第2章 第33話 考えての
「それで。霊御さんを倒す算段はついているのですか?」
「やー、どうだろうね。正直微妙」
樹さんたちに協力することを決めたはいいが、返事がどうにも曖昧だ。
「まさか何も考えていないのに私を誘ったんですか?」
「霊御の手札を増やしたくなかったからね。それに蓮司がくれたスマホ次第でもある。上手くいけば退学まで追い込めるけど、たぶん斉賀の退学を止めるのが関の山じゃないかな。それも上手くいけば、って話だけど。でもとりあえず今回は。これ以上の進撃を止めることができるはずだよ」
外村さんが渡したスマートフォン……。おそらく出田さんが弄っているタブレットにデータが入っているのだろう。それにしてもすごい集中力だ。私と樹さんの会話に一つも気づかないくらいに、一心不乱にタブレットを操作している。
「てか霊御ほんとむかつくわ。偉そうに説教しやがって」
まだ時間がかかるのか、霊御さんがスカートなのにもかかわらず、大胆に腰を下げる。
「でも普通に買収した方がよかったというのは真実なのでは?」
「それ無理。蓮司が龍華さんを入れたかった以上、買収はこの手しかない。ポイントはあたし持ちだからアドリブでぶっこむしか蓮司にはなかったんだよ。そんなこともわかってないんだ、あいつは」
……なるほど。洗脳……されていたわけではないが、客観的に見ると霊御さんはそれほどすごい人ではないように思える。
「まぁ蓮司にしてやられたのは事実だけどね。でもそれはお互い様。霊御は蓮司の策を舐めてたから2位になった。おまけに龍華さんの人気もわかってなかったね。一応所信表明のことも考慮しておくべきだった。でもそんなボロボロの状態で全部自分の手の上ですよ感を出せるのはさすがとしか言いようがないかな。口の上手さじゃ勝てる気がしない」
樹さんは決して霊御さんを侮っているわけではない。強さをしっかり見極めた上で、それでも立ち向かうと言っているのだ。
「でも嫌いというだけで敵対するのは少し考えなしなのでは?」
「別に嫌いってだけじゃないよ。あたしと沙耶……。性格は真逆だけど、どっちもゲーム好きって点は一緒。あたしはアナログ派で、沙耶はデジタル派だけど。で、ゲーマーは決まってイカサマが嫌いなんだよ」
突然別の話、というわけではないのだろう。樹さんは爪を弄りながらも、真剣な瞳で語る。
「あたしたちはゲームの枠組みの中で必死にもがいて遊んでるのに、霊御はそのゲームのルールを壊そうとしてる。そんなのつまんないじゃん。だったらルールを理解してない蓮司の方がマシって思わない? どっちが保守派なんだって話だけどさ」
「ところで樹さん。先程から外村さんの話が多いですね」
「っ!? べ、別にあたしは……!」
「できたぁっ」
事故が起きた。何やら顔を紅くして慌てている樹さんと、ヘッドホンをつけている出田さんの声がぶつかる。
「で、できたんだ沙耶! さっさと片付けよっ」
「はぁ。別にそれは構わないんですけど……なんか美季ちゃん……」
「いいから早く!」
樹さんに促され、出田さんが再びタブレットを操作する。するとホール中に、霊御さんの声が響き渡る。
「『私の』『推薦人』『は』『十文字3年生徒会長です』」
そんな、言葉を継ぎ接ぎしたような声が。
「これは……!?」
「蓮司が選挙中ずっと録音してたんだって。何やるかわからないから念のためって」
「それをさやが編集したんです。なるべく違和感が出ないように。そして桜花ちゃんが推薦人を明かしたように」
なるほど……。これが、外村さんの策……。
「確かにこれなら霊御さんを止められる……」
「でもこの出来じゃすぐばれるかな」
「時間があれば! もっと自然にできてましたっ! あとパソコン! パソコンが結局最強なんですっ!」
樹さんの言う通り充分な出来とは言えないが、誤魔化そうと思えば誤魔化せる。とりあえず学校側が事実確認のため霊御さんを呼び出すことは確実。結果お咎めなしになっても、斉賀さんのも編集というものにできれば退学を取り消せるかもしれない。
「すごい……ですね……」
「蓮司のファイン……いや、沙耶のおかげだよっ!」
「ですよねっ。さやがんばりましたっ!」
樹さんが外村さんの名前を避けようとしていることを知らない出田さんが、誇らしげに大きな胸を張る。
「後はステージがどうなってるか……ですね」
「それより蓮司が無事かどうかだよ」
……樹さんすごい心配してるけど、本当にポーカーフェイス得意なのだろうか。




