第1章 第31話 嘘 2
〇美季
あたしは人の真偽を見分けることができる。
と言っても確実に、ではない。精度としては60%~70%程度。あくまでも参考程度に、という感じだ。
その方法は、ただ人を見るだけ。表情、口調、声色、仕草、癖。人間が起こす全ての行動が、そのまま人間の思考を表している。
だから単純に付き合いの長い人の方が真偽の見分けがつきやすい。次点でそうだな、中途半端に頭がいい人。
頭がいい人間は嘘をつきたがる。自分の頭がいいことをわかっているから。必ず誰かを、何かを利用しようとする。何をするにも嘘がベースになっている。
さっきの子、斬華さんだっけ? それが典型的な例だ。負けが込み、自信喪失。怯えに怯え、真実を話すことを躊躇っていた。そんなわかりやすい人間に負ける可能性は皆無と言っていい。
あの子、蓮司の友だちの龍華さんは悪くなかった。本性をひた隠し、全てを嘘で塗り固める。真実はたった一つだが、嘘はそれ以外の全部。戦ってみたらそれなりに厄介だろう。
そして一番厄介な存在。それは、馬鹿な人間だ。
行動に一貫性がない。相手の思考を予測できない。ビギナーズラックとはつまり、そういうものの連続を指す。
だから、外村蓮司はあたしにとって、最も厄介な相手だ。それでも戦うことを選んだ理由は一つ。
それでもあたしは勝てるからだ。
「逃げるならいまのうちだよ、蓮司」
「馬鹿言え絶対脱がしてやる。それに、この状況じゃ逃げられないだろ」
「確かに」
怖いのでやっぱ辞めますなんて、もう言えない。こんなでかいステージに立たされたなら。
「レディースアンドジェントルメンっ! ただいまより、5000万ポイントを賭けたトランプ勝負が行われますっ!」
賭場中央にある巨大ステージ。そこがあたしたちの勝負の場だ。司会をするのは永夢さんの部下らしきバニーさん。ま、敵だと思ってた方がやりやすい。
「ゲームの内容はなんとババ抜き! 説明不要の超単純なゲームによって、5000万ポイントという大金の行方が決まりますっ!」
イベント終了間際で人が多い上に、これ以上の勝負を避ける人間も多い。通常のゲームでは考えられないほどの観客が周りを取り囲んでいるが、イカサマ対策のためかお互いの背面には観客は入れられていない。
「続いて対戦者の紹介を行いますっ! なんと所持ポイントは既に1億越え! 圧倒的なギャンブル力を持つ1年A組樹美季っ!」
「……どうも」
注目されることは慣れているが、得意なわけじゃない。まぁそんなんでペースを乱されるような雑魚ではないが、正直少し嫌な気分だ。
「バーサスっ! Z組でも侮るなかれ! 我らがオーナー永夢楠から5000万ポイントを借り受けた秘めたる実力者、1年Z組外村蓮司っ!」
「っしゃぁっ! 絶対勝つぞぉっ!」
こういう時馬鹿って強いよね。周りの声を素直に力にできるから。
「この勝負! 5000万ポイントに加え、外村が勝った場合なんと! 樹が服を一枚脱ぐことになっていますっ! 紳士の皆様、どうぞご期待をっ!」
「うおおおおおおおおっ!」
うわすごい歓声。蓮司の心をわかりやすくするために言ってみたけど、こんな下卑た視線を向けられると困るな。普通に気持ち悪い。
「ディーラーを務められるのは我らがオーナー、永夢楠っ!」
「ども~」
さてと、ここからが問題だ。永夢さんは確実にあちら側。イカサマの可能性は十二分にある。
「額が額だけに一応新品のトランプを使うね~? はいかいふ~」
「……見せてもらっても?」
「どぞどぞ~」
永夢さんからトランプを受け取ったが……正直現時点では普通のトランプに見える。背面は上下左右対称だし、印や傷なんかもない。ポーカーとかならディーラーの動きにも注目したいけど、ババ抜きにディーラーはほとんど絡んでこない。とりあえずスルーしとくか。
「蓮司くんも見る~?」
「見るといいことあるんですか?」
「蓮司くんにはないかもね~」
「じゃあいいっす!」
いかにもイカサマなどしていないと。自分はただの馬鹿だと。そうアピールしてるように、感じる。
「じゃあそろそろ、始めようか」
「おう! かかってこいやっ!」
でも外村蓮司は確実に何かイカサマをしている。なぜなら、
「でははじめます! 永夢様、カードを配ってくださいっ!」
ババ抜きを提案してきた瞬間から、彼は大きな嘘を一つついている。




