第2章 第21話 真実
「蓮司と組んでたって……冗談でしょ?」
「樹さんが一番わかってるんじゃないの? わたしが嘘をついてないって」
「だからあんたの心は読めないんだって……全部嘘くさくて」
美季が信じられないのも無理はない。あんな悪の女幹部みたいな顔して座ってる奴が、友情なんて大事にしているとは思えないだろう。
「まずわたしの勝利条件は二つだけだった。わたしと蓮司くんが当選して、斬華が落選すること。まぁ後者は斬華自身の目的が選挙自体にないことくらいわかってたから……問題は前者だった」
龍華が椅子から立ち上がり、ゆっくりと俺へと近づきながら説明する。
「わたしと蓮司くんが一緒にいたところでできることはない。いや、樹さんには敵わないって感じかな。どっかの誰かが言ってたけど、わたしと樹さんは似たタイプ。そして戦略面で、わたしは下位互換でしかない。だからわたしはわたしにできることをすることにした」
それが、霊御さん側につくこと。
「大変だったよ。選挙の詳細を聞いてからすぐ、永夢さんに用意してもらった連座さんの推薦を断って、赤道さんに頼み込んだ。3年派に潜り込んだ後はわたしの優秀さを示し、同時に蓮司くんの評価を下げに下げた。全ては桜花ちゃんに推してもらうために」
この辺りの話を俺は知らない。組んでいたといってもそこは龍華の領分だったからだ。
「桜花ちゃんに、『わたしを入れたい』、『蓮司くんは推さないと生徒会に入れない』と思わせることが全てだった。桜花ちゃんに推してもらえれば、たぶん下位にはならない。でも確実に入れるかどうかはまだわからない。だから蓮司くん側にも動いてもらいたかった。ねぇ、気づいてた? 桜花ちゃん」
俺の隣についた龍華は、胸を俺の腕に押し付ける。
「こうしている時のわたしは、嘘つきなんだよ。わたしと蓮司くんの間ではね」
入学式後、龍華は胸を押しつけ告白してきた。恋愛感情なんてない、打算的な嘘の告白。あれがあったからこそ、このメッセージが生まれた。
「でもこれやったの霊御さんの部屋行った時だけだろ? 俺途中まで全然気づかなかったぞ。Z組で直接言ってくれればよかったのに」
「駄目だよ。蓮司くん馬鹿だから普通に言っただけじゃ樹さんに説得されて上書きされちゃうでしょ? 危険な状況で不確実な伝え方をしないと蓮司くんを心から信じさせることなんてできないもん」
よくわかってんな……。まだ会って2ヶ月だってのに。
「3年派と2年派。両方から推してもらえれば、ほぼ間違いなく当選できる。そしてそれは正解だった。わたしは桜花ちゃんを抑え、1位に輝いた」
だから俺は美季たちには内緒で、龍華も入れて買収した。全ては龍華を当選させるために。
「……ちょっと待って。その作戦をあたしたちに知らせない意味あった? 蓮司、どゆこと?」
「いや下手に言って作戦漏れたら嫌だなって……」
「あたしのことそんなに信じられないんだ」
「しょうがないだろ。俺馬鹿だからどこまで言っていいかわかんなかったんだよ」
当然龍華のことも、美季のことも信じていた。ただ俺は俺のことが信じられなかっただけだ。
「だからそんな怒んないで?」
「別に怒ってないけど?」
どうだろう。俺なんかに騙されたせいか、美季の機嫌は明らかに悪い気がする。
「っていうわけなの。ごめんね樹さん、出田さん。買収に使ったポイントの半分はわたしが負担するよ」
「いや4分の1でいいよ」
「そういうわけにもいかないよ。だって蓮司くんは自分の分払えないでしょ? だったらさ、わたしが払わないとじゃない?」
「……やっぱあたしあんたのこと嫌いだわ」
その会話にどんな意味があったのかはわからないが、一層美季の機嫌が悪くなった気がする。なんか龍華が関わるとみんなピリピリするんだよな……。
「これでわかったよね? 桜花ちゃん」
龍華が霊御さんの隣に戻り、言う。
「わたしが1位で樹さんが3位。2位と4位は蓮司くんと出田さんで確定だろうね。残る枠は1つ。そこに桜花ちゃんが入る余裕はあるかな?」
問われたが霊御さんは何も言わず、ただ薄く笑いながら龍華を見つめる。そんな霊御さんの顎に、龍華の指がねっとりと絡みついた。
「都合が悪くなると何も言えなくなるタイプの人かな? 桜花ちゃんは。ちゃんと答えてよ」
霊御さんの顎を人差し指でクイと上げながら、龍華は。今までの不満をぶつけるかのように、煽る。
「ずっと馬鹿にするように笑ってたよね? 斬華のことも、わたしのことも。そんなわたしに負けてどんな気分なのかなぁ?」
「別に順位になど興味ありません。ですが5位というのは少し格好悪いですね。なので――」
「第2位!」
ステージ裏に、響く。
「第3学年生徒会会長、十文字聖刃推薦! 霊御桜花っ!」
「――この辺りにしておきましょうか」
霊御さんが……2位……!?
龍華も、美季も。全く想像していなかった。いや、想像できなかった位置に、霊御さんが君臨した。
「なん、で……!?」
「あら。いいですわね、その表情。とてもそそられます」
愕然とする龍華の指をはねのけ、その顎に優しく、力強く。霊御さんは指を当てた。
「そんな、そんなのって……!」
「ありえない、ですか。確かにその通りですね。私一人ではできることなどありませんでした」
「じゃ、なんで……!?」
「あなたと同じです。私にもお友だちがいる。それだけのことですよ」
そして、霊御さんは言う。
「たくさんのお友だちにお願いしました。私以外の人間には投票しないでくださいと。これなら確実に、他の方と差が開くでしょう?」
「そんな……の……メリットが……!」
「メリットがない? そうでしょうね。その方々は270万のペナルティを負いました。でも仕方がないのです」
俺はわかっていなかった。
前に美季が、霊御さんの言うお友だちとは奴隷のことだと言っていた。
その言葉の意味を、わかっていなかったんだ。
「メリットがなくても助ける。お友だちとはそういうものでしょう?」




