第1章 第40話 参加者
「まぁ」
俺が出した手を見て、霊御さんが小さく声を上げる。
霊御さんが出したのは、宣言通りのパー。
そして俺は裏切りのチョキ。
つまりこの勝負は俺の勝ちだ。
「っし」
「ずいぶん喜びの色が薄いですね。じゃんけんとはいえ、大勢の前でトップのA組に勝ったのですよ?」
小さくガッツポーズをとった俺に、それこそ悔しさの色が薄い霊御さんが訊ねてくる。
「まぁ俺の力じゃないからな」
「と言うとなんでしょうか。運の力。思考などなく、たまたま勝っただけなのでしょうか。いえいえ結構です。少し興が削がれた程度。蓮司の力はまた今度見せてもらいましょう」
霊御さんが少し寂しそうな顔を見せるが、それにはまだ早い。
「俺の力じゃないけど、運の力でもない。言っただろ? 負ける気はしないって。何も考えてなかったけど、だからこそ俺は勝てたんだ」
「……ほう」
霊御さんの顔に、笑みが戻る。
「では聞かせていただきましょうか。私に勝てた理由を」
「悪いが俺じゃ説明できない。知らないからな。だから美季、頼んだ」
「……美季?」
俺の言葉を聞き、霊御さんは振り返る。
「……なるほど」
そうしたら当然、気づく。
胸を隠している美季の手が、確かなチョキを示していることに。
「事前に宣言した手が本当か見抜く? あたしの一番の得意分野じゃん」
そう。俺はカンニングをしていた。だから実質、美季対霊御さんの戦い。それに美季が勝利したんだ。
「あんたは最初、蓮司がどんな手を出すか楽しみって言った。それは確実に真実だった。じゃあ宣言から変えないよ。この勝負の目的は勝つことじゃなく、蓮司を知ることだから」
美季が力強く立ち上がり、霊御さんに詰め寄る。下着姿だということなんてまるで気にも留めずに。
「たった一回の敗北であたしの心を折れたと思った? 甘いんだよ、ギャンブルなんて負けて当然。負けた分より次大きく勝てばいい。このツケは高くつくよ、霊御。次はあんたを公衆の面前で丸裸にしてやる。服なんて一枚も残さないから」
その殺気は霊御さんのそれと同等。いや、それ以上の迫力を放っている。
ついさっきまで、本当に美季の心は折れかけていた。でもただの一手で、全てが変わった。まるでギャンブルのようだ。俺にはよくわからない。
「……その策を。最初に思いついたのはどちらですか?」
美季の宣戦布告を受け、霊御さんは顔をうつむかせながら訊ねる。
「それは蓮司。じっとあたしのことを見てきてたから察せたよ。今回は蓮司に手柄を譲ってあげる」
「え? 俺ただ下着見てただけなんだけど。そしたらピースしてきたから何事かと思って……直前で気づけた」
「やっぱ全部あたしのおかげだわ」
「でもあれだぞ? ほんとに最初から美季に頼るつもりでいた。でも下着見てたらそんなこと忘れたんだ」
「なら半々ね」
「じゃあそれで」
とは言ったもののやっぱり美季のおかげというところがおおき……
「……い?」
え? なに!? なんか急に霊御さんがスカートの中に手を突っ込んで……!
「さしあげます。勝ったのに褒美もなしとは味気ないでしょう?」
そして脱いだばかりのパンツを、俺に手渡してきた。
「くろっ!」
「いやそこ? なんでこんなことしたわ……!?」
霊御さんに静かにツッコもうとした美季の声が、止まる。
「ぇへ……ぇへへ……ぇへへへへ……!」
当の霊御さんの頬が、鮮やかに紅潮していたからだ。
その意味は、決して羞恥を表すものではない。
ただ激しく、興奮しているんだ。
「美季……先ほどの推理は少し外れています。私、本気で勝つつもりだったんですよ。勝つと言いましたから。蓮司ならグーを出すと思ったから、自信を持ってパーを出したんです」
「……それは残念だったね。あんたこの学校に来てから負けてこなかったのに。こんなのあたしの介入がなくても半分は運ゲーだったでしょ」
「またハズレですね。私は生まれてこの方、負けたことがなかった。勝てると思った勝負には必ず勝ってきたんです」
「……マジなんだ」
興奮を抑えるように語る霊御さんの言葉が真実かどうかは、美季でなくてもわかる。
本当に、負けたことがなかったんだ。俺に負けるまでは。
「蓮司、ごめんなさい。最初はただの運負けだと思ってしまいました。それでもよかったのですが……人生初敗北が運になってしまったと少しがっかりしてしまったのです」
「でもちがった」。短くそう言うと、霊御さんは。
「すばらしいっ! ずっとこの時を待っていましたっ! 誰かが私を負かすのをっ!」
狂喜し、乱舞した。
「あぁっ……! なんと魅力的なのでしょうか……! 桂来学園……入ってよかったぁ……」
その喜びの舞は留まることを知らない。
「こうなると一層生徒会が楽しみになってきました……。蓮司は副会長、美季はやはり会計でしょうか……」
「妄想が過ぎるな……」
「ナチュラルに会長になってるつもりだよ。絶対思い通りにさせない」
霊御さんの発狂に戸惑っていると、不意に。彼女の興味がステージの外に向いた。
「となるとあなたは……どの役職に就くのでしょうか」
「会長。って言ったら怒る?」
「構いませんよ。妄想は自由ですから」
「そう? よかった」
この状態の霊御さんと平然と話しながら、少女は観客の中から飛び出しステージへと上がる。
「ごめんね、蓮司くん。利用させてもらったよ」
そして霊御さんの隣に並ぶと。
「これでわたしも、生徒会に入る資格を手に入れられた」
翠川龍華は、満足気に笑った。




