第2章 第12話 裏切り
「ごめんな、急に呼び出して」
会議室のような清潔感のある霊御さんの部屋とは全く違い、大きなソファー、テレビ、ベッド等が置かれている生活感溢れる斉賀さんの部屋に訪れる。
「それは構わないけれど……裏切ろうとはどういうことですか?」
ここに呼ばれたのは私だけではない。というか私1人だったらこんな男の部屋になど絶対に行かない。
私、斉賀さん、斬華さん、如月さん。霊御さんと龍華さんを除いた保守派チーム4人が会議の後、斉賀さんの部屋に集まっていた。
「裏切ろうって言うのは変な言い方だったな。先に裏切ったのはあいつらなんだから」
ダブルベッドに腰かけ、斉賀さんは言う。
「桜花ちゃんについていっても先はない。そうは思わないか?」
「そうでしょうね。おそらく霊御さんは樹さん、出田さん、龍華さん、外村さんを推すつもりでしょう」
座るよう促されたので、私たち3人はソファーに座り斉賀さんに向き合う。
「派閥など所詮上級生の問題。自分たちには関係ない。霊御さんはそういうタイプです」
「俺もそう思う。たぶんあの集まりは俺らを好き勝手動かさないためのものだ」
……私も薄々感じていた。つまりこれは、
「この4人でチームを組もうという話ですね?」
「ああ。俺らを推さないって言っても、全くの0にするわけにもいかないはずだ。これからの関係もあるし、がんばったけど届かなかったよう演出すると思う。そこを叩く」
斉賀さんにしては珍しく真面目な口調で説明を続ける。
「結局のところこの選挙はどれだけ買収できるかだ。派閥なんかより、ポイントの方が大事だろうからな。だから俺らは俺らで買収を進める。桜花ちゃんたちが多少集めてくれる票に加え、俺らの買収を加えたらそれなりの数に届くと思うんだ」
……悪くない考えだと思う。だが、
「そもそもこの4人の合計ポイントは1000万を超える程度のはずです。私が150万ポイント、斉賀さんが700万ポイントほど。アプリで確認させていただきましたが、如月さんは300万ポイント。斬華さんに至ってはマイナス8000万。霊御さんと龍華さんは2人だけで合計6000万を超えていたはず。買収するにしてもその差はあまりにも大きい。到底勝てないのでは?」
「美季ちゃんを使おう。あっちはあっちで2人だけ。声をかけたら乗ってくるはずだ。そんで金だけ出してもらって後はポイ。ようするに桜花ちゃんと同じことをする」
……それはあまりに楽観的すぎるのでは……。そんな簡単に騙せるほど樹さんは甘くない。
「なにか別の方法を……」
「一つ! お願いしていいかな……?」
斉賀さんの考えを否定しようとすると、意を決したように如月さんが手を挙げた。
「今ここにいるのは4人……。1人足りないよね。だからその枠にりんりん……渡牙鎖を入れてほしいんだけど……だめかな?」
論外。渡牙さんは現状どのチームにも所属していない。私たちの作戦が上手くいったところで落選は確実。そんな人を加えるメリットがない。
「りんりんは子どもの頃から一緒の友だちなの。ずっと……ずっとあたしについてくることしかできない。頭良くないのにこんな学校に来ちゃうくらい、あたしがいないと駄目な子なの。それなのに裏切られたってなったら……あの子は……どうなっちゃうか……」
「なんだ、そんなことか」
斉賀さんが立ち上がり、端に座っている如月さんの横につく。そして肩に手を回し、
「とっても優しいんだね、朔夜ちゃんは」
普段よりも低い声でそう囁いた。
「もちろん歓迎するよ。友だちは大事だからね」
「ほんとっ!? ありがとうっ!」
「はは、ひさしぶりに君の笑顔が見れた」
「え? あたし笑ってなかった?」
「ずっと辛そうな顔してたよ。心を痛めてたんだろ? 大切な友だちを裏切ることになるかもしれないって。でももう大丈夫だ。君の笑顔はもう誰にも奪わせない」
「うれしい……ありがとう……」
くだらない。この男は女性になら誰でも同じことを言うはずだ。そうやって多くの女性を部屋に連れ込んできたんだ。本当に、汚らわしい。吐き気がする。
如月さんも如月さんだ。この集まりができるまで渡牙さんを裏切るつもりだったくせに。なんて都合のいい悲劇のヒロインなのだろう。
「これで決まったな。俺たち5人で生徒会選挙を勝ち抜こう」
「おうっ!」
「……そうね」
この男は最低だが、口が回る。霊御さんや龍華さんほどではないが、私よりも上。私が何を言ったところで無駄だろう。それに、このチームに頼らないと私がZ組落ちするのは事実だ。だったらもう、仕方ない。
「……斬華さんはどうするのですか?」
「私も乗るわ。龍華を止めるためなら何だってする」
この方も強情ですね……あれほど嫌われているというのに。何が彼女をそこまでかきたてるのだろうか。
「いいか? 俺たち5人は絶対に裏切らない。だから桜花ちゃんみたいな独裁はしない。買収も分担してやろう。俺と雅ちゃん、朔夜ちゃんと渡牙さんのチームだ。斬華ちゃんは悪いけど……」
「ええ。借金王がいたら迷惑だもんね」
「物分かりが良くて助かるよ」
斉賀さんと2人……冗談じゃない。この不純な男と一緒に行動するなんて鳥肌が立つ。個人行動してもらおう。
「桜花ちゃんについていくフリをしながら俺たちは独自に動く。くれぐれも内密に頼むぞ。バレたら全部おしまいだからな」
私たち5人は現在できている3チームの中で最弱。だが一番数が多い。その唯一のメリットに賭けるしかない。
「ところで朔夜ちゃん、この後空いてる? ちょっとしたディナーでも……」
「……最低」
このチームに一抹の不安を抱えつつも、私はまたもついていくことしかできなかった。




