第1章 第37話 生まれつきの勝者
「蓮司、ぜひ私とお友だちになってくださる?」
1年A組、霊御桜花。
何を考えているかわからない。俺と友達になることで何かいいことでもあるのだろうか。
でも雰囲気とはまるで真逆のふわふわした手に包まれたら……。
「はいっ! 喜んでっ!」
「気をつけて蓮司。そいつの言う友だちって奴隷のことだから」
どれい……奴隷……。
「奴隷っ!?」
「美季ったら失礼ですね。そんなつもりはありませんよ」
思わず手を離し後ろに下がった俺と、それでも詰め寄ってくる霊御さん。今度は手どころか俺の右腕に、品定めするように腕を這わせてくる。
「私は自分にはない才能を持っている方を尊敬しているだけです。私には予想外な手を打つ力はないのです。どこまで行っても必ず勝てる手しか選べない。だから先程のババ抜きはとても魅力的でした。その力、ぜひとも私に貸してくださらない? きっと後悔させませんわ」
「ちょっと……外村くんから離れて……!」
不穏な空気を感じたからだろう。斬華が引き剥がそうと霊御さんに触れようとしたその瞬間、
「翠川さん。あなたには興味がないのです」
「っ――!」
敵意。という言葉では収まらないほどの、殺気。禍々しい視線を浴び、斬華は尻もちをついてしまう。
「霊御……あんたの狙いはあたしでしょ……? こんなところにいるんだから……」
「さすがは美季。そういう人の真意を見抜く力、とても魅力的です」
「名前、呼ばないでくれる? あたしあんたの友だちになる気ないから」
「それは困りましたね……。私はあなたとお友だちになりたいだけなのに」
俺を助けるためか、あるいは自分のためか。美季が引き寄せてくれたおかげで霊御さんが離れてくれた。
「そうそう。先ほど赤道3年庶務にお会いしてきました」
「う……そ……でしょ……!?」
それは特段変わったことのない、ただの報告に聞こえた。だが美季にはそうではなかったようで、先ほどまで辛うじて見せていた強気な態度が一瞬で消え失せる。
「あたし……あんたに話してない……!」
「ふふ。あなたが負けるという話をしたら、生徒会選挙への推薦を取りやめるとのことでした。一度の負けでひどいお話ですね」
「じょ……だんでしょ……? だって、あたしが負けたの5分前……」
「ただそろそろ負けるかなと思っただけです。ずいぶん荒稼ぎしていたようですから。ですが相手がZ組というのは驚きました」
……ん? ちょっと待て……。
「美季が負けるって、わかってたのか……?」
「そうなんですよ、蓮司。どうです? 私とお友だちになりたいと思い始めましたか?」
「すご……エスパーじゃん……!」
「エスパーだなんてそんな。ただ戦局が読めるだけですよ」
やばい……。やばすぎてなに言ってるのかわからない……。
「さて美季、本題と行きましょうか」
俺へと笑顔を向けていた霊御さんが顔を美季の方へと戻す。
「このままだと美季は生徒会選挙に出られません。なので私と勝負しましょう。安心してください、勝っても負けても推薦人は見繕います。美季は生徒会に入るべき器ですから」
「……冗談。あたしはあんたに借りを作るほど生徒会に興味があるわけじゃない。A組にもね。情けないとこ見せちゃったし、落としたいなら落とせば?」
「私にそんな権利ありませんし、あなたは生徒会にもA組にも必要な人材です。私がトップに立つのですから私を補完できる力を持つあなたが必要なのは当然でしょう?」
「もう当選した気なんだね。しかもナチュラル上から目線。そういうのが嫌いなんだよ。とにかくあたし生徒会なんてそこまで興味ないから」
「そうでしょうね。ですが美季はプライドが高いでしょう? いえいえ褒めてるんですよ? 自尊心が高いのは決して悪いことではありません」
「……そうだね。あたしは誰かの下につくなんて嫌だ。だから生徒会には入るよ。あんたの力は借りずにね」
「そこでです。大変いい条件を持ってきました」
テーブルに広がるトランプを一つに纏め、言う。
「私とチップ10枚のポーカーで勝負しましょう。美季が勝てば、私は所持ポイント3900万を全て渡した上で退学します。ついでに全裸にでもなりましょう」
「全裸っ!?」
「引っかかるとこそこ?」
立ち上がった斬華が静かにツッコんでくる。まぁ確かに退学の方があれだな……。すごい、自信だ。
「……あたしが負けたら?」
「特にありません。あえて加えるなら、服を一枚脱いでいただきましょうか」
……それはめちゃくちゃいい条件じゃないか? 負けてもポイントを払わなくていいし、勝ったらかなりのポイントを貰える上に、嫌いっぽい霊御さんを退学にできる。しかも美季は、
「……むかつく。あたしにギャンブルで勝てると思ってるんだ。しかもギャンブルの王道で」
「普段なら当然適うはずもないでしょう。ですが私が行動し、負けたことがないことも美季は知っているはず。格下だと思っていた相手に負け、自信を喪失している今のあなたになら私でも勝負になると思ったのです」
「……つまり、あたしの心を折るいい機会だと?」
「ええ。お友だちになるいい機会に訂正したいところですが。受けてくださいますね?」
「……ルールは?」
「テキサスホールデム」
「……オーケー」
短くルール確認をし、美季は席につく。それを見た霊御さんは静かに微笑み、俺に目を向けた。
「お友だちになるいい機会というのは蓮司にも同じです。そこでご覧になってください、私の実力を」
そして席につき、霊御さんは。
「私には予想外な手を打つことも、他人の真偽を見抜くこともできません。ただ戦局を読み、勝負に勝つことだけ。私のお友だちになってくださるのなら、約束しましょう。必ず勝者へと導くと」
ただただ楽しそうに、笑みを深めた。




