第2章 第26話 ヤバい奴ら
「くっそ……!」
やっぱり、言ってたか……龍華は。自分の推薦人を。
どうする。どうやって霊御さんの告発をやめさせる。
とりあえず霊御さんが持っているタブレットを壊す……いや、元データくらいあるだろ。根本的な解決にならない。
あー……俺の頭じゃこんなことしか思い浮かばない。
「おい、斉賀」
俺に拳を受け止められ続けている斉賀に言う。
「霊御さんを殴るつもりだったんだろ? 悪いな、止めて。とりあえず病院送りになるくらいにボコしてくれ」
最低だが、これしかない。霊御さんの口を塞がらない限り、龍華は退学になってしまう。
「俺を誰だと思ってる……! 生徒会役員だぞ! 庶民が命令してんじゃいだだだだっ!?」
「っせぇないいからやれよ」
拳を握っている手に力を込める。利き手じゃない方の手で握りしめられたくらいで悲鳴上げてんのになに選択肢があると思ってるんだ。
「ふふ。ずいぶん怖いことを言っていますが蓮司。あなたにそれはできないでしょう?」
背後から心底楽しそうに笑う霊御さんの声が聞こえる。
「私があなたを好きな理由がそれです。蓮司は馬鹿なのに、理性があるのですよ。ただの馬鹿ならそこにもいますが、蓮司には常人の7、8割程度の理性がある。だからどれだけ怒ってても女性を傷つける選択肢はないのです」
「……試してみるか?」
「どうぞ。できるものなら」
「……クソっ!」
そうだよできないさ。女を傷つける男にだけはなりたくない。でもじゃあ……どうする。霊御さんを傷つけないまま止められるか? 無理だ。俺に……俺にできることは……!
「ぁああ……!?」
ない頭を必死に振り絞っていると、突然斉賀が怯えたような顔を見せた。俺の後ろで何が……。
「っ――!?」
顔だけ振り返ると、そこにいたのは霊御さんで変わらない。
……いや、変わってはいるな。
「ぇへへ……。ぇへへへへ……」
霊御さんは黒目を上げ、涎を垂れ流したまま自分の胸を押し絞るように揉んで悶えていた。
「ごめ……ごめんなしゃい……へへ。わらひ……人が考え、絶望している顔がたまらなくだいすきなんです……。しか、しかも! あの蓮司がってなると……ぅへへ……。きもちいいのがとまらないんでしゅぅぅぅぅ……!」
……もうエロいとも思えないな。こいつ、狂ってやがる……!
「あぁだめなのに……。まだれんじは先なのに、今日は龍華って決めてたのにぃ……! はぁ……はぁっ……。性的すぎますよれんじぃ……!」
「……あぁそうかよ。ところで霊御さんの推薦人って誰だっけ?」
「十文字3年生徒会長ですが……それを知ってどうするつもりです? また私が驚く作戦でもあるのですか? あるのならぜひお見せください。また私を……ぇへ、また私を、負かしてくださいっ!」
「作戦なんて呼べるほどたいしたもんじゃっぶねぇっ!」
思わず龍華のことも忘れてドン引きしていると、俺の後ろ……いや身体の正面から誰かが走ってきた。
それだけではない。飛び蹴りだ。誰かが飛び蹴りをしてきたんだ。慌てて霊御さんと斉賀を突き飛ばして避けたが、かなりギリギリだった。
それほど、本気だった。
「避けんのかよすげぇな……」
「誰だお前……や、赤道……さんだっけ……?」
ザ・ヤンキーみたいな金髪の男……確か龍華の推薦人の3年生徒会の人だ。
そんでたぶん、喧嘩が強い。
「いきなりあぶねぇな。顔狙いだったろ、霊御さんの」
「いやいやたまたま軌道上にいただけだ。俺の目的はお前だよ、外村。相当動けるだろ? ほんとは終わるまで待とうと思ってたけど、もう限界だ。ちょっとヤろうぜ」
はぁ……。喧嘩なんて慣れてないし好きでもないんだけどな……。得意ではあるが。
「あんた、ただ喧嘩したいタイプだろ。もう少し待っててくださいよ。今あんたの相手してる余裕は……」
「どいつもこいつも! 俺を馬鹿にしやがってぇぇぇぇっ!」
「おい馬鹿やめろっ!」
もう自暴自棄になっている斉賀が、霊御さんのことも忘れて赤道さんに跳びかかる。……保健室で済めばいいが……。
「失せろ三下」
「がっ!?」
赤道さんは斉賀のことを見もせず、顔に裏拳を浴びせた。何の躊躇もない一撃。斉賀が鼻から血を噴き出しその場に倒れ、ピクリとも動かなくなった。
「……頭が全ての学校じゃねぇのかよ」
「お前、喧嘩に頭使わねぇのか?」
「頭突きなんかするかよ痛い」
「そういう意味じゃねぇんだけどな」
……霊御さんを止めないといけないのに、どうしてこんなことになってんだか。
「口喧嘩は得意じゃないんで。さっさとかかってきてくださいよ先輩っ!」




