第2章 第19話 裏切り裏切り裏切り
「違う! あたしがりんりんを裏切るわけないっ! 信じてくれるよねっ!?」
「もちろん。朔夜は私の唯一の友だち。言いがかりはやめて」
「へぇ。そんな子を裏切るなんてひでぇな」
「だから! 裏切ってないって言ってるでしょっ!?」
全く状況を理解できていない俺たちを置き去りにし、話は続いていく。
「じゃあ渡牙が2年推薦なのに朔夜が3年推薦なのはどういうことだ?」
「それは……誘われた段階で選挙の内容を教えてもらってなかったから仕方ない」
「ならこれも知ってるか? 朔夜は3年派閥にいたんだよ。俺らがお前を誘う前な」
「……でも、朔夜は私を仲間に入れてくれた。あなたが何を言おうと、その事実は変わらない」
「ああ、罪悪感でな」
口では否定しながらも、渡牙さんの表情が徐々に沈んでいく。信じないというより、信じたくないという気持ちの方が強いのだろう。
「……いい加減にして。何を言われようが、りんりんは君の言うことなんて信じない」
「聞いたか? 何しても許されるから裏切ったんだってよ」
「朔夜はそんな子じゃない! 行こう、朔夜。もうここに用はない」
いつになく元気がない如月さんの手を、渡牙さんが引いていく。
「黒峰さん、が推薦人だってな」
だが斉賀は、決して2人を逃がさなかった。
「……さっき言ってたから知ってるのは当たり前」
「いいや? 俺たちはずっと前からそのことを知ってたぜ? 朔夜が信用を得るために明かしてたからな。初日だったっけ? ずいぶん早い裏切りだよな」
渡牙さんの足が止まり。如月さんと繋いでいる手が、震えた。
「うそ……だよね……?」
「も、もちろんう……!」
「事実ですよ。朔夜は初日の革新派会議の時にその事実を教えてくれました」
ずっと黙って話を聞いていた霊御さんがここで口を開く。
「私からの信用を得ようと渡牙さんを売ったのです。間違ってはいませんよ、その判断は。使えないお友だちより、優秀なお友だちの庇護下に入った方がいいですもんね。正しい選択です」
「違う! 違うんだよりんりんっ! あたしはりんりんのために……!」
「なにがちがうのか……教えて……?」
最終確認。そう言わんばかりの渡牙さんの瞳が、如月さんを捉える。
だが如月さんは、その答えを間違えた。
「だって……りんりんは受からないでしょ……? だから……あたしが……入らないとって……。だから、そう、仕方なかったんだよ!」
「っ」
渡牙さんの手が、如月さんの手を放す。そしてそのまま如月さんは、外へと走って行った。
「待ってりんりん! ちがうのっ! あたしはりんりんを……!」
そう言いながらも、如月さんは渡牙さんを追いかけようとはしない。
たぶん、自分でも気づいていないだろうけど、如月さんは。心のどこかで、渡牙さんを見下していたのだろう。
だから、答えを間違えた。あの答えは友だちに送るものではない。それくらい、俺にでもわかった。
いや、わかるようになってきたと言うべきか。だって、
「負け確だって。どうしようね、おねぇちゃん?」
「……まだ答えは出ていないわよ、龍華」
見下し見下されは、こんなにも近くで見ている。
「では結果発表に戻りましょう! 第9位! 第2学年生徒会庶務、連座太朗推薦! 翠川斬華っ!」
こっちの方に集中していたからか。その穂火さんの宣言に、一瞬心がキュッとなった。
「斬華が……9位……」
そんなのありえないと、ついさっきまでの俺なら言っていただろう。斉賀の言葉を聞くまでは思っていたのに。
「聞いた? 斬華。9位だって。偉そうなこと言ってた割には全然駄目じゃん!」
「そうね」
ソファーに座ったまま龍華が煽る。
「今まで何してたの? わたしを止めるんじゃなかったの!? ねぇ、斬華っ!」
「……そうね。情けないわ」
ただただ会話を、重ねる。
「これで借金9000万だよ!? 利子を入れたら約1億だよっ!? どうするのっ!?」
「そうね……。これから考えるわ」
その返事を、龍華の大きな舌打ちが遮る。
「ほんと……なにやってるんだよ……おねぇちゃん……」
「そうね……なに、やっていたのかしらね……私は……」
さっきまで騒がしかったステージ裏に、小さな二つの声だけが響いていた。




