第1章 第23話 嘘
「あの子のこと狙ってんの?」
龍華と永夢さんを部屋に残して廊下に出ると、一緒に外に出た樹さんが唐突にそう言った。
「狙ってる……いや別に普通に友だちだからな……」
「そうなんだ。ずいぶんあの子に都合のいいこと言ってたから絶対そうだと思ってた」
壁に寄りかかりながら腰を下ろしていく樹さん。
「まぁ付き合えるなら付き合いたいけどな。でも向こうにその気はないっぽいし、まぁいいやって感じ」
「ちょっと待った。なんで正面に座ろうとしてるの?」
「パンツ見えるかなって……」
「隣。おいでよ」
「クソがっ!」
「そんなに……?」
仕方ないので樹さんの隣に座る。なんか高級そうなマット敷いてあって座り心地がいい。テントよりよっぽどいいぞ。
「にしても困ったなー。永夢さんに拒否されると中々しんどい」
「A組5人だもんな。でも他の生徒会の人に借りればいいじゃん」
「そうなんだけどさー。やっぱり永夢さんがいいんだよねー。交渉決裂してくんないかなー」
「やっぱA組残りたいんだ」
「そりゃね。でもそんなこだわってるわけじゃない。生徒会もできれば、って感じだし」
「美季クラスの人が5人もいればそれなりになんとかなるだろ」
「距離の詰め方えぐいね」
「気にする?」
「いや別に。あたしも蓮司って呼ばせてもらうね」
「ん」
そんな雑談をしていると、突然。
「あの子のこと、あんまり信用しない方がいいかもね」
さっきまでのトーンとは明らかに違う、低い声でそう忠告してきた。
「あたしさ、他人が嘘や本音がなんとなくわかるんだよ。仕草とか口調とか色々で。で、あの子の様子には嘘しか感じない。言い方が悪いかな。ずっと一定。嘘しかついてないか、本音しか言ってないか、だね」
「じゃあ嘘だな」
「ずいぶん冷たいね。そう思った理由は?」
冷たいのか? よくわかんないや。
「龍華は龍華のやりたいことをやってるんだと思う。それが他人を助けるため、なんてことはないだろ。あいつはあいつでいいんだよ。俺も俺がやりたいことやってるだけだし」
「その結果裏切られたとしても?」
「それはないな。あいつ俺のこと助けてくれるって約束したし。最終的には俺の味方してくれると思うよ」
「ずいぶん信頼してるんだね」
「騙そうとしてるな、なんて考え続けるよりずっと楽だ」
「はは、確かに」
「おまたせ~」
思ったことをただ口にしていると、部屋の扉が開き、龍華と永夢さんが出てきた。
「結果は?」
「交渉成功。5000万ぽいんと貸してくれるって!」
「おお! やったじゃんっ!」
笑顔の龍華とハイタッチする。信じてなかったわけではないが、少し意外な結末だ。
「条件は最初の契約書と同じ。5000万ポイントを借りる代わりに蓮司くんは生徒会選挙に出る。で、ポイントは即時借用。試験終わりに返却って感じ」
「蓮司くんスマホ出して~。残高画面で受け取りってあるから……そうそう。はい、どうぞ~」
「おお……! ありがとうございます!」
さっきまで0だった残高が、一気に5000万にまで増えた。これで一気にお金持ちだ。1ポイントも使えないことには変わりないが。
「じゃああたしはフラれた、って感じかな」
「うん。ごめんね~」
「いえいえ。じゃああたしはこれで」
思ったよりもあっさりと美季はその場を去ろうとする。だが龍華とすれ違う直前、
「忠告したからね、蓮司」
あえて大きな声でそう言い、今度こそ本当に去っていった。
「忠告って?」
「ああ、美季がずっと嘘ついてるって」
「……ふーん。そっか」
素直にそう答えた俺と、静かにつぶやく龍華。
「安心して、わたしは蓮司くんの味方だよ」
「知ってるって」
「ならよかった」
そう言った龍華の冷たい表情は、美季からの忠告を裏付けていたような気がした。




