第2章 第9話 仲間割れ
〇蓮司
生徒会選挙が始まってから3日が過ぎた。だが特に何も起こらなかった。
結局集まったのは初日だけだったし、霊御さんに呼ばれたかと思ったら2人でお茶をしただけで終わり。イメージだとチラシとか配ったり演説したりするものだと思ってたけど、そうでもないみたいだ。
たぶんだけど、腹の探り合い。霊御さんや美季が、相手の出方を窺っているのだと思う。知らんけど。
「れーんーじーくんっ」
そんな4日目の授業終わり。よく寝たと背中を伸ばしていると、龍華がニコニコ笑って話しかけてきた。少し後ろには斬華もいる。
「生徒会選挙の方はどうかな?」
「いやなんもやってないよ? 龍華も知ってるだろ?」
「そうだね。でもさ、樹さんや出田さんはわたしたちに内緒で何かやってそうじゃない?」
「おおお俺は何も知らないよ!?」
危ない危ない。龍華、斬華、如月さんは相手側の可能性もあるらしい。美季の考えが当たっているのなら、下手な情報は流せない。でもさすが俺、上手く誤魔化すことができた。
「ふーん。そっかー……」
俺の見事な誤魔化しに騙された龍華は、より深く笑って言う。
「じゃあさ、一度みんなで話し合ってみない? 2年生派の7人でさ」
龍華の提案を受け、俺は美季に連絡。そして1時間後に美季の部屋に集まることになった。
「霊御の部屋と違って汚くて悪いね」
美季の部屋……と言っても普段は使っていないのだろう。ただ座布団と木製のテーブルが置いてあるだけの部屋に俺、龍華、斬華、美季、出田さん、如月さん、渡牙さんの7人が集まる。
「それじゃあ遅くなっちゃったけど2年派会議をはじめよっか」
「そうだね、ずいぶん遅い。わたしが言わなきゃずっとやらなかったんじゃないかな?」
美季の初めの挨拶に、龍華が食ってかかる。
「……ごめんね、こっちも色々忙しくてさ」
「へぇ、賭場で遊ぶ時間はあるのに?」
「資金集めだよ。必要なことでしょ?」
いつの間に仲が悪くなったのだろうか。やけに龍華と美季の仲が険悪だ。
「まぁいいや」
短くそう言った龍華は立ち上がり、
「結論から言うよ。樹美季さん、出田沙耶さん。あなたたち2人が裏切り者だよね?」
そう、突きつけた。
「……なるほど、そうきたか」
唐突にそんなことを言われたのに、美季はやけに落ち着いている。出田さんも深くため息をつくだけで、焦っている様子はない。
「じゃあこっちも言わせてもらうけどさ、あたしは龍華さんと如月さんの2人が裏切り者だと思ってる」
「そんなわけないっ!」
そう叫んだのは、今までずっと如月さんの後ろで姿を隠していた渡牙さんだ。やはりまだ如月さんの側にはいるが、大きな瞳をキッと狭めて美季を睨みつけている。
「朔夜が私を裏切るわけがない。謝って!」
「……あーそういう感じ……」
謝罪を要求されているのに美季は一切気にも留めず、手に顎を乗せて何かを考える様子を見せる。
「じゃあとりあえず聞かせてもらおうか。あたしたちが裏切っていると思った理由を」
「単純だよ。A組の5人で固まるのがそっちにとってはベストなチーム分けだった。それをしないってことは……」
「あたしが霊御を嫌ってることは知ってるよね?」
「どうだか。それも作戦かもね」
「はぁ……。それ悪手なんだけど、この状況だとどうにもねぇ……」
話の内容はわからないが、美季が押されているように感じる。もしかして本当に美季たちが裏切り者なのか……?
「朔夜も何か言って。この人、朔夜を裏切り者にしようとした。私許せない」
「え、そうだなぁ……」
渡牙さんに促され、如月さんは少し困った様子を見せながらも口を開く。
「あたし、あんま裏切り者って表現したくないなぁ……。ほら、これも勝負だし? 騙すのも仕方ないっていうか……」
「それもう答え合わせでしょ。なんで言い訳作ってるの?」
「だから朔夜は裏切ってない」
「そうだねうんそうだそうだー……めんどくさ」
渡牙さんと話すのは無駄だと思ったのか、美季は相手を俺に変える。
「蓮司はどう思う? あたしと龍華さん、どっちを信じる?」
「俺? やー俺は……龍華の方が平然と裏切りそうだなぁとは思ってるよ」
「ひどいよ蓮司くん……わたしのこと信じてくれないんだ」
「いや信じてるよ? でも龍華は裏切れるだろ?」
「わたしは蓮司くんだけは裏切らないっ!」
「でもみんなのことは裏切れるだろ。そもそも美季や出田さんがスパイなんてする必要がない。A組で固まれてるなら、ポイントで圧倒的に負けてる俺たちはどうやっても勝てないんだから」
「意外とわかってんじゃん蓮司」
「だろ!? 俺すごいんだよっ!」
美季からお褒めの言葉をいただいた。うれしい。
「蓮司くん……」
だが尚も諦めてない龍華は。
「だまされないでっ」
俺の肩を掴み、本気で心配そうな顔で見つめてきた。
「もしかして樹さんにこう言われなかった? わたしと斬華と如月さんが裏切り者かもって」
「! い、いわわわわ……!」
「どうしてそんなことがわかるのかな?」
「それは噓発見器能力で……」
「ううん、普通に考えて。樹さんと出田さんが裏切り者なら、わかるでしょ? 誰が裏切り者かを」
「た、確かに……!」
「それに樹さん、霊御さんだけじゃなくて蓮司くんのことも恨んでるはずだよ」
「どういうこと……?」
「だって樹さんは、蓮司くんに負けたせいであんなかわいい女の子っぽい下着を晒すことになった。それに実際、殺すって言ってたはずだよ? それならもう、答えは一つしかないよね?」
「美季! お前が犯人だぁっ!」
「ばかぁぁぁぁ……」
美季ががっくりと肩を下ろす。観念したのか? 観念しちゃったのか!?
「美季ちゃんどうしよう……。さや、せっかく作ったゲームスペース壊したくないよぉ……」
「わかってる……。やっぱ手札弱かったもんなぁ……。先手取られるとあたしと沙耶じゃどうにも……。だから蓮司取ったんだけど……。ジョーカー取られるとは思わなかったな……」
「なにぶつぶつ言ってやがる! 諦めて投降しろ! ん? なんで警察の人登校しろなんて言うんだ?」
「まぁいっか……まだ序盤戦。どうにでもなる」
お! ついに美季が顔を上げて……!
「斬華さん、如月さん。霊御の奴に言っといてよ」
と思ったらなぜか斬華たちに変なことを言い出した。
「なに焦ってんの? 序盤は様子見が鉄則。相手の手札もわからないのに動いたら危ないよ、って」
結局美季はその後何も言わず、解散することになった。




