第2章 第29話 真実 2
「龍華。蓮司にはああ言いましたが、私はあなたを退学させる気はありません。ただお友だちになりたいだけなのです」
興奮を必死に押し留めるような気色の悪い笑みを浮かべ、霊御さんは龍華さんへと近づいていく。
「あなたは私に必要な人間です。目的のためならそれ以外の全てを切り捨てられる人間。中々いるものじゃありませんからね……ぜひ、ほしい」
距離を詰められてるのにも関わらず、龍華さんは動かない。動けない。ただへたりこみ、虚ろな瞳で霊御さんを見上げている。
「あぁ……。いいですよぉ、その表情。大変唆ります……。るかぁ……私のものになってくださ……」
「……霊御さん」
霊御さんと龍華さんの間に、小さな人影が入り込む。
「龍華の代わりに、私を退学にしてください」
斬華さんが、龍華さんの前に出て床に額をつけた。
「……翠川さん。あなたに興味はありません。あなたは必ず退学にしますし、龍華は必ずお友だちにします。交渉になりません」
霊御さんの顔がスン、と無表情になり、侮蔑の視線を斬華さんに向ける。表情が変わったのは霊御さんだけではない。
「ああああああああっ!」
色を失った龍華さんの瞳に怒りの炎が燃え上がり、土下座する斬華さんを押し退けた。
「あんたはっ! みんなを守るんでしょっ!? なに甘えてんのっ!? 斬華はっ! 翠川斬華という人間はっ! わたし一人を守るために死ぬような普通の人間じゃないっ!」
「龍華……?」
激昂し、そして龍華さんは。
「わたしが退学になる。その代わり斬華と蓮司くんの借金を返済してください」
斬華さんがいた場所で、同じように土下座をした。それを受けて霊御さんは。
「ぇ……へへ」
気持ちよさそうに、笑った。
「わかりましたよ美季があなたを嘘つきだと言っていた理由が。……龍華。本当はあなた、お姉さんのことが好きなんですね? それを隠して、生きていた。嘘で全身を塗り固めて」
一瞬。ほんの一瞬だが、空気が、止まった。だが時間は止まらない。
「……斬華のことは嫌いだよ。ノブレス・オブリージュなんて理解できない頭がおかしい! わたしにはできないすごいことだからっ! ……わたしが守るの。嫌いだけど大切な人だから。わたしが守らなきゃいけないの」
私に人の真偽を見抜く力などない。それでもわかる。
龍華さんは、心の底から真実を語っている。
「知ってる? みんなのために行動するとね、怒られるんだよ。誰かの味方をすることは誰かの敵になることだから。そのくせ全然褒められない。感謝されない! 怒られるっ! わたしはそれが許せないっ!」
一度壊れたダムは戻らない。想いの洪水が、溢れてくる。
「だからわたしがおねぇちゃんを守るのっ! これ以上みんなは増やさない! 面倒なことは全部わたしがやるっ! 守るものが少ないわたしが! それを譲るわけにはいかないのっ!」
ふるふると震えて。龍華さんが、斬華さんを見る。
「……おねぇちゃん。いままでごめんね。わたしのせいで、迷惑かけたよね」
「龍華……私は……!」
「でももう大丈夫だよ。わたしたちには、蓮司くんがいる。蓮司くんは褒めてくれる。感謝してくれる。怒っても、すぐ謝ってくれる。だからもう、わたしはいらないよね」
「龍華聞いて……! 私は……!」
「霊御さん」
姉の言葉を逃げるように避け続け、龍華さんは再び頭を下げた。
「わたしのことは好きにしていい。だからもう、許してください」
「嫌です」
だが霊御さんは、その本心を受け入れなかった。
たぶん、その心に霊御さんは興味がなかったから。
「如月、翠川さんを抑えていなさい」
「え、あ、はいっ!」
霊御さんの三歩後ろで控えていた如月さんが、斬華さんの小さな身体を後ろから抱き、口を抑えた。
「龍華さん。顔を上げて舌を出しなさい」
「な……にを言って……?」
「いいから出しなさい」
ここから、始まる。
「もっと聞かせてください、あなたの本音を」
霊御さんの、調教が。




