第1章 第32話 開戦! 5000万のババ抜き!
「カードは行き渡りましたね? それでははじめてくださいっ!」
ババ抜き。ジョーカーではなくクイーンを使うが、オールドメイドとも呼ばれる。
それは相手の心を読み、どのカードを取るか。どのカードを取らせるかを続けるゲームだ。素人は子どもが遊ぶ運ゲーのように思っているだろうが、そこには確かな思考力が必要になってくる。
一般的には4、5人で行うゲームだけど、今回は1対1。間違いなく短期決戦だ。
そもそもこの初めの同数字を弾く作業で最大27枚に絞られる。2人で分けると13枚以下。そこから平均半分削られると、6、7枚。ゲーム自体はあっさりと終わる。
だからこの同数字分けが最も長時間。ここで蓮司の思考を読む。
「どうしたの? 早く同数字のカード捨てなよ」
馬鹿なりの浅知恵か、永夢さんに仕込まれたのかはわからないが、カードを受け取って困った様子を見せる蓮司に声をかける。
そう。困っているのだ。ババ抜きの提案をしてからずっと、何かに困っている。
それが蓮司の嘘。おそらく。いや確実に、そこに勝負に勝つトリックを仕組んでいる。
そしてこのタイミングで一段と濃くなった動揺の色。なら確実に、カード捨てのタイミングで何かイカサマを仕掛けるつもりだ。
「え? あぁ……」
そう答え、蓮司は視線を手札のカード全てに向けた。こちらにジョーカーはない。つまり蓮司がジョーカーを所持している。
ここだ。ここの視線でジョーカーの位置を把握する。短期決戦である以上、たった一度でもジョーカーを引き入れてしまうと危険だ。ずっと蓮司の手札で眠っていてもらおう。
「よし……!」
忙しなく手札のカードを動かし、ようやく初のペアを捨てる蓮司。だが、
「ストップ。いま3枚捨てたよね?」
重なっているためわかりづらいが、あたしにはわかる。カードの枚数による厚み。それが明らかに通常よりも厚い。
「あ、あぁ……」
あたしに咎められ、蓮司は一番上にあったスペードの7を手札に戻した。もう1枚の7はあたしの手札にある。決めた。最後まで残すのはスペードの7とジョーカー。よく場所を覚えておこう。
「美季もカードを捨てろよ。俺の手ばっか見てないでさ」
「あぁバレた? 癖でね」
わかりやすいよ外村蓮司。具体的な内容はわからないけど、今のがイカサマの下準備でしょ? それさえわかれば充分。もうそのカードは引かないって決めたから。
にしても蓮司、中々できる。いや偶然だろうけど、動揺の色が濃すぎて中々ジョーカーを絞らせてくれない。
それにあまりにも無秩序なカード捨てのせいでスペードの7も見失ってしまった。全部重ねてシャッフルとかだったら覚えられたのに、厄介なことをしてくれる。
「……なんてね」
生憎そんな程度で妨害できるほど、あたしのギャンブル力は低くない。
確かに目線は行ったり来たり。わかりやすく絞らせてはくれないが、わずかに。注視しているカードが2枚ある。
中でも注視度が高いのがジョーカー。低い方がトリック絡みのスペードの7だろう。なぜなら人は、隠したいことからはなるべく目を背けるから。勝負の鍵は7。つまり7はわざと見ないようにする。でもどうしても気にはなるだろうから、注視度はこれで確定。
これさえわかればいくらシャッフルしたって意味がない。蓮司の視線で全部教えてくれるのだから。
……ただ。依然イカサマ内容がわからないのは懸念材料ではある。だからわかりやすく、してもらおうか。
「蓮司さぁ」
「ん?」
一番させやすく、一番思考を乱す感情。それは、怒り。
あたしはクスリと笑い、嘲るように言い放った。
「童貞でしょ」
「んだとコラァァァァァァァァっ!」
いや、わかりやすすぎ……。




