第2章 第27話 最後の賭け
「狼煙、閉めろ」
「はっ!」
俺と赤道さんの喧嘩が始まってまず起きたことは、3年生徒会が生徒から見えないようステージの幕を閉め始めたことだ。
「どうなってんだよこれ! 3年は止めないし! 2年はどっか行っちゃうし! 先生は来ないし! なにこの学校暴力オッケーなのっ!?」
「ちげぇな。権力者の暴力は容認されてるんだよ」
俺に殴りかかりながら、赤道さんは普通に話し始める。
「警察に軍隊。どれだけ文化的な国でも暴力は持ってるもんだ。俺はそれ。だから俺の暴力は認められてるんだよ!」
「あんたはただ喧嘩したいだけだろ!?」
「拳銃に人を傷つける以外の使い道はあんのかっ!?」
「あるかもしれないだろっ!?」
クッソこいつ……! 思っていたよりは強くない……!
身体能力は間違いなく俺の方が上。だがこいつ、全く躊躇がないんだ。ラインを送るように人を殴ってくる。暴力が日常なんだ。人を傷つけることに罪悪感がないんだ。
それが、何よりの武器。一発一発が命を抉り取るかのような威力。防ぎきれないぞこれ……!
「どうしたっ!? なんで攻撃してこないんだよ外村! ビビってんのかっ!?」
「そりゃビビるよ……。こんなん喧嘩じゃなくてもう殺し合いだろっ!?」
「いつ喧嘩しようなんて言ったよ! 俺は初めからそのつもりだったぜっ!?」
「悪いけど俺にその気はないんで!」
喧嘩の範疇で、終わらせる。俺の狙いはいつだって一つ。金的のみだ。
「おらぁっ!」
「わっかりやすいなぁおい!」
俺の蹴りは軽々と避けられ、上がった脚を赤道さんが掴もうとする。急いで避けた方向に脚を動かしたが、赤道さんの脚狙いはフェイク。即座に俺へと近づき殴りかかってきたので、地についた左脚に思いっきり力を込め、後ろに下がる。
「……フェイントが効かねぇ。いや、思いっきり引っかかってんのに見てから対処される。……お前、おかしいよ」
「あんたに言われたくないけどな!」
赤道さんが足を止めたので、俺も息を整える。本当にこんなことやってる場合じゃないんだけどな。
「武道の動きじゃないよなぁ……スポーツ選手独特の癖もない。視線は行動そのまんまだし、喧嘩慣れしてる感じでもない。お前、なんなんだ?」
「別に……ただ動けるから動いてるだけだよ。あんたみたいに人を思いっきり殴れるようにはできてないんだ」
「その割にはさっきの蹴り。ずいぶん本気じゃなかったか?」
「手加減の仕方を知らないんだよ馬鹿だからな!」
「なんだそりゃ」
再び赤道さんが迫ってくる。攻撃が当たらない以上このままじゃいずれ負けるな……。負けたら死ぬ……。え? ほんとに死ぬの? マジで?
「蓮司くんこっち!」
「永夢さんっ!?」
赤道さんの攻撃を捌いていると、ステージ裏から珍しく焦った顔をした永夢さんが俺を呼んできた。
「こっち来て! あとは永夢たちが何とかするからっ!」
「こっち来てって……」
「よそ見してる暇あんのかっ!?」
「っ」
永夢さんの方に顔を向けていると、強烈な痛みが頬に奔る。殴られたな一発……。
視界が自然と変わり、1年たちの姿が映る。
龍華は……ペたんと座り込み、虚ろな瞳をこちらに向けていた。
「くっそ……!」
こいつを何とかしないと、どうしようもない……!
「沙耶っ!」
「ふぎゃっ!?」
沙耶へと投げたスマホが顔面に当たり、変な悲鳴が上がる。
「沙耶ごめん! それで何とかしてくれっ!」
「ぅえ……。……え? これ、どうして……!?」
「選挙が何するものかわからなかったから、一応な!」
あれさえあれば、上手くいけば霊御さんを止められる。
上手く……いけば。
「ごめん……あとは頼む」
「蓮司……」
隣の美季にも視線を飛ばし、俺は走る。龍華を助けるためには、俺がそばにいちゃいけない。
だから俺は、ホールを飛び出した。




