第2章 第4話 所信表明 後編
「……以上になります。ご清聴ありがとうございました」
杭座さんの40分以上にも及ぶ演説がついに終わり、斬華の出番が訪れる。
「1年Z組……翠川斬華です」
まずそう自己紹介した斬華。声が震えている。顔には出さなかったが緊張しているんだ。
「安心してください、私は短く終わらせます」
その一言に会場のあちこちからクスリと微かな笑い声が聞こえてきた。掴みは上々と言ったところか。
「みなさん、ノブレス・オブリージュという言葉はご存知でしょうか。高貴なる者には大いなる責任が伴うという意味です。私はそれを座右の銘としています」
会場の空気が和らいだからか、斬華の声からも迷いが消える。
「1年。しかもZ組が生意気だと思うでしょう。その通りです。私は現在上にはいない。だからこそです。当選した暁には必ずその責任を果たし、みなさんのために身を粉にすると約束しましょう」
笑い声はもう聞こえない。会場にはただ斬華の声だけが響いている。
「私の言葉を信じていただけた方は、ぜひ清きご一票を投じていただければと思います。ではありがとうございました」
頭を深く下げ、斬華が戻ってくる。
「すごいな! 中々よかったんじゃないか? 半分以上何言ってんのかわかんなかったけど!」
「当然よ。お父様のお教えだもの。それにこれが何一つ飾りない私の本心。心に響かないはずないわ」
「へー、じゃあわたしに勝ち目はないや。似たようなことは言えても全部嘘だもん」
斬華と龍華がすれ違う。
「この学校の人が綺麗事に心を打たれ、演説だけで投票先を決めるような素直な人たちだったらね」
意味深な言葉を吐き、龍華がマイクを持つ。
「私の姉、翠川斬華はギャンブルで8000万の借金を負いました」
そして初っ端、とんでもない事実を口にした。
「斬華がなぜこんな多額の借金を負ったのか。そしてなぜ借金を負った後生徒会を志したのかはわかりません」
「性格わる……」
一連の流れを知っている美季が引いた顔でぽつりと漏らす。ロジックはわからないが俺も同じことを思った。
「ですが私の大切な姉です。間違っているかもしれないけど、私はおねぇちゃんを助けたい」
龍華は、全力で斬華を蹴落とそうとしている。
「私が生徒会に入ったら借金の利子利息制度を廃止します」
「え? そんなことできんの?」
「できるわけない。でも言うだけならタダだよ。入っちゃえばこっちのもんだもん」
美季の解説を聞き、俺は実感する。たぶん龍華は、本当に斬華より頭がいい。
「そして上位クラスに入るポイントを少なく。下位クラスに入るポイントを多くなるよう調整していきます」
たぶんだが、桂来学園は金持ちより貧乏な人の方が多い。特に龍華の策略により、ギャンブルが流行ってしまった1年生は。
「今の生徒会のほとんどはA組で構成されています。金持ちがさらに金を儲けるための活動をしているのです」
「ほんと?」
「どうだろ。でもさすがに生徒会にもそこまでの権限はないと思うよ。まぁあたしが知らないように、他の人も生徒会の実態なんて知らないと思うけど」
聞けば聞くほど気づかされる。龍華の狡さ。そして強さを。
「今に不安がある方。ぜひわたしに投票してください。必ずこの桂来学園を変えると約束します。以上、1年Z組、翠川龍華でした」
そしてわざわざ最後に自分の名前を述べ、龍華が帰ってくる。
「ごめんね斬華。わたしだって本当はこんなひどいことしたく……」
「構わないわ。自分が他人より優れていると勘違いし、他人をコントロールできると驕っている馬鹿な子ども。それがあなたでしょ?」
「……その口の上手さを本番で発揮できない雑魚が何を言っても……」
「あら? 敗北宣言?」
「……調子乗ってんじゃねぇぞ」
「聞いた? 外村くん。これが龍華の本性よ」
俺に振らないでよ怖いから……。
「ていうか俺、なに言えばいいかな!? なにも考えてないんだけどっ!」
「とりあえずかっこいいこと自信満々に言っとけばいいんじゃない? 焦ってボロボロになるのが一番駄目だよ」
「よっしわかったっ!」
美季にアドバイスをもらい、10番目。トリを務めることになった俺がマイクの前に立ち、叫ぶ。
「1年Z組、外村蓮司ですっ! 俺が生徒会に入ったら世界を平和にしますっ!」
静まり返るホールに、永夢さんの笑い声だけが響いた。




