺り。俺とは10mほど離れている。
「お前もそうだろ? そんだけの身体能力があるんだ。手加減しないとやりすぎちまう。でも桂来学園は場合によっちゃぁ殺しも認められてる。つまり俺たちを縛るモンは何一つねぇってわけだ」
「だから手加減なんてやり方わからないって言ったよな……」
靴に加えて靴下も脱ぎ、完全な裸足になる。そして数度跳ね、一応言っておく。
「言いたいことがあるなら今の内言っとけよ。話してる余裕ないだろうから」
「ねぇな。拳で語るのが俺たちだろ?」
「一緒にすんなっ!」
まず俺は左足の革靴を全力で赤道さんに投げつける。が、無堂さんにやったような蹴りでの靴飛ばしよりだいぶ速度はない。簡単に腕で払われてしまった。
「おいおいつまんねぇ小手調べなんか――!?」
「言っただろ。話してる余裕なんかないって」
どうして払っただけで満足したんだろうな。靴のすぐ後ろから俺が迫っていたというのに。
「頭脳戦っつったろ! 少しは頭使えやぁっ!」
「がはっ……!?」
まず小手調べ代わりの跳びながらの回し蹴り一閃。赤道さんの顔面に俺の右脚がクリーンヒットし、赤道さんは体勢を崩しながら後ろに退がった。
「は、や……!?」
「馬鹿かっ!? 革靴より裸足の方が走りやすいに決まってんだろっ!」
着地の後即間合いを詰め、顔面をぶん殴る。俺の速度がさっきまでとは段違いだということに驚いていたようだが、どれだけ馬鹿なんだ。飛び道具のためだけに靴を脱いだわけがないのに。
「ははは……はははははっ!」
また後ろに退がった赤道さんが、今度は自分から殴りかかって……っておい。
「フェイントなんて一手遅れるだけだろうがぁっ!」
「ご、はぁっ……!」
この馬鹿、追い込まれてるのにパンチをフェイントにして蹴ろうとしてきやがった。フェイントなんて相手が守ることが前提の作戦だろ。一方的に終わらせるって言った以上、赤道さんに反撃の余地なんて残すわけがないだろう。
「ぁ……あぁ……!」
俺に再び蹴られた赤道さんの身体がホールの廊下に入った。フィールドが狭くなったな……めんどくさい。なら、
「必殺! 穂火さんの真似っ!」
俺はスーパーボールのように壁を蹴り、赤道さんの後方上空へと跳び上がる。
「からの! えーと……おらぁっ!」
「ぐ、うぅ……!」
空中で身体を半回転させ、赤道さんの脳天めがけて一直線にかかと落としを放つ。だが赤道さんが両腕を上げたことで防がれてしまった。
「ぐ、そがぁ……!」
まぁ貫通して頭には当たったし、赤道さんはふらついている。なら問題ないか。
「吹っ飛べぇっ!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺は着地した際の脚をバネのようにし前進。無防備な赤道さんの腹に、渾身のパンチを叩きこんだ。
「あぁぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
赤道さんが言葉にもならない叫び声を上げ、懐から何か光るものを取り出した。あれか、バタフライナイフってやつだ。まさか俺を刺し殺す気じゃないだろうな。
「ほんと……馬鹿だな……」
一つため息をつき、俺は赤道さんのもとへと駆ける。
最初から最後まで赤道さんは勘違いしている。俺は言ってあげてたんだずっと。これは喧嘩じゃなくて、俺なりの頭脳戦だって。頭を使えって。じゃなきゃ相手にもならないって。
それなのに、この馬鹿は……。
「俺が見てから対処余裕だってことくらい、知ってんだろっ!?」
「なっ……!?」
突き出してきたナイフを持つ赤道さんの右腕を見てから、跳び上がる。
「バケ、モンが……!」
ナイフよりも高い位置から赤道さんの最期の言葉を聞き、そして。
「ごめんなさいっ!」
今度こそ無防備な赤道さんの脳天に、かかと落としを叩き込んだ。
「いやマジで……悪いと思ってるんですよ……?」
仰向けに倒れる赤道さんの腹を踏みつけながら、ゆっくりと立ち上がる。
「赤道さんが相手にならないことくらい、最初からわかってたんで」
こんなつまらない頭脳戦、桂来学園に入ってから初めてだった。




