第1章 第27話 優れた者の使命
「あんたこれどういうつもりっ!?」
4月も下旬に差しかかり、テスト勉強しよっかなーまだいっかなー。よし、明日からやろう! と思っていると、突然テントが開き、怒り心頭な顔をした斬華がスマホの画面を見せてきた。
「名簿……? ああよかったじゃん、まだ1位だ」
「そこじゃなくて、合計額! Z組の総ポイントが4900万ポイントになってるのよっ!」
……あーほんとだ。ついこの間まで5300万くらいあったのになぁ……。
「でも俺じゃないぞ?」
「んなわけないでしょっ!? 400万近くのポイントが一気になくなった! こんなの5000万ポイントを持ってるあなたにしか不可能よっ!」
「そうは言われても……」
俺の名前をタップし、所持ポイントを表示させる。5016万ポイント。それが龍華や斬華に奢ってもらった分を返し、これまでの生活費を差し引いた俺の総額だ。
「……ほんとだ。ごめんなさい、早とちりしたわ」
「別にいいけど、じゃあ誰なんだろうな」
斬華が一人一人のポイントを確認していき、見つけた。
「−300万と、−100万……!?」
2人のクラスメイトが、とんでもない借金をしているのを。
「あんたたち、この借金どうしたのっ!?」
さっそく斬華はテントを飛び出し、広場で談笑している2人に詰め寄った。
「あー……ギャンブルに負けちまって」
「俺はあいつらだよ、J組の2人に喧嘩売られて殴り飛ばされたらこの様だ。あいつらふざけやがって……!」
たいして悪びれもせず、平然とそう言い放つ2人。ギャンブルで負けて300万の借金を負ったのが、栗中鈍。慰謝料を支払い100万の借金を負ったのが、黒松影二。2人ともZ組の中でも特に派手なヤンキーだ。
「でも安心しろよ。今度こそ勝ってやるから」
「俺も行くぜ。学校に申請すればすぐに金が手に入んだろ? 一発当てればこんくらいの額余裕で吹き飛ばせる」
「なっ……ばっ……! この期に及んでまたギャンブルするつもり……!?」
斬華からすれば理解できない人種なのだろう。だが俺にはよくわかる。こうなったらもう、こうするしかないんだ。
「300万なんて大金、コツコツ勉強したって返せねぇ。なんせ利子が月1割。毎月30万以上払わないと借金が減らないんだ。だったらもう一発逆転! ギャンブルに賭けるしかねぇだろっ!」
「お前みたいな真面目ちゃんにはわかんねぇよ。追い詰められてる俺たちの気持ちはな」
「それができないから……あんたたちは……こうなってるんでしょ……!?」
斬華が正しい。正しいよ。だが間違ってるとわかっていても、人は進むしかないんだ。たとえ地獄に進むとわかっていても、引き返せない。
俺もわかっていなかった。初めに5000万なんて大金を見てしまったからだろう。たったの20万ポイントが人をこうまで変えてしまうなんて思ってもみなかった。
「ギャンブルなんて馬鹿な真似やめなさい……! これ以上借金したらもう取り返しが……!」
「もうとっくに取り返しなんてつかねぇんだよっ! それともお前が肩代わりでもしてくれんのか?」
「なんで、そうなるのよ……!」
「ずっと言ってんだろ。みんなのためって。俺たちにとっては借金を返すことが全てなんだよ。お前が全額背負ってくれるって言うなら俺たちもギャンブルなんてやらねぇさ」
……斬華にはきついかもな。正論しか言えない奴がねじ曲がった正論で返されると、何もできなくなってしまう。
「俺たちが望むのは一つだけ。借金400万……利子を含めれば440万ポイントの返済だけ。お前が肩代わりしてくれるなら勉強でも何でもやってやるよ。それができないなら邪魔だからどっか行ってろ」
斬華はこいつらに比べたら勉強ができる。借金を返済するのも斬華の方が早いだろう。
とは言っても440万ポイントはあまりにも大金だ。斬華がテストで手に入れたのは30万そこそこ。利子にも届いていない。とてもじゃないが、受け入れられない。
それは斬華だけではない。奈々でも、龍華でも……。
「わたしが返すよ」
返済できない、はずだ。それでも通りがかった龍華は、とても眩しい笑顔で借金の肩代わりを受け入れた。
「マ……マジかよっ!?」
「マジだよ。返済したらもうギャンブルしないんでしょ? ちょっときついけど、長期的に見たらたぶんこっちの方がお得だもん。でももうしてあげないからね? みんなにも言っといてね?」
俺の横に立ち、龍華はスマホで借金の申請をする。すると一瞬で龍華の残高が460万ポイント増えた。
「はい、栗中くんは340万ポイント。黒松くんは120万ポイントね。10万ポイントはおまけ。生活費に使って?」
「サンキュー! マジ助かったわっ!」
「この恩は絶対忘れねぇっ! マジサンキューな! 困ったことあったら何でも言ってくれ!」
「そんな、いいよ。それより勉強がんばろうね?」
龍華からポイントを受け取った2人は、心からの感謝の言葉を述べて走り去っていく。残ったのは俺と龍華と、斬華。
「あんた……自分が何したかわかってんの……?」
「うん。460万ポイントの借金。あー利子を含めたらもっとか。少ししんどいよね」
泣きそうな顔の斬華と、お気楽に笑う龍華。
「そんな大金……返せるわけないじゃない……!」
「そうだね……。3年かけてがんばって返してくよ」
2人の表情の意味は俺にはわからない。
「あんたがそんな借金する必要なんて、全然なかったっ!」
「ノブレス・オブリージュ。斬華ができないなら、わたしがやるしかないじゃない?」
それでもこの問題がここで解決することはないことくらい、俺にでもわかった。




