第1章 第30話 勝てる勝負
「斬華……どうしたんだよ……!」
涙を流しうずくまる斬華のもとに駆けつける。借金8000万がシャレにならないことくらい俺にだってわかる。斬華なら俺なんかよりもずっと事態の重さに気づいているはずだ。それなのに、なんで……!
「外村くん……ごめんなさい……」
「まさか……ギャンブルで……?」
「そ。その子無駄に大賭けしまくってたから。こうなるのも当然だよ」
前に会った時と似たパーカー、キャップをつけた美季が、アメを口から出して蔑むように言う。
「お前がやったのか……?」
「最後だけね。あと恨むならお門違いだよ? この負けっぷりはその子自身に問題があるんだから」
再びアメを口に咥え、つまらなそうに語り出す美季。
「あたしがここに来たのは昼3時くらいだったかな……。その頃にはもうその子はいて、負けに負けていた。イベント終了日。最後の抵抗でポイントを増やそうとする1年と、それを狩ろうとする上級生が大量にいたからさ。初心者が来る日じゃなかったよね」
「初心者じゃない! 私はちゃんと勉強して……!」
「それが初心者だって言ってるんだよ。ギャンブルで大事なのはトータルで勝つこと。小さく負けて大きく勝つのが鉄則。つまりは退き際だね。いくら勉強しようが、その感覚を養わないことには儲けようがない。大金がほしいからって大金賭けたらそりゃ大損だよ。ギャンブルはそう甘くない」
「でも……私は……!」
「おいちょっと待てよ! そんなことを訊きたいんじゃないんだよ!」
ギャンブルなんてどうでもいい。問題はなぜ斬華がギャンブルをしようと思ったかだ。
「なんでそんな大金がほしかったんだよ……。そんなに上のクラスに行きたかったのか……?」
「そんなのどうでもいいっ!」
ジャラジャラとうるさい賭場に、斬華の声が響いて溶けていく。
「私は……龍華に……ポイントを渡したかった……」
そしてその想いもまた、ギャンブルによって溶けていった。
「あの時……龍華が借金をした時……私は決断できなかった……。私が借金を恐れたせいで、龍華に背負わせてしまった……。だから……私はおねぇちゃんだから……龍華を助けないと……いけなかったのに……!」
龍華は斬華を嫌っている。こういうところを、嫌っている。
ノブレス・オブリージュ。いまだに意味はよくわからないけど、斬華を形作っているその精神が、とにかく気に入らないのだろう。
守ってもらうことは、下に見られていると同義だと。龍華は思っているから。
「……斬華の言いたいことはわかった」
龍華が栗中たちにポイントを貸したのは、たぶん斬華にいやがらせするためだ。自分なら迷いなくポイントを貸せると。自分の方が上だと言いたかっただけ。ただそれは龍華の理屈だ。斬華は違う。だから。
「龍華にポイントを返せばいいんだな?」
斬華はポイントを返したい。たとえ誰がどう思ったとしてもそれは変わらないだろう。
「美季、俺と勝負してくれ。ギャンブルで、俺と戦ってくれ」
なら友だちである俺は、その手助けをするだけだ。
「……いいけどさ。あたし、強いよ? 蓮司とは友だちだからさ、あんまりいじめたくないんだよね」
「知ってるよ。トータル……だっけ? それで負けなきゃいいんだろ。だから勝負は一度きりだ」
俺が自由に使えるのは10万ポイントくらい。どう賭けてもこれを龍華の借金400万にすることはできないだろう。だが、
「……永夢さん。俺に賭けたんですよね?」
「そうだけど……。蓮司くん、まさか……!」
「俺に賭けたんだ……。じゃあこれくらい、想像しとかないとな……!」
美季の所持ポイントは1億。ならこれくらい、受けられるはずだ。
「5000万ポイント賭け一本勝負! 勝った方が相手の5000万ポイントを奪える。残り時間も30分ないんだ。これに俺の全てを賭ける」
何度もやったら勝てないのはわかっている。だからこその一本勝負。俺に残された道はこれしかない。……永夢さんには悪いが。
「ごめんなさい、永夢さ……」
「アツイっ! やっぱアツイよ蓮司くんっ! あなたに賭けてよかったっ! きゃーっ! 上がる~~~~っ!」
……ぴょんぴょん跳ねて喜んでる。ひょっとしてあの人馬鹿なんじゃないか? 5000万だぞ5000万。ギリギリだって言ってたのにさ。
「目の前に落ちてる5000万を逃すなんて馬鹿のすることだよなぁ、美季」
「……あたしも半分くらい先輩から借りたお金だからさぁ……。あんまり無茶できないんだよね」
「じゃあ尚更だ。俺に勝てば1億が自分のポイントだぞ」
「悪いけど受けられないな。さっき言ったでしょ? ギャンブルは小さく負けて大きく勝つゲーム。一発勝負なんて怖いことできないよ。しかも1体1って言ったらメジャーなのはポーカー……」
「ポーカーはルールがわからないからナシだ」
「ふーん……じゃあルーレットとかに……」
そんなギャンブルの代表格みたいなの選んでたまるか。俺が勝てる可能性があるとしたら、あれしかない。
「ババ抜き。これで勝負だ」
たぶんだけど、ギャンブルでババ抜きはやらないだろう。美季の得意を避けるとなるとこれしか……。
「……ふ。あはは……!」
割と真剣にそう言ったのに、美季はとても楽しそうに声に出して笑い始めた。
「いやーごめんごめん。もしかしてババ抜きを運ゲーかなんかだと思ってない? あんなに実力がはっきりと出るゲームはないよ」
「じゃあ受けてくれるんだな」
「いいよいいよ。やろう」
よかった。これなら俺でも、勝てる。
「悪いけどババ抜きはあたしの十八番なんだよね。ただやるだけじゃ悪いからそうだな、負けたら服一枚脱ごうか?」
「っしゃぁっ! 永夢さん! イカサマ対策で美季のパーカー脱がせてくださいっ!」
「必死かよ……」




