第2章 第7話 3年派会議
〇雅
私が何とかしなければならない。その意識は入学時から強まるばかりだ。
入学直後、私は高揚した。頭が全ての学校で、一番のクラスに入ることができたからだ。そして何より私の実力が評価された。その事実がとにかく誇らしかった。
だがしばらくし、絶望した。クラスメイトの質の悪さに。
制服もまともに着ず、賭場に入り浸る不良。授業中でも普通にゲームに興じ、ずっと部屋に閉じこもっているオタク。毎日別の女性を部屋に招き、遊び回っている不誠実な男。そして何を考えているのかわからない、恐ろしい女性。
勉強はできるが、不潔。こんな人たちと一緒に学ぶことなんてできない。だから私が何とかしなければならない。そう思っていた4月。私は自分の不甲斐なさに腹が立った。
クラス替えゲーム。私は何一つとしてクラスに貢献できなかった。ただテストで手に入れたポイントを保持するよう努めることで精一杯だった。
私が守りに入っている間に樹さんはギャンブルで1億ポイントを稼ぎ、出田さんはゲーム大会で7000万ほど。他の2人もかなりの額を稼ぐことに成功していた。
私は完全にお荷物だった。だが同時に、こうも思った。
私がしっかりしないと、いつか大きな失敗をすることになるだろう、と。
4人とも素晴らしい才能の持ち主だ。でも必勝ではない。事実あの樹さんもZ組のゴミに負けてしまった。
無謀すぎるんだ。挑戦的すぎるんだ。それでは駄目なんだ。
私が、何とかしなければならないんだ。
「……霊御さん。本当にこれでいいのですか?」
10人での不毛な会議を終え、そのまま霊御さんの部屋に残った私、霊御さん、斉賀さんの3人。この3人はほとんど確定で3年生派閥。だが、
「組むのならA組5人で固まるべきでした。保守派の方が数が多く、最も勝算が高いこのチーム分けが最良のはずです。それにあの2人なら1000万の借金やZ組への降格もそこまで気にならないでしょう。何よりA組の仲間を裏切らなくて済む。私たちの選択はこれしかなかったはずです」
「それでは沙耶はともかく美季が納得しないでしょう」
「それを何とかするのがあなたでしょう?」
この5人で最も能力が低いのは、確実に霊御さんだ。樹さんには他人の感情を読む力が。出田さんには卓越したデジタル技能が。斉賀さんにはコミュニケーション能力が。私には頭脳がある。
だが霊御さんには、何もない。勝てると思った勝負に勝てるというのは、言ってしまえば当たり前のことだ。少しでも負ける可能性があるのなら逃げればいいのだから。
だから霊御さんにあるのは、強いて言うならカリスマ性。この人についていけばうまくいくという、不確実な何かを思わせる雰囲気しか持っていない。
「私があなたの判断に従っているのは、あなたが一番リーダーに向いていると思っているからです。決してあなたの全てに服従しているわけではないということはお忘れなく」
「当然わかっていますよ、雅。あぁそれにしても楽しみです。早く蓮司とお友だちになりたいですねぇ……」
やはりわかっていない。私が一番不満を持っているのが、それだというのに。
「あんなZ組のゴミのどこがいいのだか……」
「まぁ落ち着きなよ雅ちゃん。桜花ちゃんについてけば全部上手くいくんだから」
この男性も全くわかっていない……。思考停止、他力本願。それで負けたらどうするつもりなのだろうか。
「では確かめさせてください。現状どちらが有利だと思っていますか?」
「あちらの方が有利でしょう。やはり革新派の方が数が多いでしょうし、ポイントもあちらの方が多い。真っ向勝負、飛び道具。どちらでも勝ち目がありません」
「それがわかっていながらなぜ……!」
「安心してください。それでも勝つのは私です」
私……か……。やはり霊御さんは、「私たち」とは決して言わない。この人についていくことは正解なのか、あるいは……。
「まずあちらにリーダー気質の人間はいません。美季はあくまで優秀な参謀タイプ。問題を打開する劇的な一手を打つことはできません。きっと今ごろ仲のいい蓮司、沙耶と一緒に話していますよ。とりあえずは静観していようと。ふふ、なんだかんだコミュニケーション能力が低いですからね、美季は」
「……それはあまりに悠長すぎるでしょう。樹さんがそんな誤った判断をするとは思えませんが」
「誤った? それこそ誤りです。まず相手の出方を窺うのは正解ですよ。できるだけ失敗の目を潰すのは参謀として何より大事ですから。だからこそ駄目なのです。リーダーの仕事は必ず勝つこと。勝つ確率が1%でも残っていれば必ず勝負に挑まなければいけないのです。ですが美季が勝負に行くのは51%まで。負ける確率の方が高い場合、絶対に美季は勝負に行けない。そこが美季のいいところであり、悪いところです」
……言いたいことはわかった。
「でも他は……」
「沙耶は仕事人ですし、朔夜は逃げ腰。翠川さんと渡牙さんは話になりません。龍華も参謀タイプでしょうね。強いて言うなら……ふふ、やはり蓮司でしょうか。蓮司なら勝つ確率が0%でも勝負に行ける。ふふふふふ。楽しいですねぇ……お友だちになりたいですねぇ……」
……どうしてこの女性は、会ったばかりの人間のことがわかるのだろうか。そういうところが、本当に、恐ろしい。
「雅、ありがとうございました。良い時間潰しができました」
「時間潰し? 私との話が? それは……」
突如、部屋の扉が叩かれる。誰かが来た……?
「革新派に手を挙げた7人の内、怪しそうな人間を3人リストアップし呼び出しました。美季なら既に当たりをつけているはずでしょうが、私にはこれが限界です。さぁ、入ってきてください」
霊御さんの呼びかけに応じ、部屋の扉が開かれる。
「お待ちしておりました。龍華、朔夜、翠川さん」
翠川斬華、龍華さん。如月朔夜さん。
この3人の内2人が、我々の味方……。




