第2章 第2話 所信表明 前編
「……以上で私の所信表明とさせていただきます。ありがとうございました」
霊御さんが深々と頭を下げ、ゆっくりと舞台裏に戻ってくる。今日は生徒会選挙公示日。入学式で使ったホールで1万人以上の生徒に向け、簡単な自己紹介をしなければいけないらしい。
「お次はどなたですか?」
「龍華、行ったら?」
「あんな完璧な挨拶の後行けないって……」
舞台裏に集まった10人の生徒。この中から半分がこの選挙に当選する。俺は別に受かっても受からなくてもいいやってスタンスだったが、落選したら1000万ポイントとなると慎重に行動せざるを得ない。つまり龍華任せだ。
「じゃあ次あたし行っていー?」
誰もが霊御さんの後を嫌がっていると、制服を着崩し、髪を金に染めた派手な女子生徒が踊るようにステージに出ていった。
「はいどうもーっ。あ、なんか漫才みたいな入りになっちゃった! 1年B組、如月朔夜です! この学校の生徒みんなと友だちになることが目標です! みんなで仲良くできる学校にしたいと思ってるので、応援よろしくねーっ」
元気いっぱい、大きな声で挨拶した如月さん。
「なんかいい人そうだな」
「どうだろ。友だちってワードに拒否感が……」
美季が青ざめた顔で身体を震わせる。その奥で霊御さんがにっこり笑っているのがまた怖かった。
「はい次りんりんっ」
「わかった」
如月さんにりんりんと呼ばれた金髪の子は小さくうなずき、静かにマイクの前に歩いていき、
「1年V組渡牙鎖」
自分のクラスと名前だけ告げると、さっさと帰ってきた。
……さっき金髪と思ったのは間違いかもしれない。美季や如月さんのような、染めた偽物の金とはまるで違う。
渡牙さんを純金とするなら、美季たちは合金。非常に物静かだが、さっきの元気な如月さんよりも激しい印象を残していった。あとおっぱいが大きかった。ここが一番大事なとこだ。
「なんか失礼なこと考えたでしょ」
渡牙さんが戻ってくると、美季が自分のくすんだ金色の髪をくるくると指で弄りながら見てきた。
「大丈夫だよ。俺は超合金の方が好きだから」
「なんのことかわからない、って言いたいところだけど、少しわかったかな」
美季は自分のトレードマークであるキャップを被り、渡牙さんと代わるように前に出ていく。
「でもあたしには、薄汚れたメダルの色が良く似合う」
制服の全てを自分の色で隠した美季が、マイクを指で弾く。その瞬間ホールにハウリングの音が響き渡り、
「あたしのこと、写真で見たことがある人も多いんじゃないでしょうか」
全員の視線が、美季に向いた。
「そうです。あたしは霊御桜花さんにギャンブルに負け、服を剥ぎ取られました」
美季の下着姿の写真は、たぶんほとんどの生徒の元に渡っている。俺にも何人かから写真が送られてきたし、全て保存してロックしてある。
「ですがこれが問題になることはありませんでした。なぜならここは頭が全ての桂来学園。倫理観の欠片もないし、必要もない」
負ければ全てを失う。Z組の酷い扱いは、まさにそれを表している。
「あたしはそんな桂来学園を変えていきたいと思っています。あたしのためじゃない。またあたしのような子を生まないために」
そう語る美季の表情は俺からは見えない。
「以上、1年A組樹美季でした」
でも見なくてもわかった。
「あんたの株下げてやったわっ! どう!? 悔しいでしょっ!」
霊御さんへの怒りが剝き出しになっていることは。
「ええ、大変困りました。確かに美季は被害者。その手段が一番人の心を揺さぶるでしょう」
「転んでも無料じゃ起きない。それがギャンブルなんだよ!」
ステージ裏に戻り、激しく煽る美季。だが当の霊御さんは涼しい顔で笑っている。
「これで女子票はあんたから手を引き、あたしに流れる。全校生徒の半分を失えば絶対に当選は無理。あんたの負けは決定だよっ!」
「ふふ。選挙とはそう単純なものではありません。それくらい美季もわかっているでしょう?」
「……結果が楽しみだね」
意味はわからなかったが、どうやら美季は口論で負けたようだ。捨て台詞を吐き、俺のところにやってくる。
「あの挨拶駄目だったんだ。俺よかったと思ったけど」
「実際効果はあると思うよ、多少はね。でもこんな自己紹介、選挙にとって意味はない。議員の演説なんて聞いたことある?」
「授業くらい聞いたことないな」
「……それはどっち? すごい聞いているとも捉えられるけど」
当然聞いていない方だ。美季もそれはわかっているようで、苦々しく吐き捨てる。
「投票する方も、される方も。大事なのは組織だよ」




